一対二

「……藍君じゃん。何しにきたの?」




「何だ?ヒーロー気取りか?弱くて何もできねーくせに」




「今いいとこなんだから出てけよ。これは特訓なんだよ。魔法のな」




黙っていた山本が口を開くと、次々後ろの二人もブツブツと喋りだす。


いちいち、ムカつく事を言ってくる。




「……お前ら、一発づつ殴らせろよ」




そう言い、三人へ近づいていく。




「はは、俺達と戦おうっての?」



「佑樹、こいつ追い出される身なんだしどうなっても構いやしないって。やっちまおうぜ」



「言われなくてもそうするつもりさ。……」



そう言いながら、こちらを舐めたような視線の三人。


山本は、背中から杖を取り出す。


一方の俺は、三人を睨みながら出方を伺う。


集中で汗が、頬を伝る。


見たところ……山本以外は素手か?


まあ良い、油断しているならいい機会だ。



「ウィンドボール!」


「ファイヤーアロー!」



先手は、あいつらから。


二人とも山本の前に出てから、一斉に魔法を詠唱。


ファンタジーな風の砲弾と火の矢は、待つことなく俺の身体へと飛ぶ。



「……っと」



俺は横へと跳び、なんとか避けると次の魔法が飛んでくる。


またそれを避け、前を見据える。


山本は、それをニヤニヤと見ているのみ。


考えは分からないが……このままでは埒が明かない。



――使うか。




「纏」




俺の身体を、魔力が包んでいく。


身体が軽くなるのを感じながら、前へ走る。




「っ、ファイアーウェーブ!」


「ウィンドアロー!」




迫り来る炎の波と、風の矢。


……魔力を纏ってなかったら、危なかったかもな。


そう思いながら、横へ大きく跳ぶ。


炎の波、風の矢を避けることに成功し、前へ進む。


その勢いのまま、火の魔法使いへと距離を近づけようとした、その時。



「――っ!」



俺へ、『剣』が襲う。


訓練用の木製の剣だが、当たれば動けなくなるのは分かる。


胴へと振られるそれをなんとか避け、そのまま後ろへ逃げるように跳ぶ。


くそ、こいつ前衛組か!




「佑真。お前手加減し過ぎだっての」




剣をもったそいつは、そう言いながら元の位置へ戻っていく。


攻撃が来ないことを確認し、纏を解除。


「ひひ、イケると思わせてからなぶるのがいいんだっての」


そう、にやけながら言う火の魔法使い。


「……ったくお前ら、もうちょっと俺を楽しませろよ。手加減はいい、さっさとボコれ」


山本もまた、気持ちの悪い笑みを浮かべ、そう言う。


「俺は、藍が泣きながら俺に命乞いしてるのが見てーんだよ。頼むぞ」


まるで部下のようにそう言う、山本。



「わ、わかってるって。すまん」


「佑真!やるぞ!」



火魔法の方も、背中から剣を取り出す。


分かっちゃいたがこいつもか、舐めやがって。


だが、もう油断はしないだろう。


最初と目付きが少し変わっている。


そして、二人とも魔力も纏い始めたようだ。


山本は戦闘へ出る気配が無いことから、恐らく一対二の近接戦になるだろう。




……それならば。


俺は背中から、漆黒のスタッフを取り出す。


剣には剣で。


実践は初めてだが、負けるわけにはいかない。


両手で、スタッフを包み込むように握る。


さあ……やろうか。



「っ!勝てると思ってんのか、おらっ!」



そう言い、走りながら振りかぶってくる風使い。


……だめだなこいつ、全く形がなってない。


見本を見せるよう、俺はスタッフを最上段に構える。


太刀筋は、いつもの素振り通りに。


相手の剣の位置を予測して、そこへ思い切り打ち当てるイメージ。



――ここだ。ここに、俺の全力を。



「っ!いってえ!」



俺の一振りは、風使いの剣に命中した後。


剣が地面に打ち付けられ、持ち主の手から離れる。




「下がれ孝!」




俺が追撃しようとすると、庇うように風使いの前へ出る火使い。


こいつは魔力量が多いのか、纏っている魔力の量が目に見えて多いのが分かる。




「おらあ!」




剣を使わず、勢いのまま、身体を使ってタックルしてくる火使い。


その格好の的に、俺は容赦なく頭に振り下ろす。



「いっ……!」



俺のスタッフは重量があるため、魔力を纏っていたとしても相当痛いはずだ。


一撃を食らいうずくまる火使い。


風使いも、上手く動けないみたいだ。


……本当に毎日訓練してるのか?




「……はあ……お前ら、戻ってこいよ」




冷たく、そう言う山本。


その声を聞いた二人は、走って山本の側へと戻る。



「俺がやるからさ、お前らは見とくか適当に後に続け」



「す、すまん」



「わかった!」



二人は、恐れるようにそう返答する。


……やっと、山本がお出ましか。

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