人形積み



 窓一つない薄暗い部屋で、少女は歌を歌いながら人形遊びをしていました。というよりもそれ以外することが何もないのです。

 光の射し込まないこの部屋には時計などなく、今が一体何時なのかわかりません。

 

 ――――お母様はいつ帰って来るのだろう。


 そう、少女は母の帰りを今か今かと自分のお部屋で待っていたのです。ですが母の帰りを待っていた少女はいつしか眠りこけてしまい、気がつくといつの間にかこの部屋にいたのです。初めは吐き気のするほど気持ち悪い臭いが充満していたこの部屋ですが、今ではそんな臭いは一切しません。もしかしたら鼻がもげてなくなったのかもしれません。心配になって自分の鼻を触ってみましたがちゃんと鼻は少女の顔の真ん中にありました。

 ホッとすると、今度はお腹が空いてきました。お手洗いにも行きたくなりました。しかし辺りを見回してみましたが、たくさんの手や脚、胴や顔といった人間そっくりの人形のパーツが転がっているだけで、この部屋には他に何もありませんでした。

 空腹を満たすため、仕方なく近くにあった人形の腕を手に取ってみました。それを口元に近づけ静かに頬張ってみます。味はよくわかりませんでしたが、食べることは出来るようでした。運よくこの人形たちは、少女が持っていたような中が空洞になっているプラスチックでできたものではなかったようです。

 お手洗いは、初めは躊躇われましたが部屋の隅ですることにしました。人形たちの顔が少女をじっと見ているようで何故か恥ずかしくなってきましたが、所詮それらは人形です。気にすることは止めました。

 お腹は満たされましたし、お手洗いも済ませました。そうすると、今度は意味もなく孤独を感じました。誰でもいいから話し相手がほしくなりました。ここには母も、友も、お隣さんも、先生も、誰もいないのです。寂しくて、不安で、少女は泣きそうになりました。

 不意に、ガタガタと音を立てて、上から人形のパーツが降ってきました。それを眺めながら、少女はふと思い出したのです。そう、ここには人形があるではないですか。

 少女は手近にあった脚や胴をくっつけてお友達を作ることにしました。

 左右同じものを見つけられず、右足は小さい子どものもの、左足は大きいので大人のものでしょう。その上に、胸の大きな胴をのせました。胴には手が付いていなくてはいけません。右腕は皺くちゃ、これはお婆さんの手かもしれません。左腕は脂肪のたくさんついた太くて短いもの。最後に頭をのせました。優しそうで顔の整った若い男の人のものです。

 こうして少女のお友達は出来ました。嬉しくなって少女はたくさんお話をしました。時折歌を歌ってみたり、踊りを踊ってお道化て見せたり。いつまでも微笑み続けるそのお友達に、全てを忘れてしまう程語り続けました。

 しかし、重ねたモノはとても歪でちょんと額を突けば簡単に壊れてしまう。それは結局人形でしかないのです。

 ばらばらに崩れてしまったモノを眺めて、少女の口から疑問が零れ落ちます。

「どうして人形ってこんなにも脆いんだろう」

 その解答は誰からもありません。いくら呟いたところでその声は部屋の何処かに吸い込まれ消えてしまうだけでした。

 そして少女はまた、人形を積み上げていくのです。


 おててをむねに

 あんよはおこしに

 おべべはなにがにあうでしょう


 可愛らしい歌声に招かれるように今日もまた、ガタガタと音を立てて人形は増える。それらがどこから来るのか知らずに、今日も少女は人形積み。

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