第13話
【俺の妹になってください】
十三話
〜 あらすじ 〜
合宿が終わり、バスの中で橘という知らない奴が話しかけてきた。他愛のない話をして、いたら、バスが学校につき、家までの帰路につくと、柏木の様子がやっぱり変で訊いてみると逃げられてしまう。
*****
「ただいま」
家に帰ってくると、まだ誰も帰ってきていなかった。
時計は五時半をさし、そろそろカーテンを閉めて電気をつけないと暗いそんな時間帯だ。
そうして、電気をつけていつも飲み食いをするテーブルの上に手紙があるのに気づいた。
(仕事で今日は帰れなくなりそうなの♡だ・か・ら、二人でよろしく頼むねっ!いつでもかっこいい父と世界一美人な母より)
「………姉さん」
「なぁに?」
「これ」
と、そのばかな親の書いた置き手紙をきがえていた姉にすっと渡す。
「着替えてるんだけど?あー。なに?姉に欲じ………」
「うるさい。してない。黙ってそれ見ろ」
姉は顔をしかめてから、それに目を落としてぱーっと笑顔になった。
元気な奴だな。
「じゃー、春樹と二人きりなんだねっ!これは……はぁはぁ。間違いも起きる予感っ!」
なんて言いながら姉はキッチンの方へ行く。
「間違いってのは起きちゃいけないんだ」
俺はいつも飲み食いをしている自分の席に座りながらそう言ってやる。
「あー。春樹。買い物に行きましょうか」
冷蔵庫を開けてそういう姉を、ボケーっと眺めてみていた。
「わかったー。じゃ、行こうか」
そうして、姉と共に家から五分くらいに位置するスーパーに行く。
「姉さん。夕飯はなに?」
「んー。そうだねー。夜は長くなりそうだし……」
姉がなにかを企んでいる顔をして笑っている。これは危ないかもしれない。俺の身が。
家に帰ってくると、姉はルンルン鼻歌を歌いながら料理をし始めた。
なにができるんだろうか?
まあ、なんでもいいや。姉が作った飯に外れはない。そればかりは物心つく前から知っていた。
いっそ料理人になればいいのに。
そんなことを考えていたら、あっという間に飯が食卓に並べられていた。
すっぽん鍋、ニラレバ炒め、ニンニクのホイル焼き。
俺になにをさせようというんだ?
「なにって……ナニでしょ?」
「はぁ………」
大きな溜息が漏れる。さっき俺喋ってたのか。
本当にこんな姉は嫌だ。あざといなんて通り過ぎて下ネタまで使い始める始末だ。
小悪魔じゃなくなった。もう、あれは大魔王サタンとかデーモンとかルシファーとかそこらへんの奴である。
そして、あの嘲るような笑顔。なにかしでかしそうで怖い。
まあ、ご飯は美味かったんだけどね。
そして、満腹になりそれから数分経ってから、風呂に浸かる。
当然一人だ。
風呂はいい。一人でゆっくりできるし考え事だってできるしな。
柏木はどうしてるだろう?元気かな?
そんなことを考えていると、扉が開いた。
「はーるーきーっ!!」
「あぁ!?」
姉が青色の下着姿で風呂場に突っ込んできた。
「変な声出しちゃって。ふふっ!」
「ふふっ!じゃねえんだよっ!お前わかってる?俺思春期、君大人」
と、大切なところを隠しながらそう言ってみると
「えー?心は三歳児だけど?」
姉は無邪気に笑ってそう言う。
「もう黙れ。そして、なんでやるなら全裸にしなかったんだよ」
溜息まじりにそう訊いてみると
「え!?だ、だって……恥ずかしいし………」
姉は頬をボッと赤く染めて俯き、それは純粋無垢な少女のようだった。不覚にも俺はときめき、言葉を失ってしまった。
急に女の子の表情すんなよ。可愛いじゃねえか。
「わ、私、着替えてくる」
「もう来るんじゃねえ」
姉はあたふたとして出て行ってしまった。
一難は去ったな。
でも、姉はまだ何かして来る可能性がある。
あんな精力増強の為の飯を俺にたんまり食わせたんだ。なにもないわけがない。
そして、俺は風呂から出た。
いつも通りに身体を拭い、猫の描かれたパジャマに着替えてから俺は、自分の部屋にトロトロとのんびり行く。
「ひゃんっ!!は、春樹ぃ……」
自分の部屋に戻ると、何かが変な声を上げながら俺の布団の上で蠢いていた。電気も丸電球で薄ら明るいくらいなので、あまり見えないが、姉がなんかしてるんだろう。と、想像することくらいはできた。
「お邪魔しました」
「ま、まって!!これは違うの!」
ドアを閉めてやろうと思ったところで、そんな声がかかる。
「なんだ?姉さん」
「えっ?襲ってくれないの?」
その蠢いていた正体は姉だった。
予想通りである。
電気をカチカチして明るい電気をつけてみると、姉は服をはだけさせてみっともない姿をしていた。
谷間やら下着やらは見えているが、ダメなやつは見えてない。
「色っぽいでしょ?でも、放送出来ちゃうよ?」
「いいんだな?姉よ。その姿を本当にわらわら動画で上げちゃってもいいんだな?」
と、携帯のカメラを向けてそう言ってみると、姉は「春樹のばかぁぁ!!!!」なんて叫びながら部屋から飛び出していった。
姉が去った後、なんだか疲れがどっと出てきて、そのまま布団に飛び込み目を閉じると、すぐに眠れた。
翌朝、足は筋肉痛で痛いし頭ガンガンするが、学校だ。
渋々、俺は制服に着替えて学校に向かう。
柏木が自分の席で本を読んでいた。
まあ、当たり前といえば、当たり前なのに、少し驚いた。なんでだろ?
柏木の前の席なので、俺はそこに座る。
俺がきたことに気づいていないのか、奴は俺にパンチやらキックやらを入れてこなかった。
そして、ホームルームが終わり、授業が始まる。
いつも周りに迷惑をかけないくらいにうるさくする後ろのチビが、今日は静かだ。
それはいいことのはずなのに、俺はなんでか充実感がなく、虚しかった。
そして、昼休み。みんなが学食やらに行って飯を食ったりする時間。俺は柏木といつも一緒に昼飯を取っていたのだが、柏木が声をかけてこない。
こっちから誘うことは一度もなかったので、俺は後ろに座っていた柏木に話しかけれずにいた。
「一緒に昼食べようぜ」
なんて、その一言がなんだか重い。いや、気恥ずかしいのだ。
柏木は自分で持ってきていた弁当を取り出して、一人で黙々と食べ始めた。
「……………あ、あの………」
そんな時。三ヶ森さんがか弱い声で話しかけてきてくれた。
「はっ!な、なに?」
色々テンパりすぎていて、変な声が出た。
「よ、よかったら…………一緒にご飯。………食べませんか?」
上目遣いに俺が少し大きな声を出したから、ちょっと涙目になってるとか、妹(最強)だな。
「いいよ」
そんな三ヶ森さんに目を奪われたが、なんとか踏み止まってそう返す。
「あのさ、柏木も誘っていいか?」
「はい」
「柏木。今から飯どう?」
三ヶ森さんのお陰で誘う訳を見つけれた。
気恥ずかしかったのは、誘う理由がなかったせいだろう。
それから暫くして、柏木が口を開いた。
「………いいわよ。意気地なし」
柏木は笑ってそう言った。
「一言余計だ」
「本当のことを言ったまでですー」
「うるせーチビッ!」
小学三年生くらいが考えそうな悪口であるが、これ以外に悪口を言えそうな箇所が無いので勘弁していただきたい。
「ちっちゃくないもんっ!!」
「どこが小ちゃくねえんだよ。全部ちっちゃいだろうがっ!」
苛立ちに任せてそう言い返すと、柏木は呆れたように首を横に振ってから「心が大きいのよ」と、言い放った。
「そんなこと言ってる時点で小さいよね?わかろうか?」
二人でそんな言い争い。なんだか久々で懐かしい気持ちになって口元が緩む。また、楽しく話せた。
「あ、あの……昼休み終わっちゃいますよ?」
俺の右袖をちょんちょんと引っ張って三ヶ森さんがそう言う。
「そうだね。じゃ、飯食おうか。俺は弁当あるし、三ヶ森さんは?」
「あ、私も弁当ですっ!」
「あ、みなさん。今からお昼ですか?」
歯をキラッとさせて、はにかむイケメンといえば山口しかいない。
「そうだな。一緒に食べるか?」
「あー。じゃ、是非」
そうして、昼飯をあの時の四班のメンツで食べる。
俺も弁当を食べようと弁当箱を開くと、皆が皆、俺の弁当の中身を見て唖然としたのは言うまでもなかった。
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