今日のプランにハッとして

 今日は山口先輩とつばめ先輩と買い物に行くことになっている。明日からはテスト期間だし、ステージ前最後の日曜日ということでじっくりと準備が出来る最後の機会。


「おはようございます!」

「ゲンゴローおはよ~」

「さて、今日のスケジュール確認するよ」


 つばめ先輩が今日の予定を読み上げてくれる。これからどこへ行って何をして、というタイムテーブル。山口先輩もそれに頷きながら、そうだね~と一緒に予定を確認。

 朝霞先輩はやっぱり出て来れないみたいだ。こないだのリハ日に熱中症で倒れて、週末は丸々休養に充てているとのこと。山口先輩もつばめ先輩も朝霞先輩ならどうするかって考えながら今日の行動を計画している。

 こないだからずっと考えていた。朝霞先輩が倒れたのは俺が帽子を借りてしまったからじゃないのかなって。もし俺が自前の帽子を持っていて、朝霞先輩も自分の帽子を被れていたら結果は違ったかもしれない。


「――で、それから」

「あっ、あのっ! すみませんっ!」

「どしたのゲンゴロー」

「今日は買い出しや練習の日だってわかってるんですけど、どうしてもしたい自分の買い物があって!」

「何の買い物~?」

「帽子を買いたいんです。俺も自前の帽子を持ってなきゃなって」

「……いいよね、つばちゃん」

「最初に行くのスポーツ用品店だし、そこでちゃんとしたの買いな」


 スポーツ用品店では結構な買い物をする。粉末タイプのスポーツドリンクとか。炎天下での作業に耐え得るアイテムは下手な店より充実しているらしい。暑い中運動をする人のことを考えると店の品揃えもそうなるのか。

 山口先輩とつばめ先輩は慣れた様子で帽子を見るならこの辺だよと案内してくれる。俺はスポーツ用品店なんて滅多に来ないから、先輩たちについていくのでやっと。


「ゲンゴローはキャップとかサンバイザーって感じじゃないよね~」

「お前のセンスで選んだらゲンゴローのコーデが壊滅するだろ」

「え~!? アイテム選ぶのだけは朝霞クンにも褒められるんだから~! 俺が下手なのは組み合わせです~」

「はいはい。で、ゲンゴロー、アンタはどんなのが好きなの?」

「えっと、普段あまりかぶらないのでよくわかんなくって」


 キャップとかサンバイザーは確かにちょっと好みじゃないんだよなあ。かと言って夏にニット帽をかぶるのは違うような気がする。そうなると、登山とかで被るような帽子になるのかな。


「ね~ね~ゲンゴロー、こういうのはど~う~? ほらっ、ヨット柄のトレッカーハット~。かわいいでしょでしょ~、リバーシブルにもなって~」

「わっ、かわいいですねー。色も好きです」

「へえ、洋平にしてはまともじゃん。で? 値段は?」

「えっと、4500円だネ」

「やっぱりいい帽子はしますねー」

「アタシのバイザーも4000円だし、そんなモンだよ」


 ちゃんとしたブランドのものは機能もしっかりしてるしそれ相応の値段はするよ、と先輩たちから諭され、長く使えるだろうし色柄が気に入ったなら買っといてもいいんじゃない、と。

 うん、帽子は絶対に買わなきゃいけないんだ。紫外線も防ぎますって吊り札にも書いてるし、晴雨兼用っぽいし。雨が降っても大丈夫って、それで4500円はお得と思わないと!


「これ、買って来ます!」

「俺もついてこ~」


 山口先輩とレジに並んで、「すぐに使います」とタグを切ってもらう。ベージュ基調で、頭の周りと内側が淡い紺のヨット柄の布地。4500円を財布から出そうとすると、横からスッと出て来る2枚の夏目さん。


「えっ、山口先輩?」

「ほらゲンゴロー、残り残り」

「あっ、はいっ」

「ホントはね、ゲンゴローが言わなくってもここで帽子を買ってもらうつもりだったんだ~。この夏目さんは俺とつばちゃんからの叱咤激励。1年生なのにフルでステージ回すのって大変だよね。でも俺たちはゲンゴローを頼りにしてるからネ」

「はい。頑張ります」

「今度朝霞クンに帽子買ったよ~って報告して、借りた帽子返そうね~」


 1人じゃ怖かったら俺も付き添うからね~と山口先輩は笑いかけてくれる。大変は大変だけど、朝霞班に来て本当に良かったなあって思う。技術的にはまだまだ不安だし、この班にいていいのかなって思うこともあるけど。頑張ろう。


「あ、やっぱり似合うね~」

「いいじゃんゲンゴロー」

「ありがとうございます」

「アタシの買い物もオッケーだし、次行こっ」

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