第8話

それからまた月日が流れて、

私は自分の仕事が転勤になるという知らせを上司から聞かされた。

ヒロより私の方が稼ぎが良かったから、

「ヒロも一緒に私と行こう離れたくないよ…」

と訴えたにも関わらずヒロはついては来てくれなかった。

仕事に追われる日々が続いて、

ゆっくり連絡さえも出来ない状態になってしまっていた。

新幹線に乗らないと会えないし、

交通費も正直バカにならなかったけれど、

月イチペースで私が会いに行ってヒロも喜んでくれていると思った。

思ってた。

ある日、

ヒロから会おうと連絡があって会ったら様子がいつものヒロぢゃない人に見えた。

ヒロらしくない、体の求め方だった。

それから1週間くらい経ってヒロからラインが届いた。

“もう別れよう”

嫌な予感と突然すぎて怒りもあった。

一旦、距離を置いて御互いクールダウンして…

また元に戻る…戻りたいと思った。

一月くらいしてヒロと私の共通の友人から電話があった。

「カオリ、知ってる?

ヒロ来月結婚するらしい」

耳を疑った。

夢かとも疑った。

目の前が真っ暗で、

頭が真っ白になって友達の話はそこから全く記憶にない。

別れてるのにフラれた気分でいっぱいになった。

つい、この間まで「カオリみたいなジャジャ馬を手に負えるのは俺しかおらんし!」

とか言ってたくせに。

三日間仕事も休んで泣いてパンパンに腫らした顔を鏡で見たらまた泣けてきた。


嘘だろう、何かの間違いなんぢゃないかなとヒロにやっと電話した。

電話ごしのヒロは何かが吹っ切れた様に普通に明るかった。

「結婚するん?ほんまなん?」

と問うと、

「誰から聞いたん?

することになった…」と。

冷たい低い小さな声で答えてきた。

こらえてた何かがブチンと崩壊して、

「嘘つき!なんでなん!!

今からそっちに行くから!

あんたはなんで?

変わってしまったん?

なんで一番に話してくれへんかったん!!イヤや!!嘘や!!」

ここまで取り乱したのは初めてというくらい猛烈に迫った。

そうするとヒロがボソッと、

「そういう所が嫌いやねん…」

初めて嫌いって言われた。


ショックどころぢゃない。

心を殺された気分。

ヒロを殺してしまいたいとさえ考える歪んだ気持ちになった。

なんでもっと早く言ってくれなかったんだろう。

そしたら…私…

もう、

ヒロとは二度と逢うことも

連絡をと取ることも

一生ナイ。

どれだけ好きでも、

どれだけ一緒に居たとしても、

心は繋がってると信じてた。

何年も心を重ねてきたのに、

たった数ヵ月しか付き合ってもない様な人とヒロは急に結婚した。

酷すぎるよ。

想い出がまだ温かいのに。

心の準備すらないまま、

私の長い春は強制的に幕を閉じた。


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