第30話
【俺の妹になってください】
三十話
~ あらすじ ~
賭大富豪で風見春樹の姉は姉さんの座を失い、柏木がその座に君臨した。そんな衝撃的なことが起きたのも束の間、三ヶ森さんから電話がかかって来た。あの件についての相談らしい。そして、いつものファミレスに集合したのだが姉さんこと柏木がそのファミレスに気やがった。
*******
俺が三ヶ森さんの横に座ってから、柏木がものすごく不機嫌そうストローでジュースをくるくる混ぜている。
「あの、風見さん」
袖をちょんちょん引っ張って小声で俺を呼ぶ三ヶ森さんはかわいい。
「ん?どうした?」
「柏木さんがすごく不機嫌なのですが、どうしましょ?」
「うん……そうだな……」
なんてあちらに聞こえないようにである会話をしていると、その不機嫌オーラ全開の柏木が深い溜息を吐いたあとに俺を睨みつけた。
こ、怖い……目を合わせてしまったので目をそらすにそらせないし、話しかけたら首を掻っ切られそうだ。
「ねえ。風見春樹くん?」
「は、はいっ!!」
「一つ聞きたいんだけど、横にいる三ヶ森美柑ちゃんとはどういう関係なの?」
「どういう関係……」
なんだろ?友達になるのか、相談できるお兄ちゃんになるのか……
「付き合ってるの?」
「いえ、それはないです」
妹と禁断の関係になるのは多分ない。姉もない。これは絶対だ。
「そう。まあいいわ。で?なんで二人は恋人でもないのにこんなファミレスで会ってるの?」
本当のことを言えば、納得はするだろうが妹のプライベートを言ってしまうのは俺は気が引ける。三ヶ森さんがいいと言うなら言ってもいいがそんなことは言われてないし、多分隠したいのだろう。柏木は結構鈍感だったりするので、しっかり言わなければ問題は無い。
好きな人ってそんなに言いふらしたりしたくないらしいもんね。
好きな人すらいない俺には誇りにも思えるが、好きとかってそんなことじゃないらしい。こんなことはこの現代、テレビやアニメでわかるのでこの際、俺の恋愛事情なんてどうでもいいだろう。
とりあえず、これ以上時間は使えない。いい言い訳を考えねえとまずい。話がこじれるからな。
「実は……相談を受けてもらってたんだ」
「なんの?それ、私には言えないこと?」
「……あぁ。言えない」
「そう……」
柏木は全く俺を疑ったりしない。なのでうまく騙せたってことなんだろう。
「だから、柏木。帰ってくれないか?」
「そうね。わかったわ。今日はこれで帰るわ」
そうして、柏木は反抗も暴れもせずただ帰った。
「帰っちゃいましたね」
「う、うん……」
俺は柏木の座っていた方に座り直し、話を進ませる。
「で?どこまで話が進んでたっけか?」
「あ、はい。確かプールか海かみたいな話でした」
そうだった。で、柏木の体の貧相さについて話していたら、殺されかけたんだったな。
「で、どうするんだ?どっちがいい?」
「うーん。じゃ、プールで。海だと焼けちゃうので」
「わかった。どうにかデートの算段は付けといてあげよう」
なんだかんだで多分デートはさせられる。そんな自信があった。
「ありがとうございますっ!じゃ、今日はここで帰りますっ!」
そう言ってお金だけ机に置いて、走って帰っていった。
よし、俺もいろいろやらねえとな。
そんなこんなで俺は柏木の家に帰った。
「ただいまー」
返事がない。まだ誰も帰ってきていないのだろう。
ん?
なぜか玄関に俺の持ってきた旅行バッグがあった。
そして、その上には小さなメモが乗っかっていた。
(これ、全部風見の荷物。纏めといたから帰って。もう姉の権利もいらない。舞)
そのメモにはそんなことが薄く書いてあった。
……なんか、俺したかな?
「柏木!!居るか?居ないのか?」
その場から叫んでみるが返事はない。
俺は靴を無造作に脱ぎ捨てて家に上がった。
「柏木!!居ねえのか?柏木!!」
叫びながらいろんな場所を見て回ったが柏木はいない。そして、最後に俺は柏木の部屋の前まで来ていた。
「柏木!!居るか?」
そうして扉を開こうとすると鍵がしまっていて開かなかった。
中からしか鍵はかけられないので、柏木は中にいるのだろう。
「柏木。そこに、居るんだよな?」
「……なによ?早く家に帰って」
小さく震えた声が扉越しに聞こえた。
「なにが気に入らないんだ?」
「別に。いいじゃない!早く帰りなさいよっ!」
ドンッ!!と、なにかを扉に投げたような音がした。
「………そうかよっ!わかった。お前がそんなんなら帰る!!」
俺はそんな柏木を俺は放置し、纏まった荷物を持ち、帰路についた。
******
何だよあいつ。流石にありゃねえぜ。俺が何したってんだよ。説明もなしにキレられても困るんだよ……俺、悪くないよな?
そうして、我が家が歩いてすぐに見えてきた。そして、久々のマイホームに足を踏み入れリビングまで歩いていくと、俺のリアル姉さんが一人寂しくぽつんとテレビを見ていた。
「……ただいま。姉さん」
「……春樹?なの?」
姉はまるで八年前に夫を戦争で失くしたと思っていたのだが、その夫が帰ってきた!!かのような反応を見せた。
「ど、どこでなにしてたのよっ!!」
そう言いながら俺の胸に飛び込んでくるやいなや胸をポンポンと叩き始めた。だからあざといんだって。
「柏木家から出てきた。というか、姉さん?一日も経ってないから泣くのはおかしい。」
「そ、そう……ね」
そう言って俺から離れて涙を袖で拭った。
「俺の姉さんは姉さんしかいないみたいだな」
「そりゃ、当たり前でしょ!?」
まだ目の周りは赤くなっているが、そういう姉の表情には笑顔がみれた。
*******
俺が持っていった荷物の服やらそういう奴を全部洗濯機にぶち込んで、あれやこれやしていると、もう日が傾き始め、夕焼けが階段の小窓から差し込んでいた。そんなのを横目で流しながら下の階のリビングに戻ると、姉さんが飯を作って待っていてくれた。
「あ、春樹。ご飯出来たわよ」
「おお!!やった!!」
久々の姉の飯は白米、味噌汁、サラダ、そして主食は俺の好きな和風おろしハンバーグだった。これにポン酢をかけて食べるのが最高だ。
そして、俺は手を洗ってからそれをゆっくりと食べ始めた。
「うまいっ!」
「それはよかったわ」
「姉さん。なんか、眠い……」
「ん?そうなの?じゃ眠っちゃいなさい?」
そういう姉には優しい笑みが見てとれた。そんな姉がどんどんとボヤていき、視界が闇に包まれていった。
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