第八十六話「ぴかぴか」

『……かー』

ご主人様マスター

『旦那、どうすんだよこいつ』


 ほんと、どうしようかね、このハーピー。

 結局、敵意はないと判断して倒さず攻略を進めようと考え、MPを回復させることにしたのだが、帰るどころか近くにまで寄ってきて寝そべり始めたのだ。

 お前、マジで敵対モブなのか?


 もしかすると、アウィンと同じように倒さずともテイム可能になっているのではと思って色んなウィンドウを探したり、影に隠れていないか消したりどかしたりしたが一向に見つからない。

 まあ、アウィンがテイム可能状態になった時は動かなくなったし、もし本当にテイム可能になったのならこいつも動かなくなんだろ。

 つまり、自由奔放に動きまくってるこいつはテイム可能ではないってことだな。


 だったら、何故こういう行動をするのかって話に戻ることになる訳で。

 もういい。考えるのをやめよう。考えたって分からないやつだ、これは。


 MPもいい感じに回復してきたな。

 繭へは既にメールを送ってるし、きっと大丈夫だろ。


「《リコール》」

「お兄ちゃーん! 会いたかったで……はっ!? 誰ですか、この人は!? っていうか人なんですか!? 鳥さんですか!? なんでお兄ちゃんの横でくつろいでるんですかぁっ!」

「落ち着け、アウィン。こいつは人っつーか、鳥っつーか……。ハーピーだ」

『……くぁー』

「どっちかと言えば鳥頭っぽいな」


 アホそうだし、三歩歩けば大事なことも忘れてそうだ。

 うん、アホ枠は埋まってっからな。こいつがテイム可能になったとしてもテイムはしなくていいだろう。


 でも、飛行可能モブかぁ。仲間にいると頼もしいよなぁ。戦略も広がりそうだしなぁ。

 いやいや、まだここは第二の町ローツ周辺エリアだろ。もっと先に進めばドラゴン的なモブだっているかもしれない!

 現状、ラピス達で困ってることは……そりゃまあ、色々あるけどさあ……。

 うーん、航空戦力かぁ……。


「うーん……」

ご主人様マスターが悩んでいますね』

『未知の場所を冒険しようってんだ。悩みもするだろ』

「お兄ちゃん、あの鳥さんを見てうんうん言ってますよ?」

『……まさか』

『いや、ラピス姐。あのゲテモノを喰らう人間だ。何を考えてもおかしくはないぜ……』

『ああ、ご主人様マスター。アナタがどんな人だとしてもワタシは……!』

『人間ってのは、本当に恐ろしいな……』

「……どうしたんでしょうか。ラピスさん達まで悩み始めちゃいました」

『……くぇー』


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


 よし、結論は出た。

 悩みに悩んだ末の結論だ。


 テイム可能になったら考えよう!

 テイム可能かどうかも分からないのに考えたって不毛だ。

 ハーピーを組み込んだ戦略とドラゴンを組み込んだ戦略を練って対比している途中で気付いた。早いうちに気が付けてよかったな。


「MPも満タンだな。よし、そろそろ行くか」

ご主人様マスター、ワタシの覚悟は完了しています……!』

『早まるなよ、旦那! もうちょっと考え直してもいいんだぞ!』

「かーかー、こけー!」

『……けー』


 なんだこのカオスは。


 ラピスの言う覚悟ってなんだ。北エリア探索にそこまで気合い入れてんのか。

 考え直せってどういうことだよ、トパーズ。そんなにハーピーが気に入ったのか?

 アウィン、お前はもう何というか、アホだな。やっぱりアホ枠はお前だけで十分だよ。


「……まさか、本当に話せたりしないよな」

「鳥さんのモノマネですー! 似てましたか!?」

「……はあ」

「はっ、またやらかしましたか、わたし!?」

「いや、もうお前はそれでいいよ。俺が慣れた方が早そうだ」


 アウィンの性格が変わってしまうのも気持ち悪いしな。

 俺がアウィン節に慣れた方が平和だ。

 ……何年一緒にいれば慣れるのだろうか。


「それで、俺達は行くがお前はどうするんだ?」

『……かー』


 寝転んでいたハーピーが立ち上がり、俺の隣にまでやってくる。

 一応、敵対モブだし警戒しとこう。大丈夫だとは思うんだが。


『……くー。かー』

「何て言ってんだ、こいつは?」

『分かる訳ねぇだろ』


 そういえば、こんなに近くでハーピーを見てはいなかったな。

 脚と腕は鳥のもので、体と顔は人という魔物らしい見た目。

 身長は俺よりも少し小さめ。百六十前半といったところか。魔物に性別があるのかは知らんが、間違いなく女の子だな。胸部には凄まじいものをお持ちなようだ。


 目は黄色に黒目。髪はピンク色から白色へのグラデーション。

 目の前で背伸びをしたり、体を左右に振っているハーピーの頭には二房ふたふさの黄色い髪の毛が上へ伸びている。

 どういう原理なんだ、これは。


 今は折り畳まれた人間の腕にあたる翼は少し上の方が緑がかったクリーム色。

 これを大きく広げれば雰囲気以上に大きく見えることだろう。


『……くぅー。くわーっ』

「おわ、いきなりなんだ!?」


 こいつ、急に翼を広げて羽ばたかせやがった!

 確かに翼を広げれば、なんてことは考えたが実演しろとは誰も言ってねえだろが!


 くそ、砂まで巻き上げられているから目が開けられない!

 こうなったら光球を使って……!


『な、何を!? 離してください!』

「この声は、ラピスか!?」


 この鳥人間、無害なフリしてまだラピスを狙ってやがったか!

 ラピスに手を出しやがったのなら容赦はしない。ドロップ品と経験値に変えてくれる!


「さあ、ラピスを返……せ?」

『本当に、や、やめ。くすぐったいですから……! ま、ご主人様マスター、助け……!』


 あれ、これはどういう……。

 ハーピーがラピスを咥えて自分の翼で、こう、わさわさと、磨いてる? のか?


「と、鳥さん、ダメですよっ! ラピスさん嫌がってるじゃないですか! 嫌だって言われたらやめなきゃいけないんですよっ」

『旦那、オレにはもう、何が何だか分かんねえよ』

「あーあー、アウィンまであの中入って行ったら俺達にはどうしようもできねえな。事態が収束するのを待つとするか」

ご主人様マスター……! このハーピーにやめさせて、あっ、ダメです! これ以上しないでくださいぃ!』


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


「満足したか?」

『……くふー』

『ああ、もうお嫁に行けません。ワタシは汚れてしまったのです』

『いや、めちゃくちゃキレイになってんぞラピス姐』

「ラピスさん、ピカピカのキラキラですー! すごーい!」


 放置すること十分ほど。

 やりきった感満載でハーピーが持ってきたのは光沢と疲労の増したラピスだった。


 どうやら、ラピスを磨きたいがために俺達のそばにいたらしい。

 ってことはもう目的達成しただろ。そろそろ帰ったらどうなんだ。


『……くーかー』

「まだ何かあんのか……」


 上目遣いで期待を込めた眼差しが送られてくる。

 今度は何だってんだよ。


 ……まさか。


「……《光球》」

『っ! ……くけー』


 またもやトコトコと光球を追いかけて行くハーピー。

 追い付いて翼で包もうとして……。


『くえっ』

「そりゃ、攻撃魔法だもんなぁ」


 見事に破裂し、ハーピーのHPを減らす光球。

 これ続けてたら死んじまうぞ、こいつ。


 お、戻ってきた。攻撃されたと思って反撃してくるか?

 それなら、すぐにまた別の光球を。


『……くーかー』

「学習しろよ、鳥頭」


 三歩歩いたからか?

 三歩以上歩いてしまったから全て記憶からこぼれ落ちたのか?

 ニワトリと同レベルじゃねえか。もっと賢い鳥になって出直してこいよ。


「ああ、そうだ。《光種》」

『……くぉー』


 これなら、ダメージも入らないし、光球と同じようなもんができる。

 これを渡して、さよならだ。


『……ぴぁ』

「って、まあ磨こうとするんだから触っちゃうよなあ」


 光種も光球と同じく、何かにぶつかると消える。

 手を基準に出して、ランタン代わりに動かす時は壁や天井に当たらないようにする必要があるのだ。


『……くーかー』

「いやもう打つ手なしだっての。悪いが諦めてくれ。さ、行くぞー」

「鳥さん、また会いましょうです!」


 光球や光種を磨こうなんて無茶な話だ。

 色々考えてもみたがどうしたって消えてしまう。

 諦めることも肝心だってことだな。


 ハーピーとは壁下で別れ、いよいよ本格的に新エリアだ。

 まだどのプレイヤーも到達していない場所。

 敵も強いだろうが、今まで通り、きっと何とかなるさ!


「お前ら、気合い入れて行くぞ!」

ご主人様マスターの防御はお任せ下さい』

『おっしゃ、暴れまくってやるぜ!』

「お兄ちゃんの役に立てるよう頑張りますっ!」

『……かー』


 なんでついて来てんだよ……!

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