夕の戦闘②
アルスは、俺へゆっくり迫り来る。
大胆不敵、この男にこれ程似合う言葉はないだろう。
「っ!」
剣が俺に迫ってくるのをなんとか弾いて、離れた。
重みが、さっきと違いすぎだ。
……駄目だろ?これじゃ。
攻めろ。防御はいらない。
スタッフで殴り付けた後、剣で防がれたスタッフを離し、顔面に蒼炎を纏った右の拳で殴りかかる。
「ぐっ!」
アルスの蹴りにより、拳を逸らされ激痛が拳を襲うが、耐える。
「らあ!」
さっき離した落下していくスタッフを左手で拾い、下から掬い上げるように叩き付ける。
――入ったか?
「そんな柔な攻撃、食らわねーよ」
俺の攻撃は、軽くあしらわれる様に弾き返される。
流石に見破られたか、まあそう上手くいくとも思ってない。
「そうでしたね」
俺は、上段へとスタッフを掲げるように構える。
俺が、一番力を入れて振れる構え。
「あ?……ははっ誘ってんのか?いいぜ、のってやる」
アルスがそう言うと、こちらへ一直線に向かって来た。
視覚を全て、剣へ注がなければ。
アルスの剣は横凪ぎに真っ直ぐ。
剣の軌道は……俺の首に向かって描かれた。
――その剣、叩き落としてやるさ。
俺はタイミングを計り、スタッフを渾身の力を込めて降り下ろした。
蒼の軌跡はアルスの刀身へ向かっていく。
「やるじゃねーの」
鈍い金属の音が響く。手ごたえありだ。
アルスの剣は、叩き落とすまでにはいかなかったが……
今僅かに、衝撃を食らって体勢を崩していた。
――ここで決める!
俺は、スタッフをもう一度上段に上げ、降り下ろす。
剣で防ぐアルス。まだまだ!
上段からの降り下ろしを繰り返す。
隙を見せない連打。流石に――
「がっ……!」
アルスは体勢を崩しているにも関わらず、剣で防いだ後に一瞬で蹴りを放ってきた。
上段に両手で掲げているため、空いている腹への直撃。
空気が逆流し、崩れ落ちそうになる。
「ほー、耐えたか」
俺の制服がアーマーとなったのか、威力が減ったのは確かだろう、直撃すれば恐らく死んでいる。
しかし服は破け、もうアーマーとしては見込めない。
だが……それがどうした?攻めるには支障はゼロだ。
俺はもう一度、剣を上段に。
「……まだやんのか、いいぜ」
誘われるように下段から切り込むアルス。
それを降り下ろしで相打つ。
片腕を離し殴る。避けられるが、片腕のスタッフを振るう。
「柔だって言ってんだろ?」
剣で弾かれたそのスタッフは、手から離れ勢いのまま遥か、上空へ。
ああ……そう来ると思ってたさ!
――俺の使えるものは、全て使う。
靴に蒼炎を付加。そのまま、『スタッフ』の元へ。
ジャンプした俺の身体は、ビルの五階程まで飛ぶ。
飛んでいくスタッフを手に取り、落下。
「ははっ、本当に面白れえ。受けてやるよ、お前の一撃」
そう告げたアルスは、剣を腰に差し腰を低く構える。
これは……居合いのような。
「『炎化』」
アルスの体が、炎に纏われる。
その炎は、腰に存在する剣へと移動し、赤く赤く燃え上がっていった。
「来いよ」
そう上空に告げた後。さらに腰を低くし、顔も下へ向ける。
何か、とてつもない攻撃が来るってのは直感で感じた。
正真正銘、これが最後。
魔力はもうないってのは、感覚で分かっているんだ。
だから、だからこそ。
――この一撃に、全てをかける!
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