そんなことってアリますか?
「うっ、うわっ、わーっ!」
サークル室から大きな叫び声。これはきっとミドリ。って言うかサークル室でミドリを見るのが久し振りな気がするなあ。……じゃなくて何があったんだろう。
「ミドリ、どうしたの!?」
「わっ、わーっ、大石せんぱーい!」
「わーだけじゃわかんないよ、どうしたの」
「あれっ、わっ、ひゃっ」
ミドリが指さしてる方向には、黒い固まりが。それをよーく見てみるとうじゃうじゃと蠢いていて生き物だということがわかる。あれっ、でもミドリって虫は全然平気じゃなかったかなあ。
「アリだね。ミドリ、アリダメなの?」
「昔アリに噛まれて腕がぽんぽんに腫れたことがあって、それからトラウマなんですー、ううー」
見れば見るほど大きなアリ団子。無数のアリがうじゃうじゃと群がっている。その下に何がこぼれているのかはわかんないけど、とにかく美味しそうな物があったんだろうなあ。
「どうしてサークル室にアリ団子が出来てるんだろう」
「それより早くやっつけて下さいよー! ゴキに立ち向かう大石先輩はかっこよかったって聞いてますー!」
「うーん、何でだろうねえ」
「どう考えてもここでお菓子を食べる習慣があるからじゃないですか?」
「あ、アオ。おはよう」
「ところで、石川先輩から不穏な情報を入手してますけど、読んでいいですか?」
「……怖いけど、読んで」
アオが石川から届いたというメッセージを読んでくれる。それによれば、どうやら石川がアリの巣入りの虫カゴを持った千尋に遭遇したらしい。千尋だったらやりかねないなあと思っちゃうところが何ともなあ。
「大石先輩、やっつけましょう!」
「でも、外来種だったら環境省とかに通報しなきゃいけないでしょ? まずはこれが何のアリなのかを見ないと」
「わかるんですか!?」
「ううん、わかんない」
「ダメじゃないですかー!」
ヒアリとか別の外来種のアリとか。星港近辺じゃ最近そういうのがよく発見されてるし、ただのアリだとしてもちょっと怖いよね。在来種をむやみに駆除するのもよくないって言うもん。
「とりあえず、餌になるような物をなくしてアリのフェロモンなどを一掃すればいいんじゃないかと」
「つまり、掃除をすればいいと」
「そうですね」
「大石先輩、掃除の時間ですよ!」
ほうきとちりとりを装備して、大きなアリ団子にはご退場を願うことに。なるべく殺さないように、アリ団子とその周りの行列をちりとりに乗せていく。問題はそれをどこにやろうかと。とりあえず、落とさないように外までダッシュ。
払い残しがないように念入りに落としてサークル室へ。残党をちりとりに乗せていって、同じことを繰り返す。ひとまずアリのいなくなった部屋の床を、ミドリとアオが雑巾で拭いてくれている。俺は他に団子がないか荷物をどけて確認していく。
お菓子を食べる習慣が原因なのはわかるけど、バルサンも炊いてるし虫は近寄らないと思ってたなあ。やっぱり定期的に掃除しないとダメみたい。そういえば青女でも虫が出るって言ってた気がする。向島は山の中だしたくさんいそう。どうしてんだろう。今度圭斗に聞いてみよう。
「おはよっすー! やってるー?」
「千尋、今日は虫カゴ持ってないよね?」
「今日は持ってないけど、どしたのともちん」
「サークル室にアリが大量発生して、掃除してるトコだよ。千尋、アリの出所に心当たりはない?」
「ないよ! むしろアリちゃんの行列なんて観察したいよ! どこにやった!? みんな殺しちゃった!? 何アリ!? ヒアリ!?」
「殺さないように外に出したよ。千尋がサークル室に放したんじゃなきゃいいけど。あと多分ヒアリではない」
「えー! そんなことしないよ! 誰がそんなこと言ったの! てかヒアリじゃなくて残念な気持ちもちょっとある!」
「石川がアリの巣入りの虫カゴを持った千尋を見たって。あと残念がらないで」
「トールちん人聞き悪いなあ!」
多分まだそんなに遠くには行ってないと思うよとアリ団子の場所を教えると、千尋は颯爽と駆けて行ってしまった。どうせならアリを近寄らせないための対策なんかを教えてくれると嬉しかったんだけど。
「ふー、きれいになりました。これでアリが出なくなるといいですね!」
「本格的に虫除けについて考えないとなー。定例会で聞いてみよう」
「そもそも、一応は街の中にある大学なのにこんなに虫を引き寄せるって。やっぱり坂井先輩が一枚噛んでる気が」
「うーん、どうだろうねえ」
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