第五十四話「宣戦」

「そしたらね! お兄ちゃんがドーン! って!」

「すごーい!」

「さすが、兄ちゃんだな!」

「あとねあとね! お兄ちゃんの作戦はぜーんぶ大成功! でも、自分で死んじゃうのはやめて欲しいの」

「あー、死に戻りだねー」

「それは仕方ねえだろ、アウィン」

「えー! ココちゃんとテオくんまでそんなこと言うの!?」


 冒険者ギルドまでの帰り道。俺の後ろを付いてくるのは中学生三人。内一人はそう見えるってだけだがな。

 話のネタは大体、俺たちがこれまでやって来たこと。ボス撃破の話ならまだ分かるが、オッドボールでの何気無い会話や屋台で何を買ってもらっただとかは言わなくていいだろ。

 それを興味津々に聞いてるココとテオもどうかと思うが。


 それにしてもこの三人、すぐに仲良くなったな。アウィンに友達ができることはいいことだ。

 ……親みたいになってねえか、俺。

 うるさいのが俺から離れてくれるから嬉しい。いいこと。多分、こういうことだ、うん。


「ほら、着いたぞ」

「え? わ、ほんとだ! もう着いてる!」

「おいおい、まだ大狼を倒したとこまでしか聞いてないってのに!」

「そもそも、話なんかボス戦だけ聞けばよかっただろ。リンゴがどうとか、聞く意味あったか?」

「師匠の一挙手一投足に無駄はないからな!」

「ちょっと待て、師匠って呼ぶなっつったろ」

「呼ばないよー。呼ぶことはないけどあたし達の中ではししょー!」

「……もう勝手にしてくれ」


 人前で呼ばれないなら面倒なことにはならないだろ。つーか、なんの師匠だよ。演出か? 不名誉すぎるんだが。


「そういや、冒険者ギルドには闘技大会の受付に来たのか? 大会は明日だぞ」

「実は受付があるってことを最近知ったんだよ。それまではずっと必死にレベル上げしててさ」

「ぷふー、テオどんくさーい。抜けてるー」

「うっせ、間に合ったんだからいいだろ」

「ん? ココは大会に参加しないのか?」


 テオは生産職だが、戦闘もできる生産職だ。大会があるなら参加したいと思うのは自然なこと。生産職の種類は多いから生産職というくくりでで一つのトーナメントがある。

 そして、そんなテオと一緒に行動しているココも、もちろん戦闘はできると思ったんだが。


「あたしはヒーラーでサポート役だもん。そりゃ、ヒーラー同士の戦いも興味はあるけど。自分でやっちゃおうとは思わないかにゃー」

「そういうもんか」

「ココちゃんの戦ってるとこ見たかったです」

「アウィンちゃんとはまた今度、一緒に狩りしようね!」

「わ! ほんとう!? お兄ちゃんいいですか!?」

「俺がログアウトするまでに帰って来るならいいぞ」

「分かりました! ココちゃん、絶対だよ! 約束ね!」

「いいよー。約束約束ー!」


 女の子二人で盛り上がっているようなので、ちょっと席を外させてもらおう。

 テオは受付に行ったのか? いつの間にかいなくなってたな。


「お? こんなのあったっけか? “闘技大会出場者一覧”ね」


 もちろん、俺が気になるのはテイマーの欄。闘技大会へは即受付を済ましたから載っているとは思う。一応、確認はするつもりだが、本命は別だ。


「剣士、拳闘士……。暗殺者、探索者……。やっと見付けた。端すぎんだろ、さすが特別職。で、内容は……」


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 闘技大会出場者一覧 テイマー


 プレイヤー名  モンスター数

 エリー     2

 テイク     3

 犬士郎     1

 ミル      1

 曝首      1

 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


 なるほど。

 とりあえず、少ないな。

 これから増える可能性もあるが、もしこのまま五人だった場合、最悪でも三回勝てば優勝だ。


「…………」


 だが、人数も大事だがそれ以上に大事な数がある。

 ギルド“青薔薇”のギルマス。“森林の大狼リェース・ヴォールク”をテイムし、ラピスとトパーズを雑魚と言った、あのプレイヤー。

 エリーのモンスター数が、二だと……?


「あら、貴方は確か……。ご機嫌よう、ギルド“オッドボール”のギルマスさん。プレイヤー名は……」

「テイク、様です。エリーお嬢様」

「ありがとう、メリー。テイクさん、いつぞやの件以来ですわね」

「…………」


 噂をすれば影。

 なんて的中する言葉なのだろうか。一度統計を取ってデータ化してみたい。


「ああ、久しぶりだな。お前、モンスター数が二体になってんじゃねえか。何増やしたんだよ」

「見てのお楽しみですわ。もしかすると、見る事すらできないかもしれませんわね」

「つまり、先発は狼ってことだな?」

「ええ、その通りですわ」

「……」


 エリーの表情は変わらない。コイツの言ったことの真偽は分からないか。

 いや、コイツ馬鹿だし、案外考えてない気もするな。隣のメイドに何か吹き込まれたりすりゃ別だが。


「貴方もモンスターを増やしたようですのね。ちなみに何を?」

「お前の言葉、そっくりそのまま返してやるよ」

「では、先発はスライムかホーンラビットということで間違いありませんわね?」

「は?」


 ドヤ顔がウザい。言い返したつもりなんだろうか。

 メイドを見る。お辞儀を返された。どうしろと。


「……ほんとお前馬鹿だな」

「なっ!? わたくしに向かって!? 失敬ですわね!?」

「そっくりそのままって言葉を完全に真に受けるとは思ってなかったわ。見てのお楽しみってことだ。察しろ。てか、気付け。あと、もっと他人と会話しろ」

「なっ!? なっ!? なななななぁっ!?」

「エリーお嬢様、お気を確かに」

「メリー……! わたくしは……」

「少しずつ、私以外の方とも会話致しましょう」

「メリーが言うなら間違いないですわね!」


 怒るとこじゃないのか。

 信頼してる……のか? 単に空気が読めないだけか。


「そうだ、おい、お前」

「っ! なんですの? わたくしにはエリーという名前が」

「お前、まだマルチスライムとホーンラビットは雑魚だと思ってんのか?」

「……ええ。わたくしのリルちゃんに適うはずがありませんわ。一瞬で終わらせてその事を証明してみせてあげます」

「……それを聞けて安心した。じゃあな」


 いいんだ。これで、いい。

 胸の内から沸々ふつふつと湧き上がるこの怒り。

 絶対に負けない。勝つ。

 一泡吹かせて、ラピスとトパーズに詫び入れさせてやる……!


「あ、お兄ちゃんここにいましたか! ……どうしましたか?」

「アウィン、それにラピス、トパーズ。明日からの闘技大会、勝ちに行くぞ」

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