第12話 パーティアタック(多人数連携戦闘)

 新米狩猟士ロォズ(ランク8)に、徒党を組んでの狩猟の仕方コツを教えることになった元・異世界人/現・上級狩猟士のリーヴ。「できれば4人くらいで臨時徒党を組めれば……」と思っていたところに、運良くロォズの知人であるふたりの新米狩猟士──ヴェスパ(軽弩使い・ランク9)とノブ(重槍使い・ランク8)と出会い、今日はこの4人で依頼クエストを請けることになりました。


 「確かこの地方ちかくにいる手ごろな大型獣は、メガバフズとホーンドバニー、ヒュジイグアンぐらいだったと思うが、それらを狩る依頼は出ているか?」

 大型獣というのは、一般的に見受けられる動物たちとよく似てはいるが、明らかに一線を画して大きい(ただし巨獣程ではない)近縁種的な生物を指します。

 大柄な体格に見合って体力や攻撃力も高く、しかも普通なら比較的おとなしい草食動物などであっても、大型獣になるとかなり気性が荒くなり、人間に対しても攻撃的に振る舞うことが多いようです。

 まったくの一般人しろうとや、狩猟士登録したばかりの駆け出しにとっては、遭遇≒死を覚悟しなければいけない強敵ですが、下級以上の狩猟士にとっては「鼻歌混じりに狩れる小遣い稼ぎの種」程度の存在だったりします。

 ただし、大型獣は個体数がそれほど多くはないので、狩猟士協会が乱獲を防ぐため、“依頼を出す”という形で狩る数をある程度コントロールしているのです。

 「リーヴ殿、この辺りですと、他にメガマーントも棲息しているはずでありますよ!」

 「少し北に向かえばグランディアもいると聞いていますけど……」

 ヴェスパが挙げたメガマーントとは昆虫種の大型獣で、簡単に言えば人間大のカマキリのような肉食生物です。

 普通種のカマキリに比べると、腹部が若干スリムで、かつカマキリのように柔らかくはありません。俊敏かつ獰猛、空も飛べるうえに頭部も普通種と比較して顎の部分が発達していて、人の腕に噛みついたら、あっさり噛みちぎるくらいのことはしてきます。

 対して、ノブの言うグランディアは蹄獣種の一種でヘラジカに近い大型獣です。

 見た目的には“真黒なトナカイ”といった趣きですが、体長は約3.5プロト、肩高は3プロト弱と地球の馬よりもふた回りほど大きく、その巨体の割に動きが速いため、敵対した時の脅威度も高くなっています。

 「そのふたつは、ランク10未満の者が狩るには少々危険度が高い。油断していると、下級に上がったばかりの狩猟士でも大怪我することがあるからな」

 リーヴの言う通り、ランク10前後の狩猟士が、毎年何人かはメガマーントの鎌やグランディアの角にかかって、再起不能ないし死亡に追いやられています。

 「それを言うなら、ホーンドバニーあたりも新米狩猟士にとっての登竜門だって聞いたことあるよ? ボクらで大丈夫かなぁ」

 ホーンドバニー(有角兎)は、ランプヘア(瘤兎)の上位種で、形状的にはほぼ相似形ですが、大きさがツキノワグマほどもあり、かつ頭部のコブが完全に角と言える形状に変化しています。

 気性も荒く、外敵に対して逃走より反撃を選ぶことも少なくありません。

 「いや、アイツは角による突撃にさえ注意していれば致命傷クリティカルは防げし、言われるほど危険な相手じゃない」

 ちょっと不安げなロォズに、リーヴは過度に怖がる必要はないと諭します。

 「とは言え、複数で囲んで叩くのには動きがトリッキーで少々やりづらいのも確かか。メガバフズかヒュジイグアンの依頼があればベストだな」

 “尻尾も含めた全長が3プロト程の大きさのトカゲ”といった趣きのヒュジイグアンは、大型獣と呼ぶにふさわしい鱗の堅さや驚異的な体力などを備えていますが、その反面、動きが単調でやや鈍重、かつワニなどに比べて顎も小さめなので噛まれた際の危険度も幾分低め──と、新米狩猟士にとっては有難い要素が揃っています。

 「リーヴ殿! ヒュジイグアンの革10頭分を納品する依頼が出ているであります!」

 掲示板の貼り紙をチェックしていたヴェスパがソレを見つけてきたので、リーヴ一行は受付嬢に確認の後、その依頼を請けることになりました。


  * * *  


 カクシジカの門から徒歩で南に2時間弱と、昨日ランプヘアを狩った場所よりさらに遠い地域まで来た私達は、協会が設営済みの拠点ベースにいったん入って、今回の狩猟に関する最終確認ブリーフィングことになった──というか、教導役の私がそう指示した。

 「では、基本となる流れを確認しておく。まずは、“斥候”技能スキル持ちの私が先行して、獲物ヒュジイグアンを見つけたら引っ張ってくる」

 『HMFL』はアクションゲームなんで能力値等は成長しないが、特殊な依頼クエストをこなすことで、ゲームに役立つ便利な技能を教えてもらえることがある。

 “斥候”もそのひとつで、自らの気配を殺しつつ、巨獣や大型獣の位置をある程度遠くから感知できるというもの。“隠密”と“索敵”を持つ上級狩猟士のみが取得できる複合スキルだ。

 技能そのものはいくらでも覚えることができるが、(ゲームでは)依頼中に発動できる数は3つまで(下級は2、新米は1)と決まっていたので、複数の効果を持つ技能はなかなか便利だったりする。

 『HMFL』が現実化したこの世界ではどうなるのか──と思っていたら、さすがにここはある程度ファジイなようで、その気になれば4つ以上の技能も発動できるみたいだ。

 ただし、「技能の効果を発動する」=「その間、気力の上限値が減る」ようなので、あまりたくさんの技能を発動することは現実的じゃない。実戦では、やっぱり3つくらいが限界と見ていいだろう。

 (4つも発動すると、体感的に気力が半減した気がするしなぁ)

 気力が半分になっても普通に行動することはできるけど、全力で行動するためにはその気力の消費が必要だから、危険いざという時のリカバリーに不安が残るし、避けたほうがいいと思う。


 ちなみに、今の私はさっき言った“斥候”のほかに“指導補整”という技能も発動させている。

 これは本来「同行するアシスタントの成長を促す」というアシスタント用の技能なんだけど、もしかして今回の私は(誰かが生死の危機にでも陥らない限りは)先生役に徹するつもりだから、もしかして生徒側の3人にも何らかの効果があるかもしれないと思って使ってみたのだ。

 効果のほどは……まぁ、今回の依頼が終わってから確かめてみるかね。


 そうそう、“アシスタント”ってのは、並人種ヒューマンに友好的な獣人種の3種族──立猫族ケトシー狗頭族コボル小猿族マンクスから志願者と契約して、狩猟時の文字通り「支援役アシスタント」として同行する制度システムを指す。

 この3種族はいずれも小柄(身長1メートル位と3、4歳児並)で力もそれほど強くないから、純粋な戦力としてはあまり期待できないけど、巨獣の意識を逸らす囮役を務めたり、今回の私みたく先行して獲物を釣ってきてくれたり、気配察知が苦手な狩猟士に代わって辺りを警戒してくれたりと、何かと役立つのだ。

 当然のことながら、このアシスタントも新人と熟練者ベテランでは技量に雲泥の差がある。その技量は実戦かりの場で磨かれることになるんだけど、ゲームでは、同行する狩猟士が“指導補整”スキルを装着していると、その上達が早くなる──という仕組みだったんだ。

 昨晩、神様から受け取った“上級狩猟士の常識”のおかげで、この世界でもアシスタントは、ほぼ同様の形式システムとして存在していることはわかっている。

 ただ、『HMFL』のゲーム内ではアシスタントは各プレイヤー(のアバター)と専属契約する形で4体まで雇うことができたけど、こちらの世界では各協会の支部に所属して、依頼の都度契約する臨時の助っ人的扱いになってるみたいだ。

 今回は、そのアシスタントは連れて来てないけど、この3人を私が指導するのだから、もしかして“指導補整”が有効かもと思って念のため発動させている。「多少なりとも効果があればめっけもん」くらいの期待度なんで、まったくのお門違いでも別に問題ないし。


 閑話休題それはさておき


 「リーヴさんが釣って来た標的に対して、まずは僕がひと当たりして注意を引き、そのまま盾を構えて防御態勢に入る」

 「そうなったら、今度は自分とロォズ殿でヒュジイグアンの側面、できれば背後から交互に弓と弩を射かけて、徐々に体力を減らすのでありますな!」

 うんうん、ふたりともキチンとわかっているな。

 「えーと、注意すべきなのは、あまり連続して攻撃しすぎないこと……だっけ?」

 ロォズはこういう集団連携狩猟に馴染みがない分、不安そうだ。

 「たとえば標的あいての立場になって考えてみればいい。同時に3体の虫にたかられたとしても、一番頻繁に攻撃してくる虫を特に鬱陶しく思うものだろう?」

 「だから、僕が防御しつつも隙を見て重槍でちょっかいをかけて相手の注意を逸らさないようにするんですよね」

 うむ、模範解答パーフェクトだ、ノブ君。

 無論、今回相手にするヒュジイグアンは巨獣ではないし、大型獣としてもそれほど格の高いものじゃないから、3人が連続して攻撃すれば1分も経たずに倒せるだろう。でも、こういう形で連携の基本に慣れておくことは、今後より格が高く危険な獲物と相対する際にも絶対に役立つし、「生涯ソロハントを貫く!」とかの変なこだわりがない限り、知っておいて損はない。


 「よし、では、以後の方針として、4人で拠点より出発後、3人は獣道沿いに少し開けた場所まで進んで待機。私は、そこから釣り出しに出る。何か質問は?」

 「ハイ」と手を挙げたノブ少年に視線を向けて、発言を促す。

 「移動時の隊列などはどうしますか?」

 「基本は2×2、ただし間に人ひとり余裕で入れるくらいの間隔を空けて進む。隊列は右前に私、左前にロォズ、右後ろにヴェスパ君、左後ろがノブ君だ。狭い道などを縦一列に進むときは、今言った順番に並ぶことになる。待機時の配置は、さっき言った通りだ」

 他に質問や異議はないようなので、前々から言ってみたかったセリフを少しばかり捻って口にする。

 「よし。では、狩猟開始っ!」

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