"赦しの国、救いの星"

とある、小さな惑星が、幾度目かの危機を迎えたとき。

風の便りで一報を聞きつけた者たちが、駆けつけた。

彼らはいずれも、この星の出自ではなかったが、口を揃えてこう言うのだ。


『育てられた恩義を、今こそ返し報いたい』


彼らを育てた星のことを、訪れた者の一人が、こう読んだことがある。


“赦しの国、救いの星”


戻る決断をした者たちもまた、無意識のうちに求めていたのかもしれない。

彼らが今置かれている、厳しい現実を、打開するためのひとたびの“赦し”を。

戻れない時間に、後悔しない未来を進んでいくための、拠りどころとなりうるひとときの“救い”を。

また。

同じ愚かな過ちを二度と繰り返さないようにするために、立ち止まり心取り戻すための“癒し”を。



決して、好んで戦いに身を投じたわけではなかった。

護るための、ひとつの選択肢だった。ただ、それだけのことで。


気付くと、大星系を前線守護する特殊部隊に志願していた。


『自身の能力がいかほどのものか、試したい』

『もっと、強くなりたい』


追われるように、逃げるように、去るものも居た。

しかし、無意識の中で、恐らく、皆がこう確信していたのだろう。


『きっと、最期には、ここへ戻ってくる』



果たして今、ここに、頼もしい戦士たちが集結した。





・Brave Red・


「―なァ、本当に帰るのか??」

「ああ。世話になったな」

 部屋で荷造りをしていた彼を、最近までチームを組んでいた男が呼び止める。

「身体にガタきちまって退役するとか、深刻な家庭の事情とかならまァ分からんでもないんだが・・・」

「家庭の事情、と言えなくも無いぞ、ある意味な?」

 手を止めて振り返ると、意味深にニヤリ、と笑う。

「おいおい、家族円満が自慢、じゃなかったのかよーっ!」

 その様子に言いようの無い怖さを覚えた同僚の男が、わざとおどけた調子でそう言うと。

「―ああ、家族は円満だが?だから、誰にも反対はされなかった。むしろ、喜んでくれたよ。娘は特にな」


『これからは、ずっとパパといっしょだね!』


「・・・あー・・・まぁ、そういう家族サービスね・・・にしても、だ。思い切ったな、お前」

「色んなところで言われたんだが・・・主に、稼ぎのことだろ?」


 同僚はもちろん、部隊長やさらに上層のものたちからも、引き止める材料として度々話題に上がったのが。


『あんな小さく貧しい星の警護なんかより、こっちの方が待遇も報酬も格段に上だぞ?なんなら、もっと上乗せしてやっても良い』


「もう、決めたことなんだ。」

 自分でも驚くほど、潔い決断をしていた。

 少しも未練が無いといえば、嘘になるかもしれない、けれど。

「後悔は無いよ」


―骨をうずめる覚悟をする場所は。


 最高の栄誉を以って、華々しく散るよりも。


―愛する人たちを護り、また、温かく見守られながら、安らかな最期を迎えたい。


 彼の意思は、揺るがなかった。


「それにな、あいつも、戻ってくるらしいんだ」


―供に、歴戦を渡り合った、相棒が―


 目を細めると、かつての仲間との日々に、思い馳せるのだった。




・Reboot・


「我々から、お前に命令を下す権限は無くなった。自由に征くといい―」

 それは、事実上の解雇通告に近かった。

 同時に彼は、自分の意思による多くの選択権を手にすることが出来た。


―帰ろう、あの星へ。

 彼も直ちに、前線を発つ手配をした。


 己の能力を試したい、さらなる高みを目指したい。

 星を発つ時に、ほとんどの者が抱く、野心。

 けして悪いことではない。

 くすぶり続けて自身を見失ったり、見限ったりするよりは、はるかに、建設的思考と言えるだろう。


 たとえ、叶わない夢となろうとも。



 能力が無いわけではなかった。

 しかし、前線では思うように発揮できず、幾度も苦汁を舐めさせられた。


―ここは、俺の居場所では無いのか・・・?


 悩みながらも、染まることは無く。

 あるべき姿で居られる場所を、必死に模索していた。

 そんな時だった。


『戻って、我々と供に、もう一度、戦ってくれないか?』


 必要としてくれる人を、ようやく、見つけ出した。

 



 出迎えは、決して派手なものではなかった。

 差し出された手を、神妙な面持ちで、握り返すも。


「かつての信頼を、取り戻す自信がありません」

―凱旋なら、まだしも・・・

「私は、」

「ここで、君にできる事を、君のやり方で、後進に示してくれればいい。これは、」

 未来を掴み取るための、戦いなんだと。

「でも、」

 なおも弱気になる彼に、男は首を横に振ると。

「君のふるさとのひとつとして、この星を、護ってくれるのなら、われわれは全力で君たちを支援する」

「・・・」

「君の果たせなかった夢を叶えるには、ここは小さな舞台かもしれない。満足のいく処遇には到底及ばないかも知れない、けれども―この星の未来を信じている、懸けている者たちは、確かに育っているんだ」

 彼らの手助けをして欲しい。

 その意図を、ようやく、理解した。

「・・・俺に、何処まで出来るかわかりませんが―」


 不再び集う、かつての仲間たちと供に。


 新たな居場所が、スタートラインが、見えた気がした。




※短いので三篇まとめました

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