第23話 麻雀プロは大体飲み会が好き


 〇


 次局以降、あかねも入るかと誘われたが、首を横に振って辞退した。ましろと、プロと同卓してみたい気持ちはあるが、それ以上に、彼女の闘牌を、砂被りの特等席でもっと見てみたいと思ったのだ。


 勤務時間ではないから、ひたすら麻雀を見ることに集中できる。ましろのツモる所作ひとつから、点棒を払う仕草まで、見落としのないように。


 結果、四半荘打って、ましろの成績は1-3-2-1の+160.3。文句なしのトータルトップである。けれど成績以上に、打牌選択以上に、あかねが目を奪われたのは彼女の落ち着き払った挙措であった。

 点棒を授受や副露の際にもほとんど音を立てず、かといって、動作ひとつひとつが遅い訳でもない。速い、のではなく、早い。そして適切なのだ。フリー客のように慌ただしいそれではなく、丁寧で、洗練された動きに、あかねは目が釘付けになった。


 そしてなにより、


「いかがでしたか?」


 振り向いて、微笑むましろに、頷いて応える。

 その自信に満ち満ちた表情が、あかねの胸を打った。


 麻雀プロという団体や組織の存在は以前から知っていた。詳しいことは知らなかったが、あるいは、知らないかったからこそ、低く見積もっていた節さえあった。アマチュアの方が、よっぽど強いんじゃないだろうか、と。

 が、その認識は違った。実際的な強さでは、あるいはフリーに足繁く通うアマチュアも、彼らに敵うべくあるのかもしれない。が、そこには、ましろのように磨き抜かれた麻雀はきっとないだろう。


「やっぱりましろさんはつえーっすわ。敵わねぇ」

「四半荘だけですから、運が良かっただけですよ」

「むしろ短い本数で負けたから、よけい悔しいんっすよー」


 東出の言うこともさもありなん。少ない半荘数の方が、当然運の介在する余地あ大きい。十本、二十本と続ければ続けるほど、実力差というのは、僅かに、しかし如実に表れるものだ。


「さて、ましろちゃん、この後どうする。なんだったら、フリー打っていってくれてもいいけど」


 時計を見れば、時刻は午後六時半。そろそろセット客が増え、フリーも経ち始める時間帯である。


「今日は、非公式での里帰りみたいなものですから、また後日改めて参ります。その時は、きちんと城崎として」


 立ち上がって、帰り支度を始めるましろ。荷物を受け取ったところで、


「ところであおいさん、あかねさん。この後はお暇ですか? よろしかったら、お食事などいかがでしょう」

「行きます!」


 (今日から)憧れの城崎プロからの食事のお誘い。これを、断れるようなあかねではないし、そもそも、今日の予定は何もない。家に帰ったところで、ひとりで外食する気もないので、冷凍ご飯と昨日の残り物で済ますことだろう。

 身を乗り出して即答するあかねだが、その隣で、口元を引きつらせて玉虫色の表情をするあおいには、まだ気づいていない。

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