第22話作戦会議

「レティシア・アダムス。若干十六歳にして、教会が認めた大聖人の一人。教会が定めた七つの美徳を持つ一人なんだっけか。えーと……保有属性は……なんだっけ?」

「正義」

「そうその胡散臭い属性だよ」

「胡散臭い言うな」

 レギンレイヴは肩を落とし、相方のゲルはニヤっと笑った。二人はお揃いの黒と白の縞模様の服を来ていた。所謂囚人服と言われる服装である。彼らの周りにもそれと同じような服を着た者が数名、談笑をしたり腕相撲大会等を開いて暇を潰している。

 ここは、受刑者を集めた収容施設だ。二人がこの服を着ているのは勿論、この施設に『収容』されているからだろう。南国の日差しが暑いため、二人は専ら屋内に居た。完全に行動が制限される監獄であればこんな自由時間は恐らく無いのだろう。

「オレにとっちゃ聖人なんて意味の分からん奴は全員胡散臭いんだよ」

「悪かったな」

「聖痕とかいう意味不明の傷跡持ってる所謂大聖人ってのも意味分からんよな」

「だから悪かったな。意味分からん存在で」

 レギンレイヴのその反応を楽しむようにからかうゲル。レギンレイヴは深く溜息を吐いて話の続きを促した。芝居がかったような口調でゲルが話を続けた。

「んで。その大聖人ことレティシア・アダムス。英国に伝承されるかの騎士王と契約してくれたお陰で今では立派な聖なる怪物ってわけだ。しかも、大聖人で尚且つ聖女として崇め奉られてる彼女には呪術関係は一切効かない。本人も信仰心高いのに信仰される側にもなってるからな。かぁー面倒臭いね」

「それで、その聖女様がなんて?」

「ハワイに来る可能性が出てきたらしい。フランスに置いてきたエルルーン情報」

「レティシアはイギリス人だろ? なんでフランスで情報掴めるんだよ」

「まともな幻想課置いてるのはフランスだからな。イギリスの方は幻想を警察に任せずに他の独立機関が対応してるって話は聞いたことあるが何分警察と仲悪いらしくてって……話がずれたな。まぁそれはいいとして。イギリスの対幻想の部署はわざわざ聖女様の手を煩わせることはしたくないって事だろ。だがフランスは……っていうかイリスにはそんなこと知ったこっちゃねぇわけだからな。国際指名手配されてる幻想遣い捕まえるために助力を請いたいんだと。そもそも、幻想遣いが知られるようになったのはつい最近だ。各国でもまだ対応出来てない所が多い。その分、今まで闇に居た魔術師とか呪術師は格好の研究材料を得られてかなり大騒ぎだったみたいだけどな。未だに謎なのは、なんで幻想とかいう夢物語達は急に人間と契約するようになったのかって事だ。スクルドの件もあるし不可解過ぎる。人間にこんなでかい力与えて奴らに何の得が、」

「その話題は後でいい。指名手配されてる幻想遣いって誰だよ」

「オレ達以外にはまず居ないだろ。他に大物が来たって話聞いてねーぜ?」

 はっはっはっと愉快そうに笑うゲルに、レギンレイヴは頭を抱えた。レギンレイヴは疲れたようにゲルを見る。

「スルーズにはちゃんと言ってあるんだろうな?」

「エルルーンのお守りか? この前はエルルーンを一人にした隙を狙われたからな。一応言ってはある。ただあの馬鹿シスター何しでかすか分からんからな。金詰まれたら簡単にエルルーン置いてきそうだし」

 物騒なことを言い出した相棒にレギンレイヴはげんなりとした表情だ。

「大丈夫なのかよ……」

「まぁ、お前の妹みたいな存在だし。そんな馬鹿な事しないと思うけどな。あいつ実力に関しては一級品なのに金に弱いのはどうにかならんかね」

 母国に置いてきた不安要素が気になるらしい。ゲルは脳天気にまぁ大丈夫だろうと言っている。レギンレイヴはあまり信用もしていないようだった。だがゲルは気にした様子もなく、現状の自分たちの状況を冷静に分析する。

「それより今重要なのは、こっちに来るかもってなってる『聖なる怪物』の件だ。もしこの件を本人が受諾した場合、オレ達は大変な事になる」

 その発言に、さすがのレギンレイヴも眉間に皺を寄せた。正直こちらも他を気にしていられるほど余裕のある事案ではない。

「確かに。聖なる怪物って言われてる位だ。しかも世界に名が轟くレベルの騎士王と契約してたんじゃ、接近戦はまず勝てないだろうなぁ」

「幻想物語からそのまま這い出た……そう、この前会ったっていう蛇君ならいけるんじゃないか?」

 名案を思いついたとばかりに表情を輝かせるゲルに、レギンレイヴは静かに首を横に振った。

「今消息不明だ。調べてみたが、あいつ多分日本出た。釣り人が海へと身を投げる自殺者を目撃してる」

「自殺に見せかけて国外逃亡か。人外じゃないと死ぬ方法だな……ってか、よく海行ったな。妖怪ってのは塩苦手だろ?」

「悪魔の類も苦手なはずだけどな。妖怪も悪魔もそんなに変わらんだろうし。まぁ、世界を呪うレベルの呪術が使えるんだ。海水程度の塩から自分の身を守る小規模でかつ濃密な結界位使えるんだろ」

「へぇ……その釣り人ってのはどっち側で見たんだろうな」

「太平洋側だって聞いた気がするけどな」

「ふぅん……じゃぁ、来てる可能性はあるんだよな」

 レギンレイヴは、一瞬ゲルが何を言っているか分からなかった。レギンレイヴは間抜けに口を開けてゲルを凝視する。

「は?」

「だって、太平洋側に落ちたんだろ? 向かうは南北アメリカ大陸かオーストラリアじゃね?」

「いや、でも……」

「そいでもって、そいつはフランス警察の奴らと接触してる。普通なら真っ先にフランスに向かうだろうが……お前の話を聞いていないとも限らない」

「俺にバレずに姿消しの呪術使ってたってことか?」

「お前どころかイリスにもバレてないなら相当精度の高い呪術遣いだ。ま、さっきも言った通り世界を呪って書き換えまで行うようなやつだ。そのくらいの呪術つかえて当然か。イリスにオレの居場所を教えるって言ってそういう状況になったんだとしたら、まぁ十中八九『オレ』に会いに来る可能性がある。ハネムーンならアメリカ本国よりハワイだろ。途中でそんな場所があればまぁ、寄るよな。たとえいなかったとしても候補としては十分だ」

 ゲルの推察を聞き、レギンレイヴは嫌そうに彼を見る。ゲルは特に気にした様子も無く、ニヤリと笑っている。

「お前、何考えて……」

「オレの法術でちょっくら探してみる。あの警察君が敷いた結界程度で引っ掛かるって事はそこまで魔術や他文化の呪術にはあまり強く無いと見た」

「俺は一応反対しておくぞ」

「全然構わん。まぁ一種の賭けみたいなもんだ。ドンピシャでハマるとは思ってねーよ」

 レギンレイヴは大きく溜息を吐き、疲れたように問いただした。

「……で? 万が一見つかった場合、お前はどうするつもりなんだ」

「当然」

 自信満々に、ゲルは笑った。

「世界でも有数の聖処女と日本の大妖怪が対決するのを面白可笑しく見守るんだよ!」

「なぁ、目的ズレてないか? それ」

 至極楽しそうな相棒に対してレギンレイヴはやはり疲れたように、溜息を吐いた。妙に冴え渡る感の良さに若干を違和感を覚えて。

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