第18話

【俺の妹になってください】


十八話


〜 あらすじ 〜


暇だった俺は四班の皆と集まって、いつのまにかその班ごとの宿題も終わり、せっかく集まったんだからということで船橋の大型ショッピングモールまで来ていた。


*****


「あ、折角だし、デートしない?」


柏木がショッピングモールの入り口付近で思い出したかのようにそう言った。いよいよ頭がおかしくなったか。狂ってるとは思ってたけどここまでとは………


………だけど、待てよ。三ヶ森は多分、山口が好きだ。ならば、これはこれでありかもしれない。


「じゃー。組み合わせは……」


そう言って仕切ろうとした時に、三ヶ森が熱い眼差しを送って来た。


“お願い。お兄ちゃん。山口君と一緒にして”と、言わんばかりだった。


俺も目で分かってるさ。と、返す。


「じゃ、柏木と俺。山口と三ヶ森さんでどうかな?」


「僕はいいですよそれでも」


イケメンは白い歯を覗かせて、イケメンな対応を見せる。


「………まあ、私もそれでいいわ」


柏木は呆れたようにそう言った。


柏木さんはなんとも言えないような表情を浮かべていた。


「………頑張ってね」


不安げな三ヶ森の横まで行ってそう一言耳打ちをしたら、三ヶ森はキョトンとした顔をする。まるで“なんでバレたの?”と言わんばかりだ。


それとは裏腹に柏木は顔は笑っているが、目が死んでいた。俺とは嫌か?……まあ、そうだよな。男らしいことなんて出来ないし……なにより、あいつとは最近すれ違い気味だ。


そうしてしまったことに後悔しても、もう後の祭りだった。


そして、二人は俺らに手を振ってショッピングモールの喧騒へと飲まれていく。柏木と二人きりで会うなんてことなんかは幼馴染だし、結構当たり前のようになっていたけれど、デートという名目で、となると緊張しないわけがなかった。


話せない……話さないといけないのに言葉が喉の奥で突っかかって上手くてでこない。


「………じゃ、行きましょうか」


「あっ!あ、う、うんっ!!」


声が裏返り、男だというのに少し高めの俺のボイスがさらに高くなる。


「な、なに?キモいわよ?」


「そ、そうだな。あはは………」


これじゃどちらが男かわからないな。


それから、柏木に振り回されるようにいろいろなショップに行った。俺は話題を提供してくれる柏木にうんうんとかそうだなー。なんて相槌をうつくらいで、それ以外は特になにもしなかった。あまりお出かけとかしない人間なので、おしゃれセンスなんてものは皆無だし、気の利いたことなんてできるわけがない。


それは柏木も口には出さないが、わかってるはずだ。


俺がそう言う人間だと言うことは。


だから、柏木はこんな立ち振る舞いをしているんだ。もっと柏木だってエスコートしてほしいって思っているはずだ。普通の女の子のように甘えたりしたいって………それくらいわかってるんだ。


はたから見れば、一つのカップルが楽しそうにデートしてるように見えるかも知れないが、それは嘘で紛い物なのだ。それを俺は知っている。


だから、一人勝手に俺はあの太陽のように沈んだ。


「どうしたの?」


外の空気を吸いたかったのか柏木は外に出て、一つ深呼吸をしてからそうきいてきた。その後についていく形で俺は歩いて横に並んだ俺は、高台から人混みををぼんやりと眺めていた。


「なんでもないよ……」


どうやら、空気を吸いたくて出てきたんじゃなく、静かな場所を選んでここまできてくれたらしい。


「じゃ、なんでそんな浮かない顔をするの?もしかしてつまらなかったかしら?」


「いや。本当にそうじゃないんだ。楽しかった。でも、なんていうか……その、辛いんだ。自分が情けなくてね………」


悔しいのか辛いのか自分でもそれがなんでなのかはわからないが、涙が溢れそうになる。それを抑えるために俺は空を見上げる。


「…………情けなくていいじゃない」


「………え?」


「私はあんたに同情することも出来ないし、なんであんたがそんなに悩んでるかも知らないし、言って仕舞えば知ったこっちゃないんだけど…………風見は風見でしょ?なら、それでいいんじゃない?」


「……………」


俺は言葉を返せなかった。ただただ黙る。


「あ。柏木さんと風見さん」


助かったのか不幸だったのか。そんな絶妙なタイミングで後ろから声がかかった。俺は振り返ることはなかったが、声で山口だとわかった。


「あら。二人とも偶然ね」


「そうですね」


山口の声は弾んでいるというのに、三ヶ森の声は元気のないものだった。


「そろそろ暗くなりますし、どうします?」


「えっと、そうねぇー。じゃ、そろそろお開きにしましょうか」


そして、俺らは帰路につく。


行きと同じように電車に乗り、最初にいた駅まで戻ってくる。


「じゃ、私はあのバスなのでっ!!」


丁度バス停にバスが来ていてそこに駆け足で挨拶をして、三ヶ森は俺らの『バイバーイ』やら『またねー』やらを聞き流しながら去っていく。


その後ろ姿を見送ってから、途中まで山口とも一緒に帰り、「僕はこっちなので」と、言うためそこで別れて、今はいつも通り柏木と俺だけだ。


「…………な、なぁ」


いつもならなにも話さないでも、なんでか居心地が悪かった。いつも通りのはずなのに、この状況で言えばそれは違った。


「なによ?」


彼女は驚いたした表情を浮かべながら、こちらに振り向き、まっすぐ見つめる。いつもなら話しかけたりなんてしないんだから、その反応は妥当だろう。


「あ、あのさ。……えっと、さっきはごめんな」


「………え?」


「さっき、と言ってもショッピングモールにいた時だけれど……」


「あ、あぁ。別にいいのよ。それより早く帰りましょ?風見のお姉さん怒ってるかも知れないし………」


そう言うと柏木は話の意図を理解したのか、冗談まじりにそういった。


「あ、あぁ!そうだな」


確かにそうだ。こんなことより早く帰らねえと。


一暗くなって来たし街灯やらでまあ、柏木が怯えるほどではない夜道だが、柏木を家まで送ってから俺は家に帰った。


「俺は俺………か」

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