否応なしの役職人事

「サドニナオンステージ、はっじまっ」

「らなーい」

「また音切ったー! Kちゃん先輩のケチー! 鬼ー! 人でなしー! サドニナがかわいいからって嫉妬しないでくださいよねー!」


 サドニナがまーたKちゃん先輩を怒らせている。ABCでは5月にある植物園ステージに向けて準備を始めていた。植物園ステージは代々2年生が仕切るイベント。つまり、あたしやサドニナといった新2年生が中心になる。

 本来なら、2月17日が語呂合わせでニイナデーらしいんだけど、先月はまだ土曜日にまで出てくるような感じじゃなかったから完全にスルーされた。3月10日のサドの日も春の番組制作会でニイナデーがさらに延期になって、暴発してるような感じ。


「アンタねえ、いい加減に歌ったり踊ったりばっかりしてないでステージの練習をしなさい」

「まだ台本上がってませんしぃー。ユキぃー早く台本書いてー」

「サドニナ、ちょっと黙って」

「ラブラブもいいけどステージも頼みますよぉ~」

「ウルサイ! 書くのに集中出来ない!」


 さっきからサドニナがちくちくちくちくウルサイ。見ての通り、ステージの台本を書いているのはあたし。サドニナは台本を書けるような感じじゃなかったから、じゃああたしがやるしかないかーって。なっちゃんはミキサーだし。

 でも台本は始めたばっかりだからまだ書けてないし、大体それとミドリのこととは全く関係ないからね! サドニナはただ単にアタシをイジって遊びたいだけなんだってわかってるんだからね!


「うう~、直クン先輩、サドニナがイジメてきます~」

「そっか、ユキちゃんはミドリと付き合い始めたんだね。おめでとう」

「それはいいんですけど台本が進まないんですー」

「啓子、サドニナの相手もいいけど何かユキちゃんにアドバイスしてあげなよ」

「うーん、そうだなあ」


 今の2年生の先輩は分業制が本当に上手く行ってた。Kちゃん先輩が台本を書いたりリーダーとしてスケジュールを管理する。宮崎工務店こと直クン先輩が大道具なんかを作る。そして糸魚川呉服店ことさと先輩が衣装を作る。本当に完璧だった。

 あたしたちはそんな風にはなかなか行かないから、出来ることをやる。大道具はある物で賄おうということになった。台本はアタシが書く。衣装は今年もさと先輩にお願いしてある。なっちゃんはデビューに向けてミキサーの練習を頑張ってくれている。

 問題はサドニナ。基本遊んでばっかりにしか見えないし、影で何か努力している風にも全然見えない。Kちゃん先輩からも怒られてばっかりだし。台本上げなきゃ出来ることも少ないっていうのはわかるけど、アイディアも出さないのに早く書けってちょろちょろされると、ねえ。


「大体は去年のことをなぞりつつアレンジで大丈夫。企画に関してはEテレとか見てみるといいかもしれない。主な層は子供だから」

「はーい」

「でも、台本書いてる周りでサドニナがちょろちょろしてイライラするんですけど、その辺の精神修行もしたいです」

「だったらいい人を知ってるから、紹介してあげようか」

「えっ、ホントですか」

「書くこととかステージのことだったらこの人に聞いておけば間違いないって人がいるから。ウチにはPってパートはないけど、プロデューサー修行は確かに必要かも」


 サドニナは相変わらずサドニナオンステージをやろうとして忙しそうにしている。さっきまで音を流していたミキサーはなっちゃんの練習用に取られちゃったから、今度はスマホから音を流して踊っている。

 歌って踊れるアイドル声優を目指してるとは聞いてるけど、サドニナがどこを目指してるのかが本当にわからない。歌って踊ってるのは見るけど、声優なら声とか演技の方が大事なんじゃないのかなあ。


「せっかくミラにマイク用のリボンデコってもらったのにー」

「えっ、サドニナアンタミラに会ったの!? いいなー抜け駆けー!」

「ユキにはラブラブな彼氏がいるじゃん」

「ウルサイ! それとこれとは全然別の話! いいなー、あたしもミラと会いたいなー」

「ユキちゃん、あたし今度ミラと一緒にハンドメイド展に出るんだよー」

「えっ、さと先輩ホントですか!」

「うん。手芸サークルに入ってからいろいろ作るようになって、どんどん楽しくなってきてるって。ユキちゃんハンドメイドとか物作りとか好きだし、良かったら見に来てね」

「絶対行きますっ!」

「あと、良かったらミドリくんも連れてきてね。あの子もこういうの好きだし」

「さと先輩からのお誘いなんて絶対喜びますよー、絶対連れてきますー。よーし、ハンドメイド展に向けて台本と修行頑張るぞー」


 俗に言う、自分へのご褒美に向けて。単純かもだけど、やっぱりニンジンは吊り下げておきたい。サドニナの挑発になんて負けないんだからねー!

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