第6話

【俺の妹になってください】


六話


姉を班に入れてよかったこと。一年前、俺たち同様に姉もここにきたらしく色々知っていた。


だから、野外炊飯ができる場所で俺たちを待っていたイケメンくんこと山口くんにも再会できた。


………くらいかな?


あとは、いいことなんてなかった。無駄にでかい胸を押し付けてくるし、俺と同じシャンプー使ってるはずなのになんかすげーいい匂いだし……って、これはいいことなのか!?


そして、今俺らはすぐ横にある食べるために用意されたような椅子やらテーブルやらがいっぱいあるところの端の方に座る。


そして、目の前にはイケメン君が暇だったからと、一人で作ってくれたカレーが目の前にはあった。


それを食らう。


……普通にうまいけど、俺的には妹が頑張ってお兄ちゃんのためにって作ってくれたあんまり美味しくないくらいのカレーが良かったんだけどな……


「………なんか、ごめんな。山口」


そんなことを考えながらだが、義理的に社交辞令的に一応、謝る。


「ううん。別にいいよ」


軽く首を横に振ってそういう。


俺の姉には少し驚いていたが、何事もなかったように五人分のカレーを用意してくれた。


はぁ。……なんでこいつはこんなにいろんなの持ってるんだ?神様は不平等過ぎる。俺には何も持たせずにこの世界に下ろしたくせに、山口君は全部持ってるじゃないか。


イケメンで料理もできるとか……あ、そうか。お前、わかったぞ。………本当は偽名使ってるだろ?


お前の本名は多分、出来杉だ。頭も運動神経もいい奴だろ?いわゆる模範生。


それにプラス、魔法のような道具がいっぱい詰まったポケットを持ってるまであるな。


「「ごちそうさまでした」」


と、合掌。


「んじゃ、みんな。キャンプ場に行こうか」


姉がその後仕切るようにそういう。


ここのすぐ横にキャンプ場がある。


「あ、はい。テントの張り方わかるので僕も行きます」


「わ、私も………」


爽やかイケメンはテントの張り方もわかるらしい。はぁ。嫌だ。


「じゃ、片付けは俺がやるわ」


なんでか片付け立候補してしまった。


そして、俺はみんなの食器を持ってそれぞれ小屋から出る。


空はうっすらと藍色になり、海に沈む太陽がオレンジ色に輝くそんな黄昏時。


俺は一人学校の外にあるような蛇口のいっぱいついた水道で皿洗いをしていた。


一人っていいよなぁ気楽で……家に帰っても俺はあのあざと姉さんに色々邪魔されるし、一人でいれる時間ってのはあんまりない。


はぁ。……妹欲しいなぁ。


「妹?ん?なに言ってるのよ?」


と、背中をちょんちょんされる。


「うわっ!な、なんだよ!」


後ろを振り向くと、赤みがかったポニーテールが悲しげにしょんぼりとしていた。


「そ、そんなにビビらなくてもいいじゃない………」


マジでビビった……。声漏れてたのか……


「あ……ごめん。で、なんだ?柏木」


皿洗いに戻りながらそう聞き返す。


「えっ?えっと……あんたが一人で皿洗ってのは違うじゃない?あ、私、リーダーだし!」


「あっそ」


話すことがないのだ。会話は起きない。カシャカシャ。と、皿がぶつかったりしてそんな音を出すが、この周りの林は静まり返っていた。でも、その静寂は悪いもんじゃなかった。


「じゃ、私はこれ片付けてくるわね」


皿洗いがおわり、食器やら使ったもんは全て洗って返す。それが決まりらしい。


「………ん」


手を差し伸べる。


その趣旨がわからないのかやつはぼけーっとこっちを見る。俺には殴ったりして気付かせるくせに、わからんのかよ。


「………貸せよ」


「………あ、ありがとう」


と、目をそらす彼女の頬は夕日にのせいか赤くなってるように見えた。


*****


辺りも暗くなり、俺らが片付けてキャンプ場に行くとそこは、同じ制服の人間がゴロゴロといて、駅前の商店街のような賑わいを見せていた。


はっはっはー!!人がゴミのようだ!なんて、大佐のようなことを思いながらこんな中からあいつら探すの大変だなぁ。と、頭を抱えそうになっていると、その人混みから一人、こちらに駆け寄ってくる人影があった。


「あ、なに?デート中?」


一言目がそれかよ。姉さん。


「………そうなの?」


俺は姉さんと話すのが乗り気ではなく、横にいるチビに訊いてみた。


「………え?し、知らないわよっ!!」


約三秒くらい空を見上げてボケーっとしてから、柏木はそう答える。


「そんなに怒らんでも……」


「あはは……。やっぱり二人は仲良いね」


苦笑してながら姉はそういう。


「姉さん。テントはどうなった?手伝おうか?」


「あー。別にいいよ。もう終わったし、じゃ、戻ろうか」


姉に連れられて俺らはテントの前に来る。


少し大きめのピンクっぽい色を基調とした、いかにも女の子っていう感じの大きなテントと、森の中に紛れれるような迷彩柄のひとまわり小さめのテントが二つ張ってあった。


本当に終わってるんだな……


「あ、二人とも。おかえり」


イケメン爽やかくんは、テントから出て来るときも清涼感満天だった。


「うん。ただいま」


そして、山口くんが出てきた横のピンク色のテントからは可愛げな女の子が出てくる。


「………あ…………おかえりなさい」


俺らを認識すると三ヶ森さんはご丁寧に頭を下げる。


「あれ?三ヶ森さんどこかに行くの?」


「あ、えっと………これから荷物を取りに行って………お、お風呂に行こうかなーって………」


恥ずかしそうに目をプイッと逸らして、胸の前で人差し指と人差し指の先をあててツンツンしてる。かわいい。


「そうねー。汗でベタベタよね……制服」


柏木は嫌な顔をしながら、ブラウスを襟を片手で摘んでパタパタする。その度に鎖骨がチラッと見えて俺の胸は高鳴る。なんでかな?あいつの胸はないのに………


「……と、とりあえずものを取りに行こうか」


「そうねー。行きましょーか」


そうして俺らは祭りのように盛り上がってるキャンプ場から離れると、そこから先は人間が作る光はなく、月明かりだけが俺らを照らしてくれている。


「ね、ねえっ!」


急に大きな声を出すリーダー。


「ど、どした?」


「ら、ライトとか……ない?」


下を向いちゃってるので表情は窺えないが、その声は震えていた。


「……もしかして怖いとか?」


「………こ、怖くなんか………無いわよ……」


言葉では強がっているが、彼女の足は生まれたての子鹿のようにガクガクと震えていた。


まあ、知ってたし、ここで行動で示さなくたっていいのに……


中学二年の自然教室でいった千葉村でワンワン泣いてたもんな。


だが、ここにはライトはない。


「ごめん。ライトはないみたいだ」


世界の終わりでも見たのであろうか?柏木は膝から地面に崩れ落ちて手をつき、動かなくなる。


「おい。どうしたよ?」


「…………り」


なにか言ったようだが、声が小さすぎて聞き取れなかった。


「ん?なに?」


しゃがんでそう訊く。


「…………無理」


………無理か。


これは、リーダーを支えるためだ。サブリーダーの俺がやってやらねえとな………


俺はやつに腕を差し出す。


あ、これは食わせて元気にするとか、警察犬みたいに噛みつかせる訓練という訳ではない。


「………腕に掴まっても良いぞ」


というと柏木はなにも言わずに、俺の腕をぎゅっと抱きしめるように掴み、月明かりに反射する潤んだ瞳がこちらを見上げる。彼女は顔をポッと顔を真っ赤に染めて腕に顔を埋める。


………お前そんなキャラだったかよ。


こっちまで恥ずかしいじゃねえか……


*****


道中も彼女は必死に俺の腕にしがみついてきて、小さいくせに柔らかな感触が右腕を通して伝わってきて、俺の理性が危なかったが暴走には至らなかった。


よかったよ。これが三ヶ森さんだったら俺は多分出血多量で死んでいる。


そうこうしてるうちに目標地点に到着した。


「…………おい。着いたぞ」


というと、彼女はゆっくりと俺の腕に埋まらせていた顔を上げて、おそるおそる周りを確認する。


「もう建物の中だ」


「………そ、そうね」


というも、彼女の腕は俺に抱きついたままだった。


「………あ、あのさ、そろそろ離れてくれないかな?」


目線が痛かった。


班の人たちは理解してくれているからいいけど、ここ入ってからすれ違う奴らに『うわー。ロリコンがいるよ』みたいな痛い目線を送られる。


酷くないですか?周りの人。この人一見小学生に見えますが、一応高校生なんですよ。うちの制服を着たコスプレイヤーとかじゃないんですよ。


「あ………ご、ごめんっ!」


「………べ、別に」


熱でもあるみたいに恥じらいの表情を見せるのやめてもらっていいですかね?………そんな乙女な反応されるとこっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃねえかよ………


「あ、あの……え、えっと……」


と、手を後ろで組んで、いつも強烈な蹴りをかますしなやな脚をすり合わせて、もじもじする。


「どした?」


「あ、ありがと………」


「お、おう………」


………やっぱりさっきからこいつも俺もおかしい。なんであいつがあんなに素直なんだよ。あいつなら蹴りの一つや二つかましてきそうなのに………あのカレー惚れ薬かなんか入ってたか?


「…………あ、あの………荷物取ったら入り口で集合。…………いいですか?」


動くたびに無駄に可愛い三ヶ森さんが可愛い口調で可愛くそういう。


あー。やっぱりこれは惚れ薬入ってるだろ。いいえ。ただのシスコンです。


「え、えっと………」


「………あ、うん。そうしようか」


俺の妹が可愛すぎて反応が出来ない訳がない。


うん。これはきっと疲れてるんだ。お風呂に入れば全部流れ落ちるさ………


そして、俺らは別々に自分の荷物の置いた場所に行く。


「姉さん?なんでこっちに来るの?」


「だって、私の荷物もこっちだし?」


「あっそ」


俺の後ろをついて来る姉。


そして、俺は荷物を入れて置いたロッカーを開ける。


「姉さん?」


「なあに?」


「こっちがなあに?だよっ!!さっきからなんなんだよっ!!」


「あー。だってー。私の荷物もこれに入れたし?」


と、俺の持ってきた着替えやらを入れる荷物を指差す。


「………え?いつ?」


「今日春樹くんが家を出るときに入れたよ?」


あー。丁度柏木が家に来た時か。俺は外見てたし、なんかドアが閉まった音したし。


「はぁ……用意周到だな」


「それはどーも」


姉さんは柔らかく微笑む。別に褒めた訳じゃないんだけどな………


そうしてそのバックのチャックを開くと、そこからはワサっと俺の私服やら女用の下着やらが飛び出して来た。


「………本当に入ってるし」


マジで呆れたわ。この姉。マジ呆れ姉さんだわ。


「わーお、春樹くんテキトー」


「急いでたしな……んなことはどうでもいい。早くいこうぜ」


私服やらを学校指定のリュックに詰め込んでいると、姉さんが俺の視界に出たり入ったり………


「………姉さん?」


「なぁに?」


お前どう考えたって構ってちゃんだったじゃねえかよ………


「はぁ。一通り俺は終わったし姉さんもやれば?」


「あー。うんっ!わかったー」


「どっこらしょっ!」


その声と共に俺は立ち上がり場所を開ける。


「わー。春樹くんおじいさんっぽい」


「はいはい。早くしてねー」


ため息混じりにそう答えてから俺は近くの壁に寄りかかって姉を待ってから、俺らは集合地点へと戻るともうみんなが待っていた。


「じゃ、みんな揃ったし温泉へレッツゴー!」


「「「おー!!!」」」


最後に来たのは俺らだというのに嬉々とした声を上げる姉につられるようにして、俺らも歓声を上げてしまった。


はぁ。やっぱり俺は疲れてる。

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