久しぶりに

俺の能力は、まだまだ分からないことだらけだ。


ミュージックプレイヤーやライターの効果を『増幅』させた、ような気がする。


たが、雫にはまったく変化がなく、杖にしてもまったく変化がない。


もしかして、俺達の世界のものしか無理とか?


いやそんなのさすがにないだろう……


でもそれなら王女様にやらかしたときはなんだったんだ?


「……うーん」


あーだめだ、こんがらがってきた。


今はただ、俺でも魔法?が使えることを喜んでいよう。


気づいたら昼の時間になっていたようで。


色々あって腹も減ったし、食堂行きますかね……


うん、あんまり行きたくないけど食欲には勝てない。


――――――――――――――


食堂には、クラスメイト達がちらほらといた。


全体の三分の一程しかいないが、相変わらず俺に向かう視線には辛いものがある。


ただ、もう前のように逃げたりはしない。


視線を受けながら、出来るだけ人がいない方の席へと歩き、座る。


いただきます!


……あれ、これ何日ぶりのご飯だっけ?


「よう祐介!元気か?」


不安な考えが頭に過った時、声をかけてきた

のは春樹だ。


な、なんか前より体ゴツくなってない?



「お、おうなんか久しぶりだな。お前こそ元気か?いや元気過ぎないか?」



若干気圧されながら、そう言う。


「俺は超元気だぞ。前の世界にいた時より体が調子よくてな、ははは」


そう笑いながらいう春樹。


「俺もそんな感じはしてるんだが、お前の場合はもっと調子よさそうだな」


「そうだな、正直魔法なんかいらないぐらいだ。……お前に渡せるものなら、渡してる。魔法が使えないだけで追い出すとか訳わかんねえよ」


そう告げる春樹の声音は、とても悔しそうだった。


「はは、ありがとな。まあ俺はなんとかやっていくさ」


俺はここから離れるかもしれないんだったなと思い、安心させるためにそう言う。


「おいおい、このまま『ここ』から離れることになってもいいのか?」


疑うような声でそう言う春樹。


「まあ……それでもいいと考えてる。いい機会じゃないか?異世界を旅するって響きは中々だし」


「はは、お前がそう言うなら良いんだけどな。まあまだ追い出されるって決まったわけじゃないが。」


それからは、せっかくなら獣人とか見てみたいよなーとか、魔王ってどんなんだろうなとか、下らなくも楽しい雑談で過ごした。


気付いたら、結構な時間話していた事に気付く。


「春樹、お前そろそろいかなくていいのか?」


「おっと、そうだな。んじゃ俺は行くわ!あーそうだ、雫が結構お前のこと心配してたぞ、会ったらちゃんと話しとけよな!」


そう言い、慌しく食堂から出て行く春樹。


……そうだな、雫ともあれから話してなかったっけ。


会ったときはちゃんと話しておこう。雫は大事な友達だからな。





―――――――――




移動して自分の部屋へ。


相変わらず魔力の変形に取り組む。



今日は折り紙でも作ろう。


まず薄い魔力の紙を用意。


その次にその紙を正方形に切り分けて。


他はその辺にほっておいて。


そしてその紙を半分に折り……っとだめだ。


やっぱり一回構成した魔力をそのまま変形、ってのは難しい。



今回は、この折り紙をするのに全ての魔力を使ったのだった。



「さて、俺も春樹並……とはいかなくても体を鍛えなきゃな。」


今は訓練所には人いるしな……


とりあえず素振りしよう。


――――――――――


……思った以上に熱中してしまった。


ちゃんとやり方を教えて貰ってからは、結構上手くなった気がする。


うん、素振り上手いってどうなんだろうか。


というかもう夕食の時間だし。


行くか、食堂。ちょっと早めぐらいがちょうどいい。



食堂には、誰もいなかった。


ちょっと嬉しいと思った俺に悲しくなる。


まあいい、頂きましょう。



席に座ろうとしたとき、数人のクラスメイトが食堂へ入ってくる。


その中に、雫がいたのを確認。視線を投げ掛けると、雫はこちらへ向かってくる。


反応はやくない?


「佑介!大丈夫なの!」


ものすごい勢いでこちらへ来た雫は、そう俺へ言う。


「はは、春樹から聞いたよ。心配してくれたんだって?ありがとうな。俺はこの通り大丈夫だ。」


「春樹は何を勝手に、まあいいけど……」


まだ納得してないのか、ぶつぶつと呟く雫。


「とりあえずご飯、一緒に食べないか?話はこの後するからさ」


「う、うん!」


そう言うと雫は、慌ただしくも椅子に座る。


お互い久々だからやっぱりちょっと緊張するのかね?


まあ食事でもとってたら落ち着くだろう。


―――――――――


雫さん、なんかスプーン震えてない?


視線に気付いたか、チラっと俺を見る雫。


あ、トマト?を落とした。


焦ってる焦ってる。


おいおいそのスプーン何も入ってないぞ!


……うん。この後話すって言ったけど、軽く雑談ぐらいしたほうがいいか。


俺はそんな思っちゃいないが、雫はちょっと気まずいのかね?


「雫、そっちは最近どうだ?」


ド定番の話題を吹っ掛ける俺。


我ながら酷い。


「さ、最近はそうだね、属性魔法の一つ目が、終わりそうって言ってたかな」


「先生がか?そっちの先生ってどんな人だ?」


「ふふ、そうだねー……数学の菊地先生に似てるかも!話し方とか!」


「はは、本当かよそれ。」


「本当だって、それでねその先生、今日が誕生日だったらしくて……」


そんな感じで雑談を続けていく俺達。


あっという間に時間は過ぎていき、皿の中も空となった。


「それで、佑介……本当に大丈夫なの?ここから出て行くなんてことはないよね?」


本題へと、向かっていく会話。


「そうだな。いずれ言われるかもしれないが……正直悪くないと思ってる」


そう告げる俺。


「え?なんで?だめだよ!死んじゃうかもしれないんだよ?外は本当に危険だって!」


心配そうに、必死にそう言う雫。


ただ、もう決めたことだ。


「……俺は、強くなりたいんだ。このままじゃいけないってことぐらい分かってる。勿論死ぬ気もないし、また戻ってくるさ」


そう、真っ直ぐ目を見て雫に告げる。


「……そっか。絶対、死なないで、帰ってきてよ?というか出来れば週一ぐらいで……」


雫は、そう言ってくれる。


「はは、まあ決まったわけじゃないし、雫が心配してくれてるのは嬉しいよ。ありがとな。」


そう言うと、顔を少し背ける雫。


「佑介、顔付き変わったね」


背けながら、そう言う雫。


「そうか?筋トレの影響かもな」


あんまり実感がない。


「……何かを決断した、みたいな。男らしくなりすぎ。直視できないよ……」


背けたまま、ごにょごにょと言う雫。


「決断……なんだって?」


「な、なんでもない!うん、そうだ、何か手伝える事あったらいつでも言ってね!」


背けた顔をこっちに向け、雫はそう言う。


……ちょっと、試してもらいたいことがあるな。


「今夜、いいか?」


「……へ?」


固まる雫。


え、俺なんか変なこといったか?


「この後、訓練所に来てほしいんだ。今はまだ人が居るし、後で呼びにくるよ」


「えっ、あっうんわかった!」


そう返事すると、席を立つ雫。


「大丈夫か?予定あったらいいぞ?」


「ううん!大丈夫だよ!じゃあね!」


そういうと食堂から出ていく雫。


……俺も出るか。



雫と話し始めた時から、まわりからのこちらへの視線は感じていたが。


その中に、明らかに一人、負の感情を載せた視線が、背中に纏わりついてくるのを感じていた。


席を立つまで、それは続く。


何か起こる、そんな嫌な予感がした。









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