あなたも雀荘で働いてみませんか? ―ようこそ、雀荘「ゴールデンタイム」へ!―
終末禁忌金庫
第一部
第1話 あかねのメンバー奮闘記、はじまります
〇
今日から、憧れの雀荘で働けるんだ!
中井あかねは、その胸にはちきれんばかりの期待と、わずかばかりの不安とを抱えて、雀荘「ゴールデンタイム」の入ったテナントビル前で、立ち尽くしていた。
ゴールデンタイムは、立川ビル4階テナントに居を構える、総卓数十を超えない個人経営の小さな雀荘である。貸卓はもちろんのこと、四人打ちフリー、三人打ちフリーの両方に対応しており、ともにレートは0.5のみを扱っている。ここ十数年でバタバタと小さな雀荘が潰れていく中で、創業十五年目にして、客足の絶えない雀荘である。
ひとつ、大きく深呼吸をしてから、エレベーターのボタンを押す。エレベーターに乗り込み、次に扉が開いた瞬間には、目の前は憧れの雀荘なのだ!
ゴンドラの上昇とともに、高鳴る胸の鼓動。入ったら、まずは元気よく、おはようございます、と言おう。何事も、第一印象が大事。
「おはようございます!」
果たして、あかねは、肺いっぱいに吸い込んだ空気を、すべて吐き出した。
まだ昼過ぎということもあって、客の数はまばらで、稼働している卓は三、四卓ほど。けれど、その誰もが、いっせいに入口へ視線を向けた。
「あ、あの、えっと、おはよう、ございます……」
とたんに恥ずかしくなった。
「いやぁ、いいアイサツだったよ、あかねちゃん」
「オーナー! おはようございます」
初日で思い切りハズしてしまったかと焦るあかねだったが、筒井が人懐こそうに笑いながら近づいてきてくれたおかげで、ひと心地つく。
「オーナーっていうのは堅苦しいよ。筒井さんでいいから」
「はい。筒井さん!」
「うん、元気いいね。それじゃまずは簡単に業務の説明するから、カウンターの中入って」
筒井の案内に従ってフロアを歩きながら、あかねは目を輝かせる。
右を見ても、左を見ても、麻雀、麻雀、麻雀!
唇をかみしめ、いまにも叫び出してしまいそうな喜びをなんとか堪える。これからは、大好きな麻雀に囲まれて、仕事ができるのだから!
「ふふん。あかねちゃん、よっぽど麻雀が好きなんだね」
「へ、あ、すいません、きょろきょろしてました?」
「いいや。目がね、キラキラしてるから。期待してるよ」
「が、頑張ります!」
ふんすと鼻息荒く意気込むあかねに、さしもの筒井も苦笑しながら、手際よく書類を差し出し、
「それじゃ、一応書類書いてもらうね。業務内容のところは『受付業務』で構わないから。それから、前にも説明した通り時給は――」
ボールペンを走らせながら、あかねはもはや心ここにあらずの境地だった。頭の中は、もうこれからのことでいっぱいで、筒井の説明も話半分。
あかねの、メンバー奮闘記、はじまります。
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