第50話

【俺の妹になってください】


五十話


~ あらすじ ~


柏木に別れ話をした。柏木は納得はしてないだろうが、これも全部あいつのためだ。


*****


あー。だるい。


なんでだろ?こんなにダルいの久しぶりだ。


ベットから出たくない。


「はーるーきー?なんでここ閉まってるの?今日は学校よ?」


姉さんがドアをガンガン叩きながら怒鳴っていた。


もう朝か。というか姉さん。お前は俺の母親か?


ドアは昨日姉さんが入ってこれないように、ソファやらの重い家具を移動させて閉じたので、姉さんが入ってくることはないだろう。


……今日から学校?


ということは、あれから丸二日経ったのか………


学校に行っても多分、クラスの奴らからの罵倒が待ってるだろうし、なにより柏木とどうやって接せればいいかわからない。喧嘩なんかはよくしたが、それとは訳が違うもんな………


どんどんやる気がなくなっていく。


ゴンゴンゴンッ!!


少し無視すれば終わるだろうと思っていた「早く開けろよっ!」って時にする拳の小指側の側面をガンガンドアにぶつけるノックが未だに続いていた。


……………姉さんいつまでドンドンし続けるんだ?いい加減、ウザったいんですけど………


「春樹?本当に開けてくれない?化粧出来ないんだけど………」


あ………そういえば、化粧道具俺の部屋の中のままだ。


家具、退かすか……


重たい腰をゆっくりとあげ、のそのそとソファを動かし、ドアの前からどけるとすぐに姉さんが扉を開けて入ってきた。


「おはよっ!春樹っ!」


太陽のように眩しい笑顔で朝の挨拶を投げかけてくる。


「お、おはよ………」


とはいえ、今日の天気は晴れていない。俺の心のように曇っていた。


いくら姉さんが眩しくても、雲までは絶やせない。


「どうしたの?酷い顔してるけど?」


「かなりダルいしね……」


「大丈夫?病院いく?」


「大丈夫………今日休んでゆっくり」


と、病院に行くことを遠回しに拒否ろうとしたところ、姉さんが言葉を遮って「だめっ!今日は病院へ行くこと!」なんて言って俺の口に人差し指を押し当てた。


あざとい………姉じゃなければ惚れてるかもしれないレベル。まあ、妹にしか惚れたりしませんけどね。


「……もしかして、病院までひとりじゃ辛いやつ?なら、私休んで…………」


首をかしげ、きょとんとした表情を見せる姉さんはやはりあざといの一言に尽きるが、姉さんみたいな騒音機を物静かな病院になんかつれていけないし、俺も多分、周りからの目とかのストレスで偏頭痛持ちになるかもしれないので、ここは丁重にお断りさせていただく。


「大丈夫。一人で行けるよ。と、あとこれ。化粧道具。」


と、ピンクと白が主体の猫のキャラクターの描かれた化粧ポーチを渡す。


「……そう。じゃ今日は安静にね?」


「うん」


俺の返事を聞き終わると、絵に書いたような優しい母親のようなしっとりとした笑顔でゆっくりと扉を閉めた。


病院、行かないとな………


まあ、原因は一昨日のことだろう。本当に心と身体ってのは繋がってるんだな………


姉さんが部屋から出て言った後、俺はすぐにベットへ寝転がって仮眠に入る。


とはいえダルいのだが、眠いというのとは違うので、全然眠れなかった。


姉さんが学校へ行ってからというものの、家が無音過ぎて辛い。


あのスピーカー(姉)馬鹿みたいにうるさいしな………だが、今となってはいてくれたら良かった。と、少し後悔した。


寝れないので、とりあえず布団から出ると少し肌寒いが、顔の熱を冷ましてくれるので、少々心地よかった。


そういえば姉さんに病院行け。なんて言われたっけ。病院に行くってことは着替えないとな。………ちょっと着込んでいくか。冷やしすぎてもダメだしな。


なんて思いつつ、クローゼットの奥の方から冬用の服なんかを引っ張り出して着替え、そして、一階へ降りて保険証やらを財布にしまって病院へ。


*****


「あ、風邪ですね。季節の変わり目なんだから気をつけないとー」


「は、はぁ………」


病院にいくと、説教されて薬をもらって帰る。


ごく普通のことをして、家に帰るとさっさと二階へ戻り着替えて寝た。


*****


目を覚ますと、なんか、妹みたいな可愛い顔が目の前にあった。


「わっ!!」


驚きすぎて体を咄嗟に上げると、頭と頭がごっつんこ。


その可愛いのはベットから転げ落ちるとおでこあたりを抑えて「いてて………」と、呟くように言った。


「あ、ごめんなさいっ!!」


痛いとかいう前に俺はベッドから飛び降りてヘッドスライディング土下座を決めて謝っていた。というか、色々ツッコミどころ満載過ぎないか?訳分からんのだが………


「……というか、何故ここに?三ヶ森さん」


その体制のまま質問をする。


「お見舞いと今日配られたプリントとかですねっ!」


なんて言いながらバッグをがさごそと漁り、その中からプリントが顔を覗かした。


「そ、そうか………ありがとう」


流石に突っ込んでくれてもいいのに。立ち上がり、そのプリントを受け取る時に目が合ってしまい、目を逸らしながら礼を言うと、沈黙タイムが訪れた。


柏木以外の異性を家に上げたことがなかったので、かなり気まずい。


俺にどうしろってんだよ。


「帰ったよー春樹」


ノックもなしにズカズカと姉さんが部屋にと入ってきた。


「あ、あぁ……おかえり姉さん。というか姉さん。三ヶ森さん家にあげた?」


「うん。お見舞いって言ってたしねー。なんで?ダメだった?」


「そうじゃないけどさ………」


萌え死ぬだろ?やめろよな……


「もしかして、嫌でした?」


と、目をうるうるさせて上目遣いで見つめられる。


「い、いや、本当にそうじゃないんだけどね」


これは流石に口が裂けても言えない。というかわええー!!今すぐ抱きしめてやりたいですね。


「まあ、いいや。私は下に降りてるからー若いもんは若いもんで仲良くしなさいな」


なんて言い残して姉さんは部屋のドアを閉めて出ていった。


だからお前は俺の母親かよ。


そして、また訪れた沈黙タイム。


とりあえず、ベットに腰を掛けようと歩みを進めようとすると、立ちくらみで視界が一瞬真っ暗になりよろける。


あぶねえ。転けかけた………


「……大丈夫ですか?」


「う、うん。大丈夫」


そういえば体調悪くて休んでたんだったな。


ベットまでゆっくりと行き、腰をかける。


「ごめんね。三ヶ森さん。何も出来なくて……」


「………なんでそんなこと言うの?」


「だって、わざわざプリントのために家に来て貰ってるのに」


「風見くんは私を助けてくれた。」


と、俺が言い終わる前にいつもよりちょっと低めのトーンでそう言った。


「ねえ、風見くん。」


「は、はい?なんでございましょうか?」


こんな真面目な三ヶ森さんを見たことがなかったために思わず敬語になってしまう。


「………何かあったでしょ?あ、そういえば今日舞ちゃんも休んでたし………なにがあったの?」


やばい。一発で見抜かれた。


「えっと……それは………」


どうしよう。なんて言って切り抜けようか?これはあいつと俺の問題だ。三ヶ森さんには全く関係ない。いや、もう終わったんだし誰にも関係ない。体調を崩した俺の責任ってだけだ。なら、言う必要はないよな?


なんて思いながら三ヶ森さんに向き直ると、三ヶ森さんは物凄く真剣な顔をしていた。………言い訳なんて出来ない。俺のためにこんなに真剣になってくれてるのにそれは卑怯だ。


そして、俺は柏木と別れたことを伝えた。


三ヶ森さんは豆鉄砲を食らったような顔をしていた。


「………三ヶ森さん?」


「あ、ああ。ごめんなさい。あの、一つ質問なんだけど、本当に別れちゃったの?」


「………うん。」


「………そう、なんだね」


「……うん」


「でも、それだとおかしいよね。彼女を振る、彼氏を振るってことは以前の関係という訳ではなく、縁を切るってことに近いことをするってことだよね?んで、振った方は相手のことが嫌いだから振るんでしょ?なら、学校には来るはずでしょ?なのになぜ………」


確かに振った側は平然な顔で学校に行くだろう。振られた方は俺みたいに立ち直れないほどの傷を負うんだろうがな……


というか、俺が別れ話をしておきながらこれはおかしいな………


俺も未練タラタラなんだな。


畜生。なにか考えるたびにあいつの顔が浮かぶ。


なぜか血の味がした。


下唇を噛んでいたらしい。


「三ヶ森さん。俺さ、まだあいつの事が好きだ。でも、俺とあいつは対等ではない」


「そうですか?並んでる感じだとすごくお似合いですけどね」


「外面じゃない。中身だ。あいつは何でもできる完璧超人みたいな奴。だが、俺は………はっきり言ってマイナスポイントしかない」


「そうですかね?」


「自分でも驚く程にな」


「何を言ってるんですか?すごい優しいじゃないですか!ダンボール箱運ぶの手伝ってくれたり、私が告白して振られた時も慰めてくれたりして………どこがいいところないんですか?いい所以外見つかりませんよっ!!」


なぜか怒られた。


「俺はそんなにできた人間じゃない……文化祭でも見ただろ?みんなで頑張ってやってきたのに失敗して………」


「そんなの関係ないじゃないですか。風見くんだって人なんです。苦手なものくらいあるのは普通ですっ!というか、風見くんは舞ちゃんのこと好きなんですよね?」


「あぁ………」


「なら、それでいいじゃないですか」


「よくないさ。俺はもうあいつとは………あいつの横には居られない」


俺はもう、三ヶ森さんに向き合って話すことが出来なくなっていた。


「ヘタレなんですね。」


グサッとそんな言葉が俺の心を抉る。


「ま、まあ、なんとでも言ってくれ。もう決めたんだ」


「…………舞ちゃんはそんな理由で納得すると思いますか?」


「自己中だって言うんだろ?わかってるさ。自分がどれだけ愚かかなんて………言われるまでもない」


「風見くんは……私の好きな人は……いや、好きだった人は、自分の心に嘘をついて人を傷つけて自分も辛い?………悲劇のヒロイン気取りですか?」


「………そうじゃない。そうじゃないんだ……というかなにがわかるのさっ!!」


声を張り上げて怒鳴り、顔を上げると、三ヶ森さんは涙を流していた。


「………え?」


な、なんで泣いてるんだよ………自分のことでもないのに………


「私を殴りたければ殴ればいいっ!!舞ちゃんがそんなのじゃ可哀想だ!!」


涙ながらにこちらをギラっと見て睨みつけてくる。


だから、女の………妹の涙なんて反則に決まってんじゃねえかよ………


「………ごめん。今日はもう帰ってくれないか?」


またベットに腰をかけ一言そういう。


「………はい。また明日。風見さん」


「また」


そして、三ヶ森さんは部屋から出ていった。


「………悲劇のヒロイン……か。」

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