アタシグレード唯一無二

 何か、アタシとゴティが忙しくしている間に野坂が定例会のビルに乗り込んでインターフェイスの機材の状態を確認してくれたらしい。前の機材管理担当だった星大の石川サンにも連絡を取って、インターフェイスの機材をピックアップ。

 今日は現対策委員のミキサー3人と、何故かついてきたヒロの4人で現物を確認しに来た。床に固められた機材群の上には、向島インターフェイス放送委員会と書かれた紙が貼られてしっかりとキープされている。


「しっかしまあきったない物置。ウチの部室とどっちが汚いかわかんねーな」

「野坂お前これ一人で掘り起こしたの」

「石川先輩にお手伝いいただいて、その後直で緑ヶ丘に行って伊東先輩からMDストックをもらってきてだなあ」

「野坂よくやった」

「議長よくやった」


 アタシとゴティが拍手で野坂を率直に誉めていると、どうやらそれがヒロ的には面白くないらしい。機材のことはノサカミキサーやもんノサカがやるんは当たり前やん、と。ヒロは基本野坂には辛辣だ。


「て言うか、掘り起こしててよくわかんないことがあったんだけど」

「なになに?」

「この機材。何に使うのかわかんなくて。石川先輩もわかんないって仰ってて。どっちか、これが何かわかるか?」

「いやー、俺はわかんね」

「ワイヤレスの受信機じゃん。へー、インターフェイスでもあるんだね」

「ハマちゃん風に言ったらつばみマジパねえ!」

「ゴティ何でハマ男風に言う必要あんの」

「つばめパねえ!」

「つばちゃんパないよ!」


 どうやらラジオ系の大学ではあまりワイヤレスマイクを使う機会がないからか、馴染みの薄いこの機材。受ける方があるなら発信する方、つまりワイヤレスマイクもあるはずだとそれを探してみることに。

 マイクやケーブルなどの小物は黒い無骨なリュックの中に詰められている。その中を探していくと、奥の奥の方にあった。本当に使ってないんだなということがわかる。これからもこれを使うことはそうそうなさそうだ。


「野坂、これ持ってく? 荷物になるだけだと思うけど」

「そうだな。使う当てもないし置いてくか。車持ちの意見も聞こう。ゴティ、どう思う」

「荷物になるなら置いてこう」

「じゃ、ミキサー会議の結果、ワイヤレスの機材群は置いていくことに――」

「ちょっと待ってよ!」


 ミキサー会議で無事に意見がまとまったところで、待ったをかけるのはヒロ。野坂はあからさまに怪訝な表情になるし、一波乱起きそうな予感。


「使い方がわからんのやったら、合宿でダイさんに聞けばええと思うんやよ」

「使い方ならアタシわかるけど」

「つばちゃんは特殊やよ! ゴティとノサカがわからんなら大体の人はわからんのやよ! ノサカ、ヘンクツサギなんにわからんこと潰したくないん!?」

「俺が偏屈詐欺かどうかはともかく、この機材が動いているところは見てみたい気もする」

「しやろ! 持ってこう! 3年生越えるよ! ここで出来るようになっとかんと永遠にこの機材は鉄クズのままやよ! 場所だけ取って邪魔やよ、こーたみたいや」


 何でヒロがこんなにワイヤレスのことに一生懸命になっているのかが不自然でしょうがないけど、ダイさんに聞けばええよという意見は今後のことも考えると反対する理由はない。

 もしかすると、ヒロにはワイヤレスマイクがないと困るようなことでもあるのか。でも、向島には馴染みのない機材だってことは野坂の反応を見ればわかる。あっ、そういや7班にはシゲトラがいたな。ここでひらめいた悪知恵で仕掛ける気か。


「うん、いーんじゃない? 野坂、持ってこうよ」

「つばめ」

「機材繋ぐとかはアタシ出来るし、現場で何とでもなるって」

「つばちゃんパないよ、さすが星ヶ丘やよ」

「星ヶ丘って言うほどさすがって言われるポジじゃないけどね」

「でも唯一無二なんやよ」

「そうだ野坂、アンタ合宿の開会式の挨拶あるでしょ」

「あー、それがあったー……」

「唯一無二のディレクターであるアタシがケーブルを捌いてあげよう」

「つばめ風に言ったら、がさす~、だな」

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