第4章「ローツ攻略編」

第七十八話「特訓」

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 《HP自然回復》Lv.6


 4秒で最大HPの12%回復

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「うーん、やっぱ変化してるよな」

「お兄ちゃん? どうかしましたか?」


 “アウィン親衛隊”についての騒動や、エリーとの話し合いも終わり、色々なものが一段落ついた現在。

 そろそろ第二の町ローツ周りの攻略へ乗り出そうと思い、アイテムやスキルの確認をしていたんだが。


 《HP自然回復》。強化されてないか?

 より具体的に言えば、回復までの感覚が短くなっているはずだ。


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 《MP自然回復》Lv.1


 5秒で最大MPの2%回復

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 やはり、《MP自然回復》は五秒ごとの回復だ。《HP自然回復》も同じだったはず。

 どうせ、二パーセント増えただけだろうと思って確認してなかったからなあ。

 泥蛙戦では既にHPが四秒ごとに回復してたんだろうな。


 後は、ラピス達のレベル上げで戦闘した時だろうか。

 言われてみれば、回復が早かった……んだろうか?

 回復までの時間を計算して、その時間分は別のことしてたからHPバーを注視したりしてないんだよな。


 くそ、なんか損した気分だ。

 あの時は五秒で計算してた。瀕死からの回復だったら八秒ぐらいのズレだぞ。

 これからは気を付けよう。


 それで、スキルが変化したのは恐らくレベル五になった時だよな。

 キリもいいし。

 となると……。


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 《分裂》Lv.5


 自分の体を分けることにより、

 別個体として存在する。

 (上限:32体)

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 《跳躍》Lv.5


 ジャンプ力が上がる。

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 《盗む》Lv.5


 対象の相手からアイテムを盗む。

 相手がプレイヤーの場合、

 その対戦中の装備を盗れる。

 (試行回数上限:5回)

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「お、アウィンのが変わってんな」

「ねえ? お兄ちゃん? わたしにも何をやってるのか教えてくださいよー」

「ひっつくな。乗っかるな。重いだろが」

「お、重い……!? わ、わたし重いんですか……?」


 お、静かになった。

 ま、そりゃ何も乗ってない時に比べれば重いに決まってるだろ。

 アウィンにも質量はあるんだしな。

 女子中学生の平均体重を知らないから、アウィンがほんとに重いのかは知らん。


 で、ラピス達の極振りしているスキルを見てみたが、どうもラピスとトパーズに関しては説明文に変化は無さそうだ。

 もちろん、ラピスの上限は増えているが、そこは今まで通りの増え方だし変化とは言えないよな。

 恐らく何かしらは変わっているのだろうが、少しずつ確かめる他は無さそうか。


 そして、アウィンの《盗む》スキルだが。

 プレイヤーへ《盗む》を使うと装備を盗めるのか。

 その戦闘中っていう制約はあるが、手札としては使えるかもな。

 ただ、これは確率の問題。あまり、頼りすぎるのも良くない。

 PvPでも《盗む》は使えるってことだけ覚えておこう。


「そういえば、アウィン。エリーとの闘技大会では《盗む》を使ったのか?」

「うう……。重い。わたし、重いんですね。ダイエットしなきゃ。体を動かさなきゃ。また、特訓しに行かなきゃ! お兄ちゃん、行ってきますっ!」

「あ、おい!」


 聞いてねえし、しかもどっか行きやがったぞ。

 ま、アウィンのことだから闘技大会でも《盗む》は使ってただろうな。だが、要確認として頭のメモに書いておこう。

 あの時点での《盗む》スキルはレベル五。大狼は恐らくプレイヤーってことになるだろう。

 装備が外れていたようには感じなかったよな。やはり、成功確率は低そうだ。


 それにしても、特訓か。

 最近のラピス達は張り切っているようで、皆何かを特訓しているようなのだ。


 ラピスは……何だろう。

 色んな大きさに分裂して、積み上がっては崩れ、蠢いてはまたバラバラに……とよく分からない動きをしている。

 ラピスのことだし、考えがあるとは思うんだが。ほんと、何やってるのか凄い気になるところだ。


 トパーズは本人曰く、蹴りの練習らしい。

 最近、蹴りの有用性に気付いてしまったらしく、突撃とハウリング以外の攻撃方法として頑張っているそうだ。

 だが、その練習風景は、なんと言うか。足短いですね。としか言い様のないものである。

 なんだ? お前の想定する相手は足元にいるのか? というか、歩いてるようにしか見えねえぞ。


 ちなみに、ユズと繭には好評な様子。二人は事情を知らないこともあってか、ただ、ウサギが二足歩行の練習をしているようにしか見えていない。

 ヨチヨチ歩く姿は可愛らしいかもしれないが、中身が可愛くないからなぁ。


 そういえば、トパーズが蹴りを始めたのは《跳躍》がレベル五になってからだな。関係あるんだろうか。


 そして、アウィンが特訓しているのはナイフ術。これが一番さまになっている。

 どうやら、オッドボールの向かいにある“アウィン親衛隊”のギルドホームでウィルから教えてもらっているようだ。


 ウィルは性格に難がありはするが、腕利きのアサシンだ。ナイフだって扱える。

 こいつにアウィンを預けるのは不安だが、今のところ何もないし、保留だ。

 もし何かあったら、即刻“アウィン親衛隊”との戦争が始まるだろうな。

 そのことはウィルにも伝えてあるし、きっと大丈夫だと信じておこう。


 さてと、ラピス達が頑張ってるのに俺だけ何もしない訳にはいかないよな。

 実は、俺も特訓って訳では無いが、ある練習をしている。

 ラピス達は特訓で忙しそうだし、攻略には明日乗り出そう。

 今日は俺もちょいと練習頑張ってみますかね。


 見ていたウィンドウを閉じて立ち上がる。

 目指すはオッドボールの屋上。そこが俺の練習場だ。


 階段を登りながらふと思い出す。

 そういえば、ユズもケンも闘技大会は四回戦で負けてしまっていた。

 対戦相手はどちらも俺の知っている人物。


 ユズの相手はアイク。ギルド“青薔薇”の序列一位らしい男。あの雑魚雑魚言いまくっていたクレーマーだな。

 ユズは攻撃を避けながら隙をついて相手のHPを減らしていく戦い方だ。だが、攻撃を避けるだけで手一杯だったように見えた。

 何とか攻撃しても簡単にかわされ、逆にカウンターを決められてしまう。試合時間は長かったが、内容的には一方的な試合だった。


 そして、驚いたのはケンの試合だ。

 対戦相手はシャノ。ギルド“黒氷騎士団”のギルドマスター。

 あの大狼とのボス戦前に会った、黄色モヒカンの隣にいたやつだ。

 タンカー同士の戦いは見ていて退屈になりそうだったが、この試合は違った。

 確かに序盤は盾の角度やら、体の向きとかを変えながら、ただただ手に持つ斧やハンマーで相手の盾を殴りあう地味な絵面だったのだが。

 シャノが突然、自分の持つ盾を大きくしたのだ。幻術の類いなのか、本当に盾が大きくなったのかは分からないが。

 そして、それを見たケンが突然コケたのだ。


 コケて態勢の崩れたケンはそのまま押されて負けてしまった。

 傍目から見ると何とも間抜けな負け方だったかもしれないが、俺は見逃さなかったぞ。

 ケンはコケたんじゃない。滑ったのだ。いきなり、足元が凍ったことによって。

 あれは、どういうスキルなのだろうか。凍らせるスキルなんて聞いたこともない。

 シャノというプレイヤーはどうやら、未知のスキルを持っているようだな。


「よし、やるか」


 屋上に着いた。

 さて、ここからは集中してやらないと酷いことになる。

 初めは、思ったところに飛ばずにやらかしたからな。最近はいい感じだが、気を抜けばまた大惨事になりかねない。


 屋上の端に立つ。

 背にはいくつかの建物を挟んで大通りが。

 目の前には“アウィン親衛隊”のギルドホーム。

 アウィンは……よし、離れてるな。

 いや、別にアウィンが行ってしまって寂しいとかじゃないぞ。その鬱憤うっぷんを晴らそうって訳でもない。

 訳でもないんだが……。


「やっぱ、目標物があった方が練習になるからな。そういうことなんで、協力よろしく。“アウィン親衛隊”さん」


 右手を上げ、狙いをつける。

 右手の延長線上には“アウィン親衛隊”のギルドホーム。

 さあ、しっかり集中しろよ、俺。


「……《火球》」


 イワンの町の路地裏で火の玉が一つ打ち上がった。

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