妻が妊娠したらしい。
矢部譲三
第1話 陽性反応。
結婚式を挙げてもまだお互い実家で暮らしている。といっても別に仲が悪いわけではないし、遠距離というわけでもない。ただ単に同棲のタイミングを逃しただけだ。
それでようやく新居が決まり、引っ越しのめども立った。
いつも夜になると、お互いLINEでメッセージをやり取りする。寂しいからと言って通話をしてはいけない。共働きのため、お互い仕事で疲れており、ちょっとしたことで苛立ってしまいすぐに喧嘩になる、というのをいままでさんざんやってきて十分お互い理解しているからだ。だからいつも短いメッセージで要件だけやり取りしている。質素なものだ。ささやかながら妻からのメッセージに顔文字が入っていたりスタンプが押されるとホッとする。
先日、妻から一言メッセージが送られてきた。病院へ行こうかな、と。体調でも崩したかメンタルの不調かと思った。しかし、そう思った直後に写真が送られてきた。
簡易妊娠検査薬の写真だ。拡大してみると、どうやら陽性反応だということがわかった。
俺も父親になるのだ。新しい命が生まれるのだ。そうわかった瞬間、仕事の疲れがふっとび、とても晴れ晴れしい気持ちになった。そして妻に、子供と君が元気でいてくれればそれでいい。家のことは全部俺に任せてくれ。とメッセージを送った。
迂闊に余計な約束をするものではなかった、と後悔した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます