02 すっぽんぽんである。

 それまで着ていた衣服の全てを待ち構えていた侍女達に寄ってたかって脱がされた私は、脱衣室にある大きな鏡の前で両手を腰に当てながら、意味もなく仁王立ちになっていた。


 私の脱衣という仕事を早々に終わらせた侍女達は、待機場所である控え室(鍵付きの脱衣室の前にある控え室だけが外部の廊下と直接繋がっている)へ下がらせたから、この封鎖された脱衣室という密室の中にいるのは、度重なる奇行を目撃される心配がなくなって油断し切っている私と、自分の衣服を脱いでいる途中のアレクシアしかいない。


 すっぽんぽんである。すっぽんぽんである。

 まさに生まれたままのすっぽんぽんな姿である……私の起伏の乏しい身体が。


 生まれる前から女神様の愛を一身に受けている巨乳の人々は、あまりにも大きすぎるアンバランスな胸部装甲の影響で、下方に向けている視界を部分的に遮られて、自分の足元が見えなくなることもあるらしい。そういった贅沢な悩みは、おっぱいという名の恵まれている胸部装甲があるから言えるのだ。起伏の乏しい身体の持ち主である私は自分の足元が見えないどころか、足先で踏み付けている小さな糸くずだってすぐに見つけられる。


 ランニングとかの軽い運動をしただけで、上下左右の方向に大きく揺れるから根本付近が擦れて痛くなる?前方に突き出ている胸部装甲が最初から備わっていない私は、死ぬまで走り続けても胸部装甲の根本から感じる痛みなんてない。


 うつ伏せの体勢のままで寝ようとすると、分厚すぎる胸部装甲がぐにゃりと押し潰されて息苦しくなる?私はうつ伏せのままで、よだれを垂らしながらグースカ寝たとしても、押し潰されるはずの胸部装甲そのものが最初から存在していないので余裕ですよ。


 質量のある着脱不能な分厚い胸部装甲が惑星の重力に負けるから、椅子に座っているだけで肩凝りが酷くなる?私なんて子供用の木剣を持って護身術の訓練中に暴れ回っても、普通の筋肉痛にしかならないのですが?


 胸部装甲があり過ぎて困っているのなら、少しだけでいいので分けてください。

 私の身体の起伏が乏しすぎて、切実な問題になりつつあるんです。


 第二次性徴期の期間が終わりそうになっている十四歳で、胸部装甲のサイズがBカップに届かないのは流石に不味いような気がする……。自分の貧相な幼児体型のことを真剣に考えたら、心がぽっきり折れそうになるので考えない方向で。


 アレクシアが側仕え用の侍女服を脱ぎ終わるまで、鏡の前で変なポーズを取っていよう。


 アレクシアにあげた(私が誕生日にプレゼントした)絞殺用のピアノ線が内臓されている腕輪とか、太股のところにある投擲用の小型投げナイフがたくさん括り付けられている皮帯とか、侍女服の上着のところに隠すように収められている二本の大きなククリナイフとかは気にしたら負けだから余裕を持ってスルーしておく。


 自分の着衣を脱がされている最中に暗殺される危険性もあるから、数多くの暗器で武装しているアレクシアは護衛対象者である私が完全に脱ぎ終わるまで自分の侍女服を脱げない。


 アレクシア以外の侍女達も城内で護身用の短剣の所持を認められているから、後先を考えない共倒れ覚悟の暗殺なら成功させることができる。この場で私のことを侍女の誰かが暗殺しようとしても、短剣が左腰にある鞘から完全に抜け切る前に、アレクシアのククリナイフで侍女の頚動脈を切断されるという素晴らしい相互監視体制である。


 城内で勤務している侍女の大半が、伯爵家以下の家格を持っている中位や下位貴族から集められた子女達だ。普通の貴族屋敷に勤めている平民階級出身の侍女に比べれば、格段に待遇がいいとも言える。その分、欺瞞と権謀術数が渦巻いている殺伐とした職場環境になっていて、ストレスのあまり胃薬が大量に必要になるけど。


 敵対勢力に組みしている護衛騎士や侍女を排除できない理由と同じで、城内の人間を全て信用できる王党派貴族で固めてしまったら、どっちつかずで旗色を鮮明にしていない王家が共和派貴族に敵対意思を持っていると判断されてしまうから。十年前に起きた大規模な粛清の影響で、共和派貴族は極度の疑心暗鬼の状態に陥っているからだ。今はピリピリしている相手側を極力刺激しないようにしながら、平民からの支持を徐々に増やしていくしかない。


 でもそれって、匍匐前進だけで東京から大阪まで進むようなもの。

 ガリガリと容赦なく削れて痛くなるのは、お腹じゃなくて私の精神だろうけど。


 どこかに殺伐とした詰んでいる国内問題を一気に解決してくれる、外見と性格が良い勇者様はいらっしゃいませんか?今なら、ぺったんこ体型のロリお姫様(ちなみに私の外見は慈悲深く見える清楚系です)がほいほい付いていきますよ。はっ、異世界ハーレム系のライトノベルじゃあるまいし。そんな都合のいい存在がいてたまるものですか。


「――ンツィスカ様」


 そういえば、アレクシアが前に話してくれたソルフィリア王国の勇者召喚の御伽噺は突っ込みどころ満載で面白かった。成功する見込みのない儀式の最中に、勇者召喚の魔法陣から突然姿を現した男性なんているわけないでしょ。きっと勇者召喚の魔方陣から姿を現したとされる男性は、単独で凶暴なオークを倒した腕っぷしが強い農民か何かでしょうね。


 隣国のソルフィリア王国は魔境への無理な出兵を何度も繰り返して、安定化させなければならない国内経済が全体的に落ち目になっているから、担ぎ上げて偶像化することができる便利な勇者が必要になっただけっぽい。今日の観兵式にソルフィリア王国の王族も招かれているらしいから、観兵式後に行なわれる予定の晩餐会で少しぐらい話題に上るのかな?


「―ランツィスカ様」


 それにしても……本当に起伏がない体型だよね。


 貞操を失うことにかなり危機感を持っていたけど、自分の体型を見下ろして杞憂になるかもしれないと思えてきた。う~ん……認めたくないけど、ギザギザしている波状の刻みがまったくない洗濯板(突起してるのがピンク色の乳首しかない)みたいに真っ平らだから、女性的な魅力がとんどないよね、これ?こんな平坦すぎる貧相な身体で、本当に男性と結婚できるのかはなはだ疑問だ。


 女神様に愛され過ぎているアレクシアぐらいのナイスバディなら、相手の男の人を楽勝で篭絡することができそうだけど。あれ、ちょっと待って?アレクシアの年齢は十六歳だったはずだ。それなら、これからも胸囲が成長するんじゃない?


「フランツィスカ様。申し訳ありません、お待たせしました」


「ほきょ?」


 後ろを振り返った私の間抜け顔の前に、Dカップの巨乳があった。



 ◇◇◇



 お風呂好きな日本人は、どこに行っても湯舟の中で体を浸からせたがる綺麗好きの国民性だと海外の人には思われているそうだ。起伏に富んだ地形の日本列島という水資源が豊富な環境で育まれた体を清潔に保つという生活習慣は、文化が違う海外に行ったとしてもなかなか変えられないものらしい。


 陸上自衛隊の需品科(各部隊に対する各種後方支援活動が主な任務)が運用している野外入浴セットは被災地で活躍してたし、海外赴任する日本人が任地に入浴剤を持ち込むことも多かったみたい。


 取っ手が付いた木桶で頭からお湯をかぶると微妙な気分になる。


 お風呂の水に硬度がありすぎて髪の毛を洗いすぎるとパサパサになっちゃうし、頭皮が乾燥しすぎてフケも出やすくなるから、肌がぴりぴり痛くなる硬水のお風呂はあんまり好きになれない。水に含まれているカルシウムとマグネシウム(金属イオン含有量)が多すぎて飲み辛いし、飲んだ時の口当たりも悪いし、お腹が痛くなっちゃうぐらい癖も強い……飲み過ぎるとお腹を壊す水って嫌すぎる。


 女の子座りをしながら濡れ鼠になった私は、前世の世界で入った軟水のお風呂が恋しくなったので、海岸まで押し流されてきた土左衛門ごっこをしたいと思う。


「フラン、そろそろ髪を洗いたいんだけど?」


 パタンと倒れる前に阻止されてしまった。


「シア姉の意地悪」


「くだらないことを考えている時のフランの表情は分かりやすいからね」


「もっと具体的に……私の表情のどこが分かりやすかったの?」


「さっきは右の口端が少しだけ上がってたし、猫を被っていても王城の中で嫌いな人とばったり会った時は左のほうの眉が僅かに下がるでしょう?それに緊張している時は、右手の人差し指で引き金を引くみたいに動かす癖もありそう」


 アレクシアに自分でも自覚していなかった癖を把握され過ぎている。


「なんてこったい」


「石鹸が泡立ってきたから、そこの椅子に座って」


「は~い」


 どうやら私は、誰かに触れられることを極端に嫌がっていると思われているらしい。


 私はどちらかと言うと、自分の身体を誰かに隅々まで洗われるよりも、私が相手の身体をゴシゴシと丁寧に洗いたいタイプなのだ。柔らかくて起伏に富んでいるアレクシアの身体をゴシゴシ洗いたいけど、「お立場が違います」と言われて必ず笑顔で断られてしまう。揉ませて、揉ませて、タオル越しでも胸部装甲を揉みたいお年頃なんだから笑顔で断らないで。


 お風呂用の背もたれがない椅子に座りながら、揺れそうで揺れていないアレクシアのDカップもある胸部装甲を見続ける。目を逸らせられない、やっぱり大きい。


「私の胸ばかり見てないで、後ろを向いて。でないと髪を洗えないでしょ?」


「うん」

 

 私は自分の野望が叶うまで、決して諦めない!


 洗濯板のような起伏の乏しい身体は自分で洗って、腰まである長い金髪だけはアレクシアに洗ってもらう。それはどうしてかと言うと……アレクシアに髪の毛先が枝毛になっていると駄目出しされたからだ。


 枝毛防止のリンスもないから、原始的な工程で作られている液状石鹸とお酢リンスを使いながら髪を丁寧に洗われて――身体の隅々まで洗い終わり、お互いの身体に固形石鹸のカスが付着していないか確認した後で、私達はようやく温かい湯船の中に入ることができた。

 

「シア姉、お風呂は命の洗濯だねぇ~」


「誰かさんが私の胸を凝視してなければね~」


 着脱不能な胸部装甲がお湯に浮いて、その圧倒的な存在を主張しています……。


 是非とも着脱不能な胸部装甲の谷間に顔を埋めてみたい。だけど、大好きなアレクシアに嫌われたくないから顔を埋めるセクハラは我慢しよう。補正用のブラジャーもしていないのに形が崩れない胸部装甲を揉めることができたなら、私の薄すぎるぺったんこの胸部装甲にも少しぐらい御利益があるかもしれない。はっきり言って、それは殺傷力を持っている立派な凶器だよね?うん、羨ましすぎる凶器だ。


 しょうがないので、自分の胸を揉んでみよう。

 ぐりぐり、ぐりぐり、ぐりぐり。……この硬い感触は胸じゃなくて、肋骨?


「……まだ、骨折したところが痛い?」


「ううん。シア姉のおっぱいが羨ましいだけ」


 二年前に起きた暗殺未遂で、私の肋骨は折られている。

 

 揉んでいる場所が違うのに、アレクシアは二年も前のことを思い出してしまったようだ。私としては日常の一部と化している暗殺未遂の一つにすぎない。食事への毒物混入が三ヶ月に一度は起こっているのだ。私は気にするだけ無駄だと思う。


「あの時は守ってあげられなくて、ごめんね」


「シア姉が気にすることじゃないよ。私も子供用の緩いコルセットで胴体を思いっきり強く締め付けられて、暗殺未遂を起こされるとは思いもしなかったからね」


 背骨と肋骨が折れそうな大人用のコルセットとは違い、子供用のコルセットは胴を締める割合がかなり緩くなっている。骨格への悪影響や着用させられる練習を兼ねているからだ。そうだというのに暗殺未遂を起こした犯人は――当時の衣装担当の侍女は誰も見ていないことをいいことに、私の背中に片足を乗せて、コルセットの紐を全力で絞め上げてきた。


 今でも鮮明に覚えている。


 軋み続ける肋骨の音と、吐き出されたまま吸うこともできない息苦しさを。あのまま窒息と激痛で気を失っていたら、予備のコルセットの紐で暗殺未遂の犯人にあっけなく絞め殺されていたことだろう。真っ赤な顔で必死に両手を動かして、目の前にあった姿見の鏡を叩き割って本当に良かった。


「それにシア姉はちゃんと守ってくれたでしょ?暗殺者の両手首を切り落として」


「護衛対象のフランが口から血泡を吐き出している時点で、護衛失格だよ」


 ……あれ。これって、アレクシアの胸部装甲を揉むチャンスじゃない?

 

 この貴重なチャンスを逃してしまえば、アレクシアの胸部装甲をゆっくり揉めなくなってしまう。私は世界で一人しかいないおっぱいソムリエとして、絶好の機会をみすみす逃がすようなことはできない。女の子同士だからできるセクハラもあるのだ。真剣な顔で、真剣な声色で、そして自分の邪まな欲望に忠実になろう。


「うんうん、あの時のシア姉は護衛失格だったよね」


「え?」


「私を守り切れなかったシア姉には、罰が必要だよね?」


「フランの手つきが……」


 私は両手の指をうにょうにょ動かして、揉むための準備運動をしているだけです。

 だらしなく、にやけた顔が元に戻せない。よし、準備完了!


 お湯を掻き分けて、浴槽の反対側にいるアレクシアのほうへ近づいていく。これは護衛の仕事を全うすることができなかったアレクシアへの罰なのだ。私は心を鬼にして、罰を与えなければならない。Dカップの大きなおっぱいは片手でガードされているから、最初の罰は美味しそうな耳への甘噛み。


「はむっ」


「フラン⁉」


 アレクシアの耳を歯形が残るぐらい強く噛むことはできないけど、唇から感じるアレクシアの柔らかい耳の感触だけで幸せになれる。いつも自分の感情と相手の感情を天秤に掛けているけど、今だけは自重したくなかった。綺麗な顔を真っ赤にさせながら、抵抗することもできないでいるアレクシアの反応が面白すぎる。


「ちょっと、本当にっ、やっ、やめてっ」


「私はやめなさいよ。だって、これは私を守れなかった罰だもの」


 大好きなアレクシアに嫌われてもいい。


 前世で贖うこともできない大罪を犯してしまった私は、元から幸せになる権利なんてないのだ。この残響のような物悲しい世界の中で泣いてばかりいる私は、自分が生きている意味を見出せないでいる。私のことを嫌いになっていい、でも大切な人を失いたくない。そんな溢れ出しそうな矛盾している感情が日頃から抑圧されている私の思考を黒く塗り潰す。


「大丈夫だよ」


 優しく耳を甘噛みしていた私は、何故かアレクシアに正面から抱き締められていた。


 前世の惨めであっけない最後を思い出して、精神的な不安定になっていることをアレクシアに気づかれた?邪まな欲望丸出しの締まりのない顔でアレクシアにセクハラしてたから、気づかれないと思っていたのに。甘噛みしていた耳から唇を離して、アレクシアの顔を恐る恐る覗き見る。……正直、やり過ぎた自覚はある。


「今のフランは、お母様が傷ついた時みたいに泣きそうな顔をしてる」


「そんな顔してるかな?」


「私はフランが怖くなって、私のことを試したくなったとしても構わない」


「……どうして?」


「結果が変わらないから。だから、私のことを試しているんでしょ?」


「ごめんなさい。シア姉に抱き締められるまでは、そんな感じだったけど……」


「え?」


「精神的に落ち着いちゃった今は、シア姉の大きなおっぱいに顔を埋めてみたいと思っている邪まな欲望が、私の考えの大部分を占めてる。シア姉の許可をもらったので、これから盛大にセクハラしたいと思います」


「ええ⁉」


 目の前にあるDカップのおっぱい、いただきます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る