塔の中




――――――――――――



「まずは中の観察だ」



入る前に、可能な限り中を見る。


しかしまあ……中は暗く、何も見えない。



「何も無いんだな」


「……ちょっと、待って、て」



樹はそう言うと、杖を構える。



「……ホーリー、サイン」



そして詠唱。


すると、光を灯したボールが俺達の前に浮く。


更に奥へとボールは移動していく。



「お、これは助かるな」


「……」



そのまま樹はあちこち灯していく。樹は多才だな。


俺の携帯のライトじゃ照らせない場所が、よく見える。


そして分かった。




「何も無いな……本当に」




中は、『空洞』と言える程、何も無かった。



まるで最初から何も無かったかのように。



しかし――奥に、一つ。



「……あれは……階段か?」




こんな高い建造物に……階段?


俺達が利用できるのだから、ありがたいんだけれども。


ただまあ、これはもう……




「どうやら進んでよさそうだな」




見渡す限り無。


逆に怪しいぐらいだが……そうは言ってられない。


あの階段で上にもいけそうだしな。





「……何も、ないな。樹、来ていいぞ」



一歩踏んで中に入る。


実際に入っても何も起きず、俺は無事だ。



「……」



樹も入るが変化なし。


さて、探索するとしよう。





―――――――――――




「……まあ、そりゃそうか」



当たり前だが、樹のライトで予め分かっていたので、予想通り何も無かった。


しかしまた別の場所に他の入口っぽいものは見つけた。


恐らく外からは分からないような作りになっているのだろう。ならなぜドアの方は……非常用か?



階段の付近には、また扉のようなものがあった。


階数が表示されており、下には扉。そしてボタン。




「エレベーターっぽい何かだな」



当然の如くボタンを押しても何も起こらない。


……まあいい、恐らく階段も非常用なのだろう。


これだけ大きい建造物だ、停電?何て事もあったらどうするんだって話だしな。




「さて……昇るか……」


「……」



まあ、エレベーターが使えないんじゃしょうがない。


一体どれだけ掛かるのか……分からないが、順番に上がってみていくしかない。





――――――――――――――――





「ここも、何も無しか」



階段を上がると、またドアがあった。


そして開ける。何も無し。


全体の部屋の構造は全く同じ。窓も無い閉鎖的な空間。




「もう10階目ぐらいだぞ……」


「……」




それが続けて10回なのだから、中々精神的にも辛い。




「樹、大丈夫か?ごめんな、こんな事に付き合わせて」


「……!待って、て――」




ふるふると顔を横に振ると、樹は杖を構える。


そして、精神治癒の魔法をかけてくれた。はは、俺はそんなに顔色悪かったのか?


橙色の靄が、俺達を包むと……かなり楽になった。助かる。



「ありがとう、まだまだいけそうだ」


「……」



笑って頷く樹。


よし、どんどん行こう。




―――――――――――




「……俺達、ほんとに昇ってるんだよな……」



そんな事を口走ってしまう。


現在30階を超えた所。今だに何もない。


一見するだけで何も無いとは一応言えないから、一応探索はする。だから結構疲れるんだよな。


「ここまで来たら、引き返せないしな……ああ、そうだ」


「……」


引き返そうにも辛い。


なら……



「50だ。50階で何も無かったら、その部屋で休憩しよう」


「……」


流石に樹の回復魔法があっても辛いものは辛い。


俺だけならまだしも、樹にまで無理をさせたくないからな……




「ああでも寒いか。うーん……まあでも二人で温めあったら大丈夫だよな」



これだけ真っ暗なのだから当たり前だが、かなり空気が冷たい。


灰色の土地がそもそも寒いからな……風がないからそこは楽だが。



「……っ」



何故か樹が顔を紅くする。


……俺何か変な事いったっけ?もう頭も回らないせいか、さっきの発言すら曖昧だ。


何だっけ、二人なら大丈夫とかなんか言った気がする。




「どうした?」


「……!」



本人に聞いても首を横に振るのだから、恐らく大丈夫だろう……



―――――――――



「……」



さっきからやけに樹がそわそわしている。


落ち着かないのだろうか?何故か樹はあれから元気だ。


探索も丁寧。熱が凄い。



樹は凄いな。


男の俺がこれだけ貧弱って……自身なくなる。





「……うん」




現在49階。


当然何も無し。




分かってたさ。


むしろ何かある方がおかしい。




「これで休憩――」





俺達は休憩場所である、50階まで昇る。





そして。




「――おいおい、これ」


「……!」




俺達は――




「上が、無い……」





『最上階』に、辿り着いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る