Cowardice also tactics

「野坂くーん」

「あっ、磐田先輩! ようこそお越しいただきました!」


 さっき、天文部のプラネタリウムを見に行ったときに磐田先輩にもしよければMMPのスープをどうぞと声をかけていたら、本当に来てくれた。磐田先輩は今はプレゼミ生として所属している野島ゼミの先輩で、すごく優しいいい人だ。

 磐田先輩は天文部に所属している。部のプラネタリウムは光ファイバーで星の光を表現していたり、光り方をプログラムで制御するなどよく聞くと凄いことを「俺がやったんだよー」と夢の国のネズミとかああいう感じの声でさらりと言うから。

 とにかく、プラネタリウムを展示している教室……と言うかフロアには人の気配が全然なかったし、薄暗いし寒かった。磐田先輩にスープの話をした時も、ここは寒いから絶対行くと言ってくれていて、理由には納得したのはちょっと前。


「1杯くださーい」

「100円です。少々お待ちください」


 MMPで出しているのは肉団子入りの中華スープ。昨日はDJブースだったから、2日目の今日から食品ブースに模様替えした。ただ、そんなに一生懸命商売をしているワケでもなく、自分たちが食べる物をたまに来た人に分けてあげているという感じ。


「はい、どうぞ」

「いただきますー。あっ、美味しい。あったまるねー」

「そう言っていただけると嬉しいです」


 俺も自分でスープを1杯よそい、テント裏でいただく。店番のシフトは組んであるけど、MMPの面々は基本的に出不精だから割とみんなテントの近くでうだうだしている。奈々は友達と遊びに回っているみたいだけど、そういうのは少数派だ。


「あっそうだ野坂くん、この後時間ある?」

「はい。店番以外は特に用事もありませんが」

「良かったらさ、ロボコン見に行かない? 前原くんが出ててさ、応援に行こうと思って」

「ぜひご一緒させてください! 2年に1度のロボット大戦ですよね!」

「よかったー、じゃあ後で一緒に行こー」


 向島大学では大学祭と同時に2年に1度、向島ロボット大戦という催しが開催されている。ちょうど今年が開催年で、時間さえあれば見に行こうと思っていたところにこのお誘いだ、行くしかないぜ!

 向島ロボット大戦とは言うけど、実際はごくごく普通のロボコンだ。ただ、大学生なりの悪乗りしたルールや競技内容もあってなかなか一筋縄でも行かないらしい。情報系学部の人間には下手すれば学祭よりも大事な祭だ。


「菜月先輩」

「ん?」

「この後、ロボット大戦を見に行きたいので少し留守にしてよろしいでしょうか」

「えっ、ロボコン見に行くのか!? うちも見たい!」

「でしたら菜月先輩もご一緒にいかがですか?」

「行く行く。ああ、そしたら圭斗にしばらく留守にするって言っとかないとな」


 そういや菜月先輩もロボットとかがお好きなんだった。よかった、留守にする承諾を得るためとは言え声を掛けてみて。菜月先輩がその辺にいらした圭斗先輩にしばらく留守にする旨を伝えてくださって、これで安心して出かけられる。


「しかし、前原先輩がロボコンに出られるなんて、意外と言っては失礼ですが真面目に取り組んでいらしたんですね」

「前原くんはああ見えてロボットプログラミングに関してはすごいんだよ。一昨年も準決勝まで行ったかなー」

「ナ、ナンダッテー!?」

「特に得意なのは戦闘部門で、前原くんの卑怯な戦術について行くハードとソフトの絡み合いが絶妙でね」

「ですよね……プログラムだけ良ければいいという物でもありませんし……俄然興味が出てきました。卑怯さもまた戦術であるところなどもぜひ見てみたいです」

「俺もプログラムは手伝ったんだー。俺ら3年にとっては最後の大会だし優勝してほしいね」


 まさかとは思うが磐田先輩はプラネタリウムのプログラムの他にロボットの手伝いまでしていたのか…!? それをさも当たり前のようにさらりと仰るのがさすがだぜ! 凄いことなのにちっともそれを感じさせない!


「ノサカー、いつ行くんだ?」

「あっ、ええと……これを食べ終えたらです!」

「じゃあ急いで食べなきゃ」

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