02 開拓都市アレハンドロ
031 道行きとスカウト1
出発は5月19日。冷たい小雨が降っている朝だった。
昨日は、泡倉でセニオさんとロジャーさんの力を借りながら資材を集めてた。セリオ様やロージーさんに頼まれた物もある。そんな物があるか僕には分からなかったんだけど、アラン様が絶対あると言い切って、場所の推測までしてくれたので何とか分かったんだ。いつの間にかアラン様偵察してたんだ。すごい。泡倉の守り役であるセニオさんも感心してたよ。
僕の視界の端には現在時刻、気温と湿度が表示されている。14度73%。馬車の中に居ても肌寒い。荷台の機密性は高くないし、服も余り良くない。壁際に座っていると、お尻が濡れて気持ち悪い。ハンナは髭の濡れた猫みたいに機嫌が悪くて大変だった。なので僕とハンナは同じ毛布にくるまって暖を取ってたよ。ちょっとは機嫌が良くなって良かった。
冒険者の人達は交代で馬車に入ったり出たりしていた。体力を温存するためみたい。
雨でぬかるんだ道なき道を進むのはとても大変。重い荷物を載せた馬車に荷車は容易に足を取られるし、馬も消耗する。ぬかるみから馬車を出す度に総出で掛からなきゃいけないし、歩いた方が余程早い気がする。四大術、せめて闘気法は使わせて欲しかったけど、セリオ様の許可は出なかったよ。残念。
昼食は煮炊きの出来ない馬車の中。さすがに冷えた食料じゃ元気が出ないということで。僕とアラン様でお湯を出した。皆喜んでくれてたので一安心。
その後は四大術の使える人で馬車の中を温めたり、
もちろん馬も大事にしたよ。体を拭いたり、温めて上げたり。美味しいお水出して上げたり。ただ、僕は四大術しか使っちゃいけなかったんだ。神術で体力回復はできなかったのが残念。だって冒険者の人達は村の人というわけじゃないからね。どこから話が漏れるか分からない。ってセリオ様がこっそり耳打ちしてくださった。
夕方前には、雨も止んでホッと一息。野営できる場所に陣取る。
ここまでで、僕は色々と情報を耳にした。勿論ロジャーさんにも頑張って貰ったけど。冒険者の人達は全部で5人。以前僕が見た騎馬に乗った二人の他に、三人徒歩の人がいたみたい。
気になっている青髪のお姉さんはフラムさん。冒険者組合の募集で集まった一人。馬に乗れて剣が使え、斥候的な事も出来ることから採用されたそうだ。剣の腕も中々のものだとか。最近アレハンドロに来たばかりの人だそうで、最初は凄く古くさい言葉遣いだったそうだ。なので、どこか良いとこのお嬢さんだったのではないか、と。冒険者のおじさんが言ってた。
そのフラムさんも何度か馬車の中に入ったのだけど。当たり障りのない世間話だけだった。確かに人の居るところで込み入ったことを聞けるわけもないし。
ロジャーさんの見立ても商隊の副長であるシルビオさんも、また降るだろうと予想してた。気をつけて野営の準備。ぬかるんだ地面や布、草、様々な物を乾燥させ、竈を作りテントの設営を手伝う。
溝を掘って排水しやすくしたり、地面を盛り上げたり。ただ、コミエ村よりやりにくい。石舞台を作った時とはほど遠い。なので、自然と最小限の工事。
まぁでも預かり子だから当たり前だよね、と。ハンナと一緒に頑張ったんだ。人足のおじさんや冒険者のおじさん達はびっくりしてた。さすがアラン様の隠し子だ! って。ん? なんか誤解が?
そのアラン様は、ちょっと体調を崩し気味。たき火の側でセレッサさんが薬湯を作り飲ませている。咳は出てない……。でも、今後泡倉の影響が薄くなったら、また薬漬けになってしまうかも。人足の人達と冗談を言い合ったりしてるのが、無理してるみたいでいたたまれない。
『坊っちゃん』
『何か分かった?』
『ええ。そのフラム。恐らく力ある精霊か、下級の神ではないかと思いやす。ただ、この地上に肉体を持った神が居るという話は聞いたことがありやせんな。少なくとも、復活歴が始まってからは』
『そういう人が、このタイミングで僕の目の前に来る。偶然、じゃないですね?』
『でしょうな。で、どうされます?』
ちょっと沈黙。なんでロジャーさんがそういう事を知っているのか、というのはおいておく。
ロジャーさんが決めてくれないかと一瞬期待したんだけど。あぁ、そうか。僕が主人だものね。
さて、今の僕の手札で決めるなら……。
『タイミングが合えば、こちらから話しかけてみましょう』
『合わなければ?』
『向こうから来るのでは?』
『いいんですかい、坊っちゃん?』
『良いも何も……』
ちょっと僕はため息をついた。
『先日、目が覚めて、まだ19日なんですよ? 事態の動きが急すぎて……。これ以上変数を増やしたくない、というのが僕の率直な思いです』
『変数』
『そうです。変数が増えれば、問題が複雑化し、予想が付かなくなります。これから未知の土地に行くんです。なるべく余計な心配したく有りません』
『わかりやした』
夕食前にまた雨が降り出し、保存食と簡単なスープばかりになってしまった。折角竈作ったのに。パンも保存用ので酸っぱくて硬い。だけど、酢漬けの野菜はちょっと面白い味だったよ。
夕食後、僕は大人達の話し合いに巻き込まれてた。参加者は、セリオ様、アラン様、ロージーさんとシルビオさん。人足頭と冒険者の代表も同席した。会場の馬車の荷台はぎゅーぎゅー。おまけに湿っぽくて臭い。
今日の進行が余りに悪く、雨も降り続けそう。馬の体力も心配。勿論人間も。冒険者や人足は体力仕事とは言え、この状況はきつい。
次の村まで2日の予定だったけど、これでは4日かかるのでは、と。
僕は、アラン様と僕、アラン様の秘書のセレッサさんで手厚く支援すれば。特に僕が頑張れば、と思ったんだけど。どーも話し合いの方向を見ると、今日の支援でも滅多に無いものらしいです。金貨が出ていきそうなレベル、とのこと。
……ええと、僕の食費、一食5
「けほっ。ん、んーー、あーあー。ちょっと良いか?」
あ、アラン様、咳き込んだ。セレッサさん、今居ないけど呼んだ方が良いのかな? 泡倉に連れて行きたい……。なんとか泡倉の物を渡せないかな。
「支援だが、金は要らんからもうちょっとやらせてくれ。このまま出し惜しみしてたら体が持たねぇ。こほっ」
「し、しかしアラン師。そのお体で術を使うのは大変なのでは?」
「そこはそれ、俺の弟子が、自重無くやってくれるはずだ」
「え? ぼ、僕ですか?」
聞いてないよ、と、アラン様を見ると、僕にぐっと親指を立てた。いい顔してる。嬉しそうだなぁ。控えるように言ってたのに。後で訳を聞こうっと。
「え? いいんですか? その子は……」
僕とセリオ様、アラン様の顔をキョロキョロ見るロージーさん。
「アラン様の命とあれば、不肖、コミエ村のサウル。全力を尽くします」
と、僕は答えた。
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