これ以上はもう知らん

 その作業は熾烈を極めていた。ああでもない、こうでもないとペンは紙の上を行ったり来たり。無駄に線ばかりが引かれて真っ黒。多少の事情には目を瞑らなければ、何事も前には進まない。半ばやけくそだった。


「えっと、この子はゴティの班かな?」

「ねえ待って野坂、そこに星大入れたら星大3人になる」

「野坂、白河とベル、部活でも同じ班なんだけど合宿でも同じ班にする? そもそも同じ大学の同期のミキサーを同じ班に突っ込むのかと」

「星ヶ丘はそういうのがあるのか。班同士のNGコードみたいなのは今のうちだぞ」

「幹部系の班は基本流刑地NGだからコイツとコイツをアタシんトコに入れるのはアウト。コイツも反体制寄りだから先の2人とダブるのNG。アタシとはオッケー。コイツは中立だから誰とダブっても大丈夫」


 1人を動かすと同じ大学が多すぎる、また1人を動かすとペアの都合が悪くなる。この人とこの人は仲が悪い、仲が良すぎてどうなのか。そんなようなことを繰り返すのが夏合宿の班編成だ。

 先日、各大学に配った夏合宿の参加申し込み用紙が帰って来た。結構な参加数があって、今年は3年生の参加者も少しいらっしゃる。大人の事情で菜月先輩と圭斗先輩にも参加していただいているのは嬉しくも心が痛い。


「あー! どうしろって言うんだ!」

「それを何とかするんが理系の仕事やん。はー、これやからヘンクツ詐欺はアカン」

「ヒロ、お前も理系だろ! あと何かさっきから存在感消してるけどツカサ! お前も出て来い、数学科だろ!」

「いや、俺のはそういうのじゃ」

「ヒロ的には理系の仕事らしいからな! ヒロを恨め!」

「それ言ったら啓子さんだって理系じゃ」

「ツカサ、アタシが何って?」

「何でもないです」


 合宿の班決めにはいろいろとめんどくさい暗黙がある。学年の割合とか、男女比とか。あまりラジオメインばかりが――特に、緑ヶ丘と向島が固まり過ぎてもいけない。

 ただ、既に「決定」と赤丸が付けられている4班は緑ヶ丘と向島の割合が高すぎるのだ。それも、2・3年生が全員その2校から出ている。これに関しては「知るかボケ」と押し切ることに全会一致で可決。

 初心者講習会で神格化され始めた菜月先輩に対するラブコールを切った結果と、菜月先輩とペアを組む1年生のフォロー役、菜月先輩のラブピ制御役(増幅する気しかしない)などなどと考えたらこうなったんだ!


「野坂、星ヶ丘の浦和さんて子、今は俺の班に名前があるけど野坂の班に入れるとしっくりくる」

「はー、なるほどそうくるか」

「初心者講習会に出てないみたいだけど、どうよつばめ」

「誰かが教えなきゃでしょ。野坂、アンタの班と言えば青敬のミキの子も講習会出てないっしょ?」

「わかった、俺が教える。アナとミキ1人ずつな。1人教えるのも2人教えるのも一緒だ。この2人、ウチで確定しといて」


 ミキサーのことならともかく、アナウンサーのことに関しては圭斗先輩もいらっしゃることだし何とかなると思いたいのだけれど。あとはこの浦和さんという子と諏訪さんという子が真面目ないい子であることを祈ろう。


「はー、めっずらし。野坂が議長っぽいでしょでしょ」

「やっぱこういうときは頼りになるな野坂は。さすが向島だ」

「せやろ、ボクかてすごいんやよ! 向島やしね!」

「ヒロが凄いイメージはないなあ」

「何やのツカサ! 初心者講習会終わってからボク菜月先輩とめっちゃ特訓してんよ、あれから上手くなっとるよ!」

「ヒロに教えられるなっちサンがすごい、の間違いじゃなくて?」

「さすがつばめ、わかってる! すごいのはヒロじゃなくて菜月先輩だ!」


 そんなことを繰り返しながら、班を固めていくのだ。俺の班も残り枠が1になってるし、三井先輩を引き取ってくれたつばめ班に関しては始まる前から戦争の様相。

 ヒロの班は未知数だし、ゴティの班はまったりしてそう。啓子さんの班は標準的という印象だ。班ごとにも色が見えてきた。これから始まるのは最後の詰め。


「班が決まれば顔合わせをして、番組制作に入って」

「それもいいけど講師の人を決定してー」

「ああーっ! それがあった! うう、どうしよう……」

「野坂戻ってこい、今は班決めが先だ」

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