第3話 昔の話 3

(名は体をあらわすと言うけれど、俺はお前にちっとも萌えないよ、萌…)


可愛いとは思う。

しょっちゅうだ。

でも「萌え」と言うのはもっとこう、可愛いでは足りない、狭く深く、溢れ出る様な、堪えようのない何かの気がした。

そう言うのが無い。

うちの父や母の様にじじばか、ばばばかを発揮して、盲目的に萌を可愛がりたかった。

そうじゃなければこの温かい家族の中で自分だけが仲間はずれの冷たい人間になってしまう気がする。


焦って萌と接すると、どうしてもぎこちなくなって、それは小さな萌にも伝わっている様だった。


そんなことを地味に思い悩んでいるうちに萌は幼稚園に入った。


「萌、入園おめでとう」


このとき俺はここぞとばかりに叔父の働きをした。

入園祝いのプレゼントを萌に渡したのだ。こう言うわかりやすい愛情表現は簡単で好きだ。


「けーちゃん、ありがとう」


自分は割と記憶力が良い方で、物心つくのも早かったから、どの年代で自分が何を欲しいと思ったか覚えている。

贈り物を選ぶときはそれが役立ったし、きっと喜んでくれるに違いないと思えるプレゼントを用意できることが凄く楽しかった。


「わあ!!れんしゅうノートとえんぴつだ!」


姉譲りのガサツさで包装紙の土手っ腹を引き裂いてプレゼントを引きずり出した萌に、思わず笑ってしまった。

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