趣味を回遊する
「……偶然とは言え、お前たちが知り合いになっているとは引くぞ」
「ちょっと何で引くのリンちゃん!」
「そんなリン君が言うほどヤバくないと思うけど」
甘いものでも食おうかと喫茶店に入ると、見知った顔がいた。宮ちゃんと朝霞という、大学も違えばサークルなどで関係があるとも思えない2人がちょうどケーキを迎えていたところだ。
その2人に招かれ相席することになったが、オレの知る中でもかなりイっている部類のワーカホリックが出会ってしまうなどどんな偶然か。何かろくでもないことが起こる始まりのような気がしてならん。
「何がどうして知り合った」
「就活だよ。イベント関係に興味あって回ってたら、行く先々で朝霞クンと会ってさ。しばらく共同戦線で行きましょうって感じで話してたらその他にも波長が合って」
「ゴメンリン君、USDXのこと言っちゃった。黙ってはもらってるけど」
「最も腐った界隈にズブズブの宮ちゃんならネット上の暗黙を理解している。問題なかろう」
「さすがリンちゃん。いよっ、リン様マジリン様! いやー、まさかバネ様がリア友なんて。薄々思うところはあったけど。いつも楽しく見てます、ファンです。これからもチータを無慈悲にやってください」
どうやらオレがカンノを動画上で一方的に殺すことには一定の需要があるらしいということがわかった。それをカンノに言うとやれイジメだ何だとうるさいだろうから黙っておこう。
話を聞いていくと、朝霞は現在USDXのTRPGシナリオに加え、宮ちゃんから囁かれ発行を決めた小説の執筆を始めたらしい。曰く忙しい方が筆が乗るということらしいので口は出さない。忙しさが物事の質を上げる人物は現に目の前にいるのだ。
「USDXのさ、バネ様企画の「初心者に教える」シリーズ面白いよね」
「朝霞のゲーム経験があまりないことを逆手に取ろうと思ってな。動画への入り口にしやすいだろうと。攻略サイト運営の経験も生きているな」
「マイクラで、採掘とかベッド作るとかの前に弓矢渡してチータを的にしてたの最高だった」
「建築はそれなりに出来るようになったが敵が湧くと途端にポンコツと化すのが」
「レイ君がわーわー言いながらピッケル振り回すけどゾンビ倒せてないのがかわいいので大丈夫。こないだなんか金鉱石マグマに落とすし」
「菅野にも言われたんだよな、お前は上手くならない方が面白いって」
「持ち帰って検討しよう」
オレは大学院への進学を希望しているから日々勉強ではあるが、就活が始まったからと言って趣味の手を緩める2人ではないだろう。やることが増えれば増えるほど、リアルタイムのインプットがアウトプットを増大させる。
膨大なエネルギーを創作活動やイベントに費やしている。それは一見自転車操業のようだが、経験が体を慣れさせ、さらなる刺激を求めさせ、中毒にさせる。ワーカホリックとは、動いていなければ死んでしまう連中なのだ。
「マイクラと言えば、宮ちゃん知ってたか」
「なになにどうしたの?」
「川崎によれば、高崎が採掘の神らしい」
「えっ、高崎クンマイクラやるの!?」
「正月に越野と3人で少しやったくらいらしいが。川崎がコンビニに行くのに外出した十数分の間に無数の鉱石を掘り当てたとか」
「へー」
「何でも、高崎は3D酔いがあるからマイクラは採掘するくらいしか出来んそうだ」
「あーそっか、高崎クン視点ぐるぐる動く系のゲーム出来ないもんね」
そして、今度朝霞の部屋でゲームをしようという話に落ち着く。宮ちゃんが自前のハードを持ってくるそうだ。そして互いの趣味の話を存分にして、明日を生きるエネルギーにしましょうよ、と下心がだだ漏れの顔で言う。
「俺さ、その日リン君のバンドの音源聞きたい」
「サンプルくらいしかないぞ」
「サンプルで十分です」
「あー……でもリン様マジリン様すぎて。そうだよね、リンちゃんピアノ弾く人だもんね、チータはキーボードの子なんだよね」
「キーボードの機能を生かすことに関してはオレを凌駕すると言っておこう」
「音楽関係で知り合ったんだよね元々。それで、コンちゃんとチータが同じバンドで、それから」
「そう言えば、見ていると言ったな。もしや腐ったジャンルにしとらんだろうな」
「うちはしてませんが、界隈では手遅れだとは言っておきます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます