妻が妊娠したらしい。

矢部譲三

第1話 陽性反応。

結婚式を挙げてもまだお互い実家で暮らしている。といっても別に仲が悪いわけではないし、遠距離というわけでもない。ただ単に同棲のタイミングを逃しただけだ。

それでようやく新居が決まり、引っ越しのめども立った。

いつも夜になると、お互いLINEでメッセージをやり取りする。寂しいからと言って通話をしてはいけない。共働きのため、お互い仕事で疲れており、ちょっとしたことで苛立ってしまいすぐに喧嘩になる、というのをいままでさんざんやってきて十分お互い理解しているからだ。だからいつも短いメッセージで要件だけやり取りしている。質素なものだ。ささやかながら妻からのメッセージに顔文字が入っていたりスタンプが押されるとホッとする。

先日、妻から一言メッセージが送られてきた。病院へ行こうかな、と。体調でも崩したかメンタルの不調かと思った。しかし、そう思った直後に写真が送られてきた。

簡易妊娠検査薬の写真だ。拡大してみると、どうやら陽性反応だということがわかった。

俺も父親になるのだ。新しい命が生まれるのだ。そうわかった瞬間、仕事の疲れがふっとび、とても晴れ晴れしい気持ちになった。そして妻に、子供と君が元気でいてくれればそれでいい。家のことは全部俺に任せてくれ。とメッセージを送った。

迂闊に余計な約束をするものではなかった、と後悔した。

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