空に視る




 ふわりと薄青の中を揺蕩う白は、逸らさず眺め続ければ刻一刻と形を変える。

 曖昧な輪郭に意味づけし、物語を作るのも子供の遊びのひとつだ。


 そんな空想遊びについて行けず、よく困ったものだ。


「意外ですな。自然の中に明日を幻視出来る貴方が」


 庭先で雲を眺めて語った言葉に、傍らの客人が言った。

 言葉の割に、驚いている風情が皆無なのは彼の気質らしい。


「だからこそでしょう」


 僕は幼い頃から所謂「未来視」ができる。

 だが、雲が何かの形に見えたことは一度も無かった。


「雲はただ雲ですよ。水蒸気の塊だ」


 其処に「在る」モノのはそれ以外のモノには視えない。



 今まで概ね周囲の顰蹙を買ってきた言葉に、客人はひそりと笑いを零した。




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Twitter300字ss参加作。お題:雲

斗織ちゃんと駒場さんの会話。おそらく空白七年間のどこかです。

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