第65話 灰の瞳の青年 3

一瞬全員で考えこんだ。皆して固まっている。


「いや、母さん今は考えるよりも病院」


一番最初に覚醒したのは萌だ。


「そうだよね……着替えなきゃ!五分で玄関集合!」


ダダダと階段を駆け下りる足音を聞きながら萌も慌てて支度をする。

恵一は相変わらずスーツ姿のままでいる他なかったので、そのまま玄関に出た。

恐らく五分経たずに家を出れたと思う。

めぐみの運転中も何処かに恵一が居ないかと、全員で目を配った。


「まさかけーちゃん、自分でやったんじゃないよね⁈」


「そんな訳ないだろ、ラジコンか俺は」


自分の身体を遠隔操作したとでも言いたいのか。


「多分違う」


代わりに萌が反論してくれる。


「昨日、俺たち医者に『脳死も覚悟しろ』って言われただろ? 意識戻る確証もない状態から一日経たずに動けるまで回復するか?」


「……つまり、けーちゃんは誰かに連れて行かれたかもってこと?」


「いや、俺もわからないけど。あくまで可能性あるなって」


確かに萌の言っていることもわかる。

でも誰が、何のために?


「ねえ萌、けーちゃん。私、思うんだけど」


「何?」


「昨日の夜、病院で泣いて眠るけーちゃんを見たときに思ったの。けーちゃんが身体に戻れたんだって。

でもそうじゃなかったでしょ? だけど、どうしても私、あの身体が空っぽだったなんて思えないのよ。あの涙って生理的なものじゃなくて、何かこう……感情がこもってる気がした」


「え?」


そうだろうか。

でも、もしめぐみの言う通りならば、俺の身体の中に誰か居る。

背筋がゾワッとした。

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