ルーレットは運命を差すか

公式学年+2年


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 今にも殺人事件が起きそうな雪に閉ざされた山の洋館……もとい、大学のセミナーハウスにやってきた。今日は佐藤ゼミの卒論発表合宿の1日目。簡単なグループワークや何かでウォーミングアップ。

 2年生の時は男子がみんなして大部屋に押し込められていたけど、3年になると男子でも小さな部屋がもらえた。俺は鵠さんと2人部屋で、荷物を下ろしてほっと一息。非常食や酒が詰められたサブバッグが重たくて。


「はー、着いた。疲れた」

「まあ、バスで5時間は普通に疲れるじゃん? しかも今年大雪で道が狭いわデコボコだわ」

「あー…!」


 ベッドにダイブすると、そのまま沈んで行きそうな感じ。それだけ行きの5時間で消耗したんだ。寝ていれば済む地元への夜行バスとはまたワケが違う。行きのバスの中でもクイズ大会があったりして盛り上がっていたから。


「鵠さん、自由時間ていつまでだっけ」

「晩飯までだな。一応スキーは2日目昼っていう体な」

「今は行かないよさすがに」


 鵠さんはそんな俺を後目に非常食の整理をしていた。ここでの食事は本当に特殊だ。朝はホテルのようなバイキングで、夜はフランス料理のフルコース。このフランス料理というのがなかなか食べた気のしない代物で。

 一応部屋には湯沸しポットが設置されているから、お湯を入れればいい食べ物は食べることが出来る。例えば、カップ麺やスープ、それからお湯で戻すフリーズドライ系の食べ物に、アルファ米などなど。

 プレゼミ生として1年の頃から合宿に参加して、今回が3度目。白米とレトルトの鯖など、所謂「ごはんのおとも」がここで生き延びるための必需品ということが分かっていた。今回も当然鯖は持ってきている。


「うーい、康平、弟ー」

「ごはんまで時間あるし人生ゲームしないー?」

「やろまいやろまい」


 部屋に小田先輩と平田先輩がやってきて、夕飯の時間まで遊びのお誘いが入る。ロビーには観光地仕様の人生ゲームが置いてあって、毎年誰かしらがそれで遊んでいる。俺も何気に毎年やってたんだよね。


「つか4年生は発表のチェックとかいーんすか」

「ああ~、そんなん今更やってもやんなくても同じだで」

「そうそう。特に俺は映像作品だし、最悪垂れ流すだけでオッケーだからね」

「高木、起きれるか。人生ゲームやるぞ」

「あれっ、弟ダウンしてんの。乗り物酔い?」

「いや、コイツは夜型の生活リズムが早朝からの活動で崩れて疲れてるだけなんで大丈夫っす」

「そーいやさ、人生ゲーム千葉ちゃんと姐御も誘ったんだけど、姐御はヒゲさんに捕まってたし千葉ちゃんは乗り物酔いで死んでたで、大変やなあって」

「えっ、千葉ちゃん死んでた? バス下りたときはそんな風には見えなかったじゃん?」

「ほら、道がデコボコしてて揺れたから。本人はちょっと食べて寝てれば治るって言ってたけど」

「食って治る乗り物酔いなんか聞いたことないで」


 人生ゲームをやるという話はどこへやら、気付けば先輩たちはベッド脇の椅子に座って鵠さんと歓談を始めていた。俺は一度ベッドに沈み込んでしまったからなかなか起き上がる気力もなく、メガネを外して耳だけを働かせた。

 だけど、考えてしまうのは乗り物酔いで休んでいるという果林先輩のこと。果林先輩も乗り物酔いになるんだなあとか、酔ってるのに食べて大丈夫なのかなあとか、そんなようなことを。お見舞いには行けないけど。

 思えば、俺比で大量に用意した非常食は果林先輩と一緒に食べていた過去2回を参考にして用意していた。今年はどうだろう。俺が勝手に気後れするのだろうか。仮に非常食が余ったところで下山してから食べればいいんだろうけど、何だろう、食べる気になるのかな。


「康平これなにー?」

「あー、これはこのパウチの中にお湯を入れたら白飯になるっていうガチ非常食っす」

「へー、こんなんあるんやなあ」

「千葉ちゃんが教えてくれたんすよ。山の中じゃ白い飯が何よりも美味いっつって。で、こっちがカップの味噌汁と鯖の味噌煮」

「間違いないヤツやー、康平がレンジャーしとる~!」

「レンジャーて」

「鵠沼くんは体育会系だし普通にレンジャーしてそうだよ」

「言うほどしないっすよ。俺の本拠地は海だし山は管轄外じゃん?」

「……あ、弟寝とるわ」

「ホントだ。あんまりうるさくしたら悪いかな」

「とりあえず布団だけかけて人生ゲーム行きます?」

「いこまいいこまい」

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