第九十九話「不器用」

『くぇ……っ! くぅ、けぁー!』

「くっそ、どうなってんだ!? なんであいつが襲われてんだよ!」

「テイクさん、貴方は一体何を仰っているのですか?」

「あ、エル! あれ見て、あれ!」


 古びた兵器が立ち並び、マングローブ林が前方に見えてきたところ。

 ローツの町、北側に聳え立つ壁近くであの光り物好きのハーピーが、他のハーピーに襲われているのを見付けてしまった。


 そう。見付けてしまった。気付いてしまった。

 俺の知らないところでやられてしまうのなら、どうしようもない。俺はただのゲーマーだ。できることなんて限られてる。

 だが、見付けて気付いてしまったのなら、選択肢なんて一つしかない。


「《光球》! 頼む、二人も襲ってるハーピーの方を攻撃してくれ!」

「どういうことですの?」

「なんつーか、あのハーピーは知り合いなんだよ!」

「……あー、メグミが何か言ってたよーなー。というか、“こうきゅう”って何?」

「《光球こうきゅう》!」


 なんか、久しぶりに詠唱のことでつっこまれた気がする。

 ユズとケンは慣れたっぽいし、最近、ソロで行動することも多かったしな。


 だが、そんな事より今はとにかく光球を撃ちまくる。

 光り物が好きなら何かしらの反応をしてくれるだろう。


 一番いいのは俺に気付いてこっちに来てくれることなんだがな。

 光球を追いかけて行ったとしても魔法を消せば、気付いてくれるかもしれない。

 何にせよ、まずは光球に気付いて貰わねえと!


「《光球》!」

「貴方はどこを狙ってますの?」

「……《光球》っ!」

「わー、今度は随分左の方へ撃ったねぇー」


 遠くを狙えば、撃ち出した時の僅かな誤差も大きなものとなる。

 俺のDEX器用さは初期値に装備のマイナスも加わって、酷いことになっている。

 思ったところに飛んでいかねえ……!


 そうこうしてる間にもハーピーは他の奴らから攻撃を仕掛けられ続けている。

 早く! 早く何とかしなければ……!


「あーりゃりゃー。何だか見てられないよー。私は中距離ぐらいの攻撃しかないし、エル、何とかしてあげて!」

「……仕方ないですわね。《三連トライ・火球ファイアボール》」


 は? トライ?

 と、疑問に思ったのも束の間。

 俺の横手から三つの火球が、襲いかかっていたハーピーへと飛んでいった。


 しかも、三つ中、二つも直撃。

 何だよ、DEX器用さはそういう補正もしてくれるんですかね?


 ただ、威力の方はそこまで高い訳でも無さそうで、当たった二匹のハーピーは少し怯んだだけ。

 それでもいい。これで、誰かが下にいることを認識できたはず。


 だが、あのハーピーは自分も狙われていると思ったのか、逃げようとしている!

 違う、そうじゃないんだ!

 俺だよ、気付いてくれよ!


「《光種》!」


 俺達の真上にMPを過剰に費やした光種を生み出す。

 光量を増やし、できるだけ目立つように。

 ほら、お前の好きなぴかぴかだぞ!


『っ! くけー!』

「よし、来るぞ!」

「他のハーピーとは違う行動……。なるほど、そういうことでしたのね」

「よーし、近くまで来れば私の出番だよ!」

「《闇球》!」


 エリーが何か悟ってるが、そんなことよりついてきてるハーピーを撃ち落としてくれませんかねっ!

 さっきの奴とか! トライ何とか凄かったじゃん!


 姫様の方は積極的に協力してくれるようで、ありがたい。

 ていうか、虚空から取り出した武器、槍なのな。

 お姫様が槍……。むしろ、槍持った人に守られる方じゃないのか、あんた。


『……くぇー』

「おーい、こっちだ!」

「《三連トライ・火球ファイアボール》」

「そろそろ有効範囲内かな? 《プロヴォーグ》っ!」


 お、タゲがこっち向いた。

 ケンがよく使ってる技だよな、《プロヴォーグ》。確か、《挑発》スキルの奴だ。

 お姫様は、どこへ向かっていらっしゃるのやら。


 だが、この状況でのタゲ取りはありがたいっ!

 襲っていたハーピーのタゲは全部ユリへと向いた!

 あのハーピーのターゲットは光種のままだけどな。

 光種が消えるまで、タゲが解除されることはないだろう。


「後は、こいつらを!」

「右のハーピーはわたくしが始末しておきますわ」

「真ん中は私かなー?」

「ってことは、俺が左か」


 ユリのすぐ近くへ行って一番端のハーピーへ狙いを付ける。

 と言っても、狙うのは俺じゃない。


『おっしゃ、ぶちかますぜっ!』

『トパーズ、可能な限り引き付けなさい。アナタもご主人様マスターと同様、不器用なんですから』

『旦那よりマシだろ!?』


 こいつら、言いたい放題言いやがって……!

 エリーとユリがいる手前、会話ができることは知られると面倒だ。

 なんだコイツ、一人で何か言い始めた。ってなことになりかねない。


 とにかく、俺ができるのはトパーズの補助としてハーピーの動きを止めることぐらいだ。

 これ以上ハーピーのHPを削ったところで、オーバーキルになるだけ。


 トパーズが外さない程度にまで引き付けて……!


「《バインドウィップ》」

「《風種》!」

『おるらぁっ!』

「……っ! か、《カウンタースティング》っ!」


 消費MPを増やした風種により、いきなり出現した別の気流。

 これによって、ハーピーの飛行能力が狂うことは実証済みだ。


 動きが阻害されたハーピーへトパーズがぶっ刺さる。

 もちろんHPは見事に削りきり、キラキラと輝くポリゴンの間をトパーズは跳んで行ってしまった。

 《リコール》もただじゃないんだがな。


 エリーの対応したハーピーは鞭のような緑色の光で拘束されていた。

 《鞭》スキルの技だろうか?

 使い勝手は良さそうだが、生憎あいにく、スキルレベルが一では使えない。

 残念だが、俺がこれから先使うことのない技だな。

 程なく、エリーの鞭でポリゴンへと化し消えていった。


 で、真ん中のユリが対応したハーピーだが……。


「あっぶなー! もー、タケルン何したのさ? 便利魔法?」

「ああ。風の便利魔法だな。悪い、そっちにまで影響したっぽいな」

「カウンターのタイミング狂っちゃったよ! びっくりしたなー」

「それでも合わせられるユリはおかしいのですわ」


 風種の余波で体勢がくずれながらも、足での攻撃をユリに繰り出したハーピー。

 そこからは一瞬。

 足がユリの持つ槍へ触れた瞬間に攻撃は弾かれ、そこには胸に槍の穂先が刺さっているハーピーがいた。

 その後、ポリゴンとなり霧散。


 カウンター系の技はいくつかあるが、どれもタイミングがシビアだそうだ。

 それをすぐに調整して成功させるとか……。変人か、この人。


「いっぱい練習したからね!」

「お仕事をなさいませ」

「これだって立派な仕事じゃんかー」

「サボりの口実に使っているだけですわ」

「練習したっつっても、ハーピーは北エリアのモブだぞ? 初見だろ?」

「いやぁ、ハーピーには小さい頃よく襲われてたからねー」


 おい待て、どうなってんだ城の警備は。


 というか、こいつもほんとに異世界の住人なのか?

 ゲーム内でハーピーと戦ったプレイヤーは数少ないはず。

 その戦闘パターンを知ってるってのはマジで異世界で戦ってたってことだろ。


 これはむしろ、お姫様だってことが怪しくなって来たな。


『……くぇー。……くーかー』

「お、良かった、無事だったな」

『……くーかー』

『マ、ご主人様マスター! この方、またワタシを標的にしている気配がします!』

「えっと、このハーピーが知り合いなんだっけ、タケルン?」

「やはり、“ユニーク”ですわね」

「は? ユニークって?」


 ラピスへと視線を向け続けるハーピーは放っといて、エリーの呟いた言葉が気になった。

 ユニーク? 自我持ちってことか?

 やはり、仕様なんだろうか?


「なあ、それって一体」

「《火球ファイアボール》」

「っ! 危ねえっ!」


 いきなり、横から飛んできた火球。

 狙いは間違いなくハーピー!


 咄嗟に身体を盾にして魔法を防ぐ。プレイヤーからの攻撃でHPは減らないが、熱いっ!


「はあ? 何してくれちゃってんの、雑魚が。そいつ、俺の獲物なんだけど」

「てめぇは……!」


 近くにあるやぐらの影から出てきたのは、前に洞窟で会ったことのあるプレイヤー。

 クレーム野郎のアイクだ……!

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