第百二話「ユニークモンスター」

 ユニークモンスターの発生。

 そうエリーは言った。

 そして、異世界エゾルテでも問題になっているとも。


 異世界がどうってのは運営と同義だと捉えることにした。

 つまり、運営側でも問題視しているということ。


 と言っても、大体は推測できる。

 このハーピーがユニークモンスターだと言うのなら、恐らく“自我持ち”のことを指しているのだろう。


 ただ、それを運営が問題とするのはなぜだ?


「テイクさん、貴方のテイムモンスター方は一般的な敵モブと違う点があると、さすがに理解できていますわね?」

「ナチュラルに見下してくんな。それぐらいは感覚でわかるだろうが」

「んん? どゆこと、どゆこと?」


 テイムモンスターには自我がある。

 いつも一緒にいれば、もうただのデータだなんて思えない。


 エリーはきっと、そのことを言っているのだろう。

 だが、ハーピーはテイムモンスターではない。


「テイムモンスターはプレイヤーが持つ魂の器を媒体として自身の魂を定着させているのですわ。結果、見た目では魂を保持していることになり、こちら側から操作することができなくなるのです」

「わかる? タケルン?」

「いや、全く。専門用語並べて悦に入ってんじゃねえぞ」

「そ、そんなつもりは一欠片もありませんわっ!?」


 どうだかな。

 てか、ユリが分かってねえのはどうなんだ。

 こいつも一応、運営側なんじゃないのか。


 エリーの話で分かったことと言えば、テイムモンスターの操作はできないということ。

 いつか言っていた、アウィンを消すことができない理由もこの辺りにあるのだろうか。


 そして、新たに浮上したもう一つの疑問点。

 プレイヤーに関与していない、このハーピーはどうやって自我を持てたんだ?


「そこんとこ、どうなんだよ」

「ええ。問題はまさにその点ですの。結論から言えば、わたくし達もユニークモンスターの発生条件を詳しくは理解できていませんわ。ですが、存在しているのも事実」

「テイムモンスターと同じようなもんなのか?」

「見かけ上は同じですわね。こちらの指示も不可能です」


 ハーピーを見る。

 『くぁー』やら『くけー』やら言いながらトパーズ、アウィン、ユリとじゃれ合ってんな。

 あのお姫様、もう飽きてやがる。


 ラピスは俺の頭から動かない。

 時折、ハーピーがこっちを向くとその度にビクッと頭が震えるんですが、勘弁してもらえませんかね。

 頭、クラクラしてきた。


 んで、アウィンに抱きつかれてるあのハーピーが運営の悩みの種ってことだが。

 とてもそうは見えないな。

 何とも平和な日常のひとコマじゃないか。


 ちなみに、「鳥さん、また会えましたねー!」とハーピーの翼と握手しているアウィンの服装は、またもや違うものになっている。

 薄手のパーカー、いつかのショートパンツに黒いタイツ。

 森で飛んだり跳ねたりしてたと繭に話したのだろうか。動きやすそうな服装にされたようだな。


 ただ、ショートパンツとタイツの間に見える肌色がまずい。

 別の意味で人目を引く恐れがあるぞ。

 目立たせたくないってのに、繭の着せ替え欲はもう少し抑えて貰えないものかね。

 あと、パーカーに付いた猫耳についても一言物申したい。

 白色だと目立つだろうが。


「まあ、このハーピーがユニークモンスターとかいう自我持ちだってのはわかる。で、それがどう問題なんだ?」

「ユニークモンスターが一匹や二匹程度なら問題ありませんわ。ですが、その数が多くなっていくと管理が不可能となってしまいますの」


 いや、さっきユニークモンスターの発生条件がよく分からないって言ってただろ。

 それが分からないと対策しようがないじゃねえか。


 どうすんだ?

 このまま、自我持ちのモンスターに乗っ取られることになるのか?


「まさか、この防衛イベントはユニークモンスターの暴走?」

「その可能性は薄いですわね。ゼロとは言いきれませんが、まだユニークモンスターの数も少ないですし、多種多様なモンスターが動いています。恐らく、エゾルテが指示していますわ」

「なんで、んなことすんだよ。マジで運営の意図が訳わかんねえぞ」

「……先ほど、そのユニークモンスターであるハーピーが襲われていましたわね」


 そういや、防衛イベントが始まる前は他のハーピーに襲われることもなかったな。

 むしろ、一緒になって俺を襲ってきていた。


 ……ん?

 なんだ、何かを忘れてる気がするぞ?


「これは仮説ですが、ユニークモンスターをあぶり出すためのイベントなのかもしれませんわ」

「ユニークモンスターを狩ってるってことかよ?」

「ユニークモンスターの発生条件、全く分かっていない訳ではありませんの。ユニークモンスターの近くにいるモンスターがユニーク化しやすいのを確認済みですわ。数が少ない内に減らさなければ」


 は?

 コイツ、今、なんつった。


 ユニークが感染するとか、そんなもんはどうでもいい。

 本気で自我持ちを殺すつもりか?

 無差別に?


 自我を持っているのなら、それはもう生きているのと同じだ。

 ラピス達とすごしていて、そう思えるようになった。

 だからこそ、ハーピーやフェアリー達は攻撃して来なければ倒そうともしなかった訳で……。


 待て。

 そうだ、フェアリー!


「おい! 自我持ちだと今、別のモンスターから襲われてるんだよな!?」

「と、突然どうしたんですの? 先ほどのハーピーを見たところ、恐らくユニークモンスターは減らされていると考えていますが」

「下衆が! ふざけんなよ! あいつらだって生きてんだろうが!」

「て、テイクさん?」

「おろー、どしたのタケルーン?」

「お兄ちゃん? どうされましたか?」

『……くけー』


 死に戻り前に出会ったフェアリー達。

 アウィンの友達になってくれた、チンチクリンとその友達。

 あいつらは自我を持っている。

 他の敵モブに狙われている……!


 まだ見ぬユニークモンスターまで助けようとは思わない。

 だが、どこにいて、どんなやつで、しかも友達であるなら、助けない訳にはいかない!


 全部のユニークモンスターを助けるなんて今の俺には無理。

 だからこそ、フェアリーの救出だけを考える。

 それだけに一点特化させる!


「ラピス、トパーズ、アウィン! 壁を越えるぞ。もう一度、あの森へ行ってチンチクリン達を助ける」

『ワタシはご主人様マスターのご意向に従うだけです』

『おっしゃ、あのカマキリ野郎にリベンジだな! 燃えてきたぜぇ!』

「ヒメちゃんですか!? よ、よく分かりませんがヒメちゃんが危ないんですね!? わたし、頑張ります!」

「テイクさん、話はまだ終わっていないですわ」


 気合いを入れる俺達の元へエリーが近付いてくる。

 その腰には俺と同じように鞭が付いている。

 こいつもテイマーだってのに、何も思わないのか?


「お前もテイマーのくせに、それでいいのかよ」

「……え?」

「やっぱ、お前は嫌いだ」


 崖の方向へと歩く。

 運営との通信手段は惜しいが、そんなことを言ってる場合でもない。

 今は、少しでも早く壁の向こうへ……!


『……くぁー』

「で、なんでお前までついて来てんだよ! 壁の前は開けてて危ないから、マングローブ林に隠れとけ!」

『くぁー』

「お前のレベルなら見付かって襲われても、返り討ちにできんだろ!」

『くぁー』

「フェアリー達は俺らに任せてお前は」

『くぁー』

「…………」

『……くぁー』


 真っ直ぐ俺の目を見て、同じように鳴き続けるハーピー。

 トパーズで吹っ飛んでいったとしても、絶対追いかけてくる気じゃねえか。


「なあ、俺はお前が死ぬのも嫌なんだよ」

『くぁー』

「隠れててくれねえか? 頼むから」

『くぁー』

「《光球》!」

『くぁー!』


 なんだよ。

 なんで、光球を追いかけないんだよ。

 なんで、そんなに怒ってんだよ。


 なんで。


ご主人様マスター

『旦那、諦めた方がいい。こいつの意思は堅いぜ』

「お兄ちゃん! わたし、鳥さんも守ります! みんな、守りますっ!」


 簡単に言ってくれるなよ。

 俺の腕はそんなに多くを守りきれるほど長くない。

 俺の背中は多くを守れるほど大きくはない。


 それは自覚してる。

 それでも、やらなきゃいけない時ってのがあるなら、今なのかもしれない。


「わかった。それじゃ、できるだけ俺の近くにって、うおぉ!?」


 急にハーピーが翼を広げたと思ったら、飛び上がって俺を足で掴みやがった!?

 てか、痛い!

 爪が! 猛禽類の爪が肩にくい込んでる!

 刺さったり、切れたりする痛みはゲームだからないが、挟まれてる感じはあるのかよ!?


「おいおい、まさか、このまま飛ぶつもりじゃ……?」

『くけー』

「やめ、やめろ! 肩が引き裂かれる! ちぎれる!」

『アウィンは任せな、旦那!』

「お兄ちゃん、後で呼んでくださいねー!」


 ハーピーが大きな翼を羽ばたかせる。

 肩に痛みを感じながら、俺とラピスは壁の上へと連れていかれるのだった。

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