第5話・拾いもの


太陽が青空に登りきっても肌寒い春の始め。


ハーディス辺境伯爵家の次男ノーブルの早めの誕生祝いのペットを決めるため、プルー湖東部【獣人族の村】へと馬車は進む。


ノーブル含むハーディス辺境伯私兵団一行は、トラブルはあったものの結果として予定変更無く目的地に向かっていた。


現状、1番のトラブルは荒れた舗装路である。

ノーブルは我慢していたのだが余りの揺れと衝撃に【水系の探知魔法・シナスタジアム】でノーブルと感覚共有している若い騎兵が馬車を止めた。


兵士たちは布類をありったけ持ち寄り、重ねた即席座布団のお陰か移動はだいぶ楽になり、ノーブルがお礼を言うと私兵団一同は安堵した。


馬車は進み【獣人族の村】に近づくに連れ小高い野山が木造の建物が点々と見られる様になった。ハーディス家が所有する採石場を管理する建物である。



プルー湖東部の採石場は主に石灰岩、陶石などの非金属鉱産資源が採石される。


これらの非金属鉱産資源は土木建築用石材としてガルダ王国の中央部に輸出されるだが、採取できる箇所はプルー湖東部の湖から離れた一部と限られている。


資源の特性の良さ・環境破壊を考慮した採取量の少なさも相まって高価で取引されているのだが乱掘などによる、後々のデメリットを恐れているハーディス辺境伯の権限で規制は厳しいものになっている。


その規制のせいで収入はそこまで得られず王国南部以外の貴族や商人は良い顔をしない。


それとは反対に獣人族は元々狩猟での生活基盤があるため、飢えるといった問題は起こっていない。むしろ、規制することで野山の動物や川、森を守っているハーディス家には感謝している。


湖の岸沿いの洞窟などから採石した時代もあったらしいが、【海神】の魔物問題に環境保護・保全等から現在は行われていない。


「もしかしたらノーブル様はプルー湖東部の開拓を任されるかも知れませんからな知って置いて損は無いでしょう」


「ふーん」


老兵ストーンの課外授業を右から左へと受け流しながら、「もうすぐ昼食かなぁ…」と窓の外を眺めていると私兵団の騎兵の1人が寄ってくる。


寄って来た騎兵に気付いたストーンが誰も聞いていない課外授業を止め騎兵に声をかける。


「何かあったか?」


「索敵魔法で複数の集団反応から確認し村に向かってる商人が休憩していると思ったんですが…どうやら違いますね」


「なに?」


騎兵の報告に眉を寄せるストーン。


「休憩しているにしても反応が密集し過ぎな気がします。先行して様子を確認してきても宜しいでしょうか?」


「そうか…これ以上厄介事は勘弁して欲しいのだが…先行は止めろ。既に騎士6名いる内の2名を北部調査の為に離しているんだ。これ以上の護衛に穴を空ける訳にはいかんな」


「はっ!了解致しました!御身の思慮足りず誠に申し訳ありません!」


「うむ、一応、警戒態勢を」


「はっ!」


騎兵はそう言って頭を下げた後、配置に戻り再び索敵魔法の魔眼を発動させる。

ストーンは指示を出した後、両腕を組んでブツブツ呟きながら何やら考えをまとめているようだ。


「ノーブル様どうやら、この先で揉め事が起きてるやも知れません。貴方もどんな時であっても落ち着いて行動できるよう心掛けを」


老兵は苦笑しながら頭を下げ進言する。


「…うん…分かった…皆も気をつけてね!」


「ハッ!!ありがっ…」


ストーンが嬉しそうに顔を上げながら答えてる途中に馬車がガタンッと大きく揺れた。


「ぁいいッだぁあああああああああ!!」


見事、思いっきり舌を噛んだストーンの叫びが馬車に盛大に響き渡った。


採石場のある野山を抜け、舗装路の挟んだ暴風林は木々徐々に減り、牧場を思わせる様な小高い丘を登りきると景色が一変した。


「うわぁ、大きい山がたくさん…」


まず雲がかかる雄大な山脈が視界一杯に現れた。竜のいる【奥地】と呼ばれる山脈は遠く青空に溶けている。


次に見晴らしの良い高原である。全体的に岩肌が目立つが夏になれば一面緑になるのが容易に想像出来る光景だった。


所々に雪解け水なのか細長い川がいくつも流れていてキラキラと輝いている。


遠くにヤギやキツネような生物が水を飲みに来ていて馬車を警戒しているのかこちらを見ていた。


周りの騎兵が大自然に戯れる動物たちを見て「狩りに行きてぇ!」「イクイク!」「ヤッホーー!」とか気分が高揚したのか叫んでいた。その後、冷静になったのか自主的にストーンの所にやって来て殴られていた。


「そろそろ昼休憩と致しましょう。北部の屋敷から日の出前に出たので、本来この時間には村には着いてる予定でしたがやはり開拓地での移動は難しいですな!はっはっはっ!」


老兵が豪快に笑っているとノーブルは疑問を口にした。


「あれ?さっきなんかモメゴトがあるとか言ってなかった?」


「む?気にされていましたか!」


「ええ〜ジィが気をつけろって言ってたじゃん…」


そう言って両腕を組み頬を膨らませて、不機嫌になったことを身体全体で表すノーブル。


「はあっ…アレはこの件に限ら…いえ…言い訳ですね…報告漏れがあった事に深くお詫び申し上げます…!」


そういって頭を下げる老兵、ミチミチと悲鳴を上げる革鎧は今にも弾け飛びそうだ。


「わわわっ…頭に下げなくて良いって!…それでどうなったの?」


「はい…先ほど任務放っぽり出して狩りに行きたいとかいうバカを殴るついでに索敵魔法の報告聞いたのですが…」


そう言って大きいタンコブを摩っている騎兵たちを一睨みする。


「どうやら、この辺りで揉めていたそうですな。私たちがたどり着く前に村に向かって進んでいったそうですが…」


「ふーん、じゃあ、もう居ないんだ」


「ええ、そのせいで気が緩み狩りに行きたいなどとバカな発言したみたいです…全く儂だって行きたい…ゴホン…」


「そっか…なら良かった……」


そう言ってノーブルは即席座布団に深く腰をかけるとグググゥ〜と腹の中から空気が捻じ切れるような音が響くとノーブルは頬を染めた。


「安心したらお腹が減った…」


ストーンはそんなノーブルに満面に笑みを浮かべる。


「いえいえ…恥ずかしがる事はありません…!面倒事は去ったみたいですしな!体が安心したのでしょう」


「そうかな?」


「そうですとも!ここら辺は見晴らしも良い!索敵魔法を放った後、降りて休憩致しましょう!」


「うん」


「おいッ!昼休憩を取るぞ!見晴らしの良い場所があれば馬車を其処に止めてくれ!」


「はいッ、分かりましたぁ!」


ノーブルの了承を得た、ストーンは御者に馬車を止める旨を伝える。


やがて馬車はストーンの指示通りに高原を見渡せる小高い丘に止まるのであった。


更にそれから数刻後。


「川で女の子拾った!」

「「「「「ナンダッテ!!??」」」」」


ノーブルは小さな女の子を拾ってくる。


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