切羽詰まっているので初投稿です

三浦太郎

※エアプ注意※

レコードの針を外へ、という僕の理性の皮を被った本能。僕の手はその為に何度も上がっては下がっている。

母が好んだらしいレコード、その大きな板には洋楽、カントリーだと思う、が刻まれていた。押し入れから見つかった黒い円盤は、古ぼけた森と湖の風景が印刷された厚紙に埃から大事に守られていた。

温かく包むように、僕をプレイヤーから離さないのは何故だろうか。それでもきっと、母もそれを振りほどこうとはしなかったのではないだろうか。

なんとなくぼけた音は、きっと母が何度も針を置いたからに違いない。

ちゃぶ台の上に乗っかって、円盤はくるくると踊っている。曲に包まれながら、僕の目は光を照り返す円盤を呆と眺めている。小さな劇場で踊っているようでもあった。

何度も針を動かす。母が歌っているのと、段々と重なっていく。台所に立って、鍋をかき混ぜる手、一つに纏まって揺れる髪、小さく漏れる鼻歌は、セピアで色付けられたように、けれど嫌というほど耳に響く。僕が知っている母を、強く刻まれたお母さんを小さな僕は横から横から眺めている。

お母さんは鍋の火を止めると、僕の方を向いた。

夕日が差し込んでいる部屋の中、僕は眠っていた眠っていたようだった。赤と黄を照り返す黒い円盤は、変わらずくるくると回っている。

じっとりと下着が背中に貼り付いていて気持ちが悪い。ちゃぶ台も腕の形の濡れた跡を浮かべている。

袖で汗を拭い、外を眺める。黄金の夕日が燃え上がり、身を捩り、地の彼方へ沈んでゆく。目が焼けるようだった。

もう一度、僕は針を動かした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る