第10話誘拐成功

 19-10

「お店に行く前に、もっと沢山のライオンが居る処に行きたく無いかな?」車に乗せると徹は子供が喜びそうな物を一杯車に積んでいた。

何に興味を示すか判らないので、適当に買い込んだのだ。

「わー、キティちゃんだ」と早速反応が有る。

「好き?」

「大好きよ!」と嬉しそうなので、これなら当分は遊びそうだ。

後ろの座席に一杯乗せて有るから、充分大阪の田舎まで帰れる。

徹は車を発進させて、山陽自動車道を目指して走り出した。

動物園の中では保育士がようやく気づいて、園内を探し廻り始めても報告は中々しない。

園内の何処かに居ると信じていたから、簡単に報告すれば責任問題に成るから、何処かで迷子に成っていると信じ切っているのだ。

半時間後ようやく園内放送で「南田凜さん、南田凜ちゃん」と呼びかけ放送が始まった。

そのころ、高速のトイレに入って、食べ物を食べて人形を買って貰って上機嫌の凜。


保育園の園児達は全員保育園に帰って、保育士二人がその後も園内を探したが見つからない。

夕方に成って警察と家族の元に連絡が届いた。

慌てふためいて、役所から来る真三、自宅から来た麻由子、店から母の真由も駆け付けた。

動物園の捜索が行われたが、側溝とかに落ちている形跡も無い。

姫路警察の刑事田所淳一と藤井晋平は誘拐?迷子に成って誰かに付いて園を出て行った?

誘拐なら何か要求が有る筈だから、姫路管内の迷子を調べて見ますと署に帰って行った。

眠れない夜を過ごす真三達、兵庫県警にも連絡がされて、誘拐と迷子の両面からの捜査に成って、県警では佐々木晶子、和田元治、山本太一の三人の刑事が担当をした。

和田刑事はベテランで過去にも誘拐事件を何度か経験していて、佐々木は女性なので、立ち入れない場所と犯人を油断させる為に和田が指名した。

山本は本来の和田のコンビの若い刑事で、今回が初めての幼児の事件だった。


網干の自宅には夜遅く成ってから、県警の三人を中心に数人の警官達が脅迫電話を待つ為に逆探知の装置をセットして待ち構える。

翌朝に成っても何も反応がなく、姫路警察の動物園から、姫路城の近辺の捜索、南田までの道筋の捜査をしたが全く形跡が無かった。

真三と麻由子を始めとして、南田の両親も集まって夜も寝ないで、電話と捜索の結果を待ったが全く何も起こらない。

「早朝から、動物園、お城の周辺の聞き込みを予定しています」

「お嬢さんの写真を大量に捜査員に持たせていますから、もし誰かが見ていたら情報が入るのでは?」

「はい。。」

「。。。」真三は答えたが、麻由子は無言で弟の真の様子を見る為に二階に上がっていったが、心は穏やかでは無かった。


徹は、凜の身体の大きさを予測して、服も沢山用意して自宅には遊べる場所を造り、部屋は外から鍵が掛かって、閉じ込められる構造に成っている。

テレビではアニメが流れて、漫画から、絵本、おもちゃ、楽しく遊べる道具を取り揃えて、凜の興味を誘った。

朝起きると母親麻由子を探して泣き出して困る徹だったが、しばらくして泣き疲れて眠る凜だ。

大勢の捜査員が凜の写真を手に、駐車場から土産物店を聞いて廻る。

昼過ぎに一軒の土産物店の店員が、麻由子の服に似た女の子を連れて歩く女性を見たと緒言した。

一気に沸き立つ捜査員、この目撃情報が完全に捜査員の目を異なる場所に移してしまうのだから、偶然は恐ろしい。

麻由子が姫路のデパートで買った洋服だから、偶然同じ様な女の子が着て母親と歩いたのだ。

捜査員はこの女性が凜を連れ去ったと、捜査の矛先を向けたのだが、一人県警の和田は金目当ての誘拐では無いとの勘が有った。

それなら、何か誘拐の理由が有るのでは無いだろうか?二日目も脅迫電話、金銭を求める電話は全く無かった。

夕方小豆島から麻由子の両親がやって来て、麻由子を慰めたが憔悴しきった麻由子は言葉無く泣き出すだけだった。


徹は凜に至れり尽くせりで、凜が眠ると買い物に出掛けて、凜の喜びそうな食べ物や飲み物を買って来る。

その時間以外は統べて凜の側で一緒に遊ぶので、退屈しない凜だ。


三日目にテレビで発表を考える捜査本部、連れ去った女性を探す為に、公開捜査にして広く目撃情報を得ようとした。

夜のテレビのニュースで姫路城の前を最後に、失踪した南田凜ちゃんの行方をご存じの方はご連絡をと、誘拐とも失踪とも判らない発表だ。

連れ去った女性を探すのが目的だから、誰かが必ず見ているとの確信と期待からの発表に成った。

和田は明日に成っても、電話が無ければ麻由子の家には録音付の電話を置いて引き上げる予定にしていた。

もう電話での要求が無いと確信出来るから、残るは怨恨、事故の両面捜査に切り替える予定だ。

姫路の警察の捜査本部に「私の事ですか?」との連絡が有ったのは翌日の昼だった。

小林と云う女性は姫路の近くの曽根の駅前に住んで居る女性で、友人が貴女の事では?と連絡してきて、始めて判ったのだ。

その日娘と友人の子供と四人で姫路城に遊びに行った時に、ここの土産物店の前を歩いていたのだ。

捜査員が小林の家を訪れて、凜と全く同じ服を着た娘の写真を見せられて、納得して帰って行った。

その日のニュースで目撃情報を改めて問いかけて、広く情報を求める事に成ったが、人の記憶は時間の経過と共に薄れて、全く情報が入らなく成ってしまった。

麻由子の自宅から捜査員も去って、捜査が長引く様相に成っていた。

和田が麻由子夫婦に「何か恨みとか、心辺りは有りませんか?」と尋ねたが全く無いと答えていた。

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