この素晴らしい弟に祝福を!

月兎。

第1章 prologue

弟side



どうやら、僕達は死んでしまったらしい。


「ようこそ死後の世界へ。私は、貴方達に新たな道を案内する女神アクア。

佐藤和真さとうかずまさん、佐藤颯真さとうそうま君。貴方達は本日午後14時21分に亡くなりました。

辛いでしょうが、貴方達の人生は終わったのです」


目が覚めると、そこは事務室みたいな部屋の中だった。そこに僕達は突っ立っている。

そして目の前には、事務椅子に座ったとても綺麗な女神様。

何故お姉さんの言う事をすんなり信じたのかと言うと、女神様にキラキラと後光の様なものが射していて、絶世の美女と言う言葉がピッタリなほどに綺麗だったから。


「え……颯真、お前も死んだのか?

一体何があったんだよ、お前は周りに対する注意力が足りないから気をつけろってあれほど言ったのに!ていうか同時刻に死んだのかよ!!」

「えーっと、確か大っきいワンちゃんが僕を押し倒してペロペロしてきて、飼い主のおっちゃんが苦笑いしながら謝って来て「良かったらうちにおいでよ、お詫びにお菓子あげるから」って言うからついてったら……そしたら…うぅ…」

「おい、どうした?」

「出されたお茶に睡眠薬入っててっ…服破られた後に「なんだよお前男かよ!」って怒られて首絞められてっ……うぇえええええん怖がっだよぉぉ兄ぢゃぁああんッ!!」

「怖ッ!!だから言ったじゃん!!あれほど知らない大人について行くなって言ったじゃん!!

ああよしよし怖かったなー、大人には変な趣味持った人がいるからなー女の子と間違えられたんだなー」


兄ちゃんに慰めてもらっていると、女神様が暖かい目で無言でぎゅっとしてきた…この女神様良い人!!でもちょっと照れるから程々にして!!


「あ、そうだ。一つだけ聞いても?」

「どうぞ?」

「あの女の子は……俺が突き飛ばした女の子は、生きてますか?」

「ええ、生きていますよ?もっとも、足を骨折する大怪我を負いましたが。」


ん?兄ちゃんは人助けしたのかな?流石兄ちゃん凄いやッ!!

兄ちゃんは近所の子供達に人気で、ゲームでは負け知らずなことで有名なんだよ!じゃんけんも負けたことないし、僕の自慢の兄ちゃんなんだ!!


「まぁ貴方が突き飛ばさなければ、あの子は怪我もしなかったんですけどもね?」

「……は?」


え?どゆこと?


「あのトラクターは、本来ならあの子の手前で止まったんです。当たり前ですよね、だってトラクターですもん。そんなにスピードだって出せないし。

つまり貴方は、ヒーロー気取りで余計な事したって訳です。……プークスクス」


兄ちゃんトラクターで死んだの?

え、何それカッコ悪い。


「……つまり、俺は意味も無くトラクターに耕されて死んだって事か。……まあ、しょうがない。つまんない最後だったけども、まあ……」

「耕された?いえ、貴方はトラクターに轢かれてなんかいませんよ?トラクターは、貴方の目の前で止まりましたから」

「え、でも俺死んだんじゃ……?」

「貴方はトラクターに轢かれそうになった恐怖で失禁しながら気を失い、近くの病院に搬送。「なんだコイツ、なっさけねーの!」と医者や看護婦に笑われながら、「目を覚ますまでそこのベッドに寝かしとけ」と、」

「うわああああああああ!!聞きたくない聞きたくない!!そんな情けない話は聞きたくない!」

「に、兄ちゃん…」

「やめろおおお!!お前までそんな哀れみの目で見るのはやめろおおお!!」


二十歳越えてるのに漏らすなんて…。

僕がショックを受けている間に、女神様は耳を塞いでいる兄ちゃんに近寄ると、ニマニマと笑みを浮かべながら態々兄ちゃんの耳元で…


「そこのベッドに寝かしとけと適当な病室のベッドに寝かされていた所を、病院で有名なドジッ子看護婦が、本来絶対に間違っちゃいけない系の薬を、点滴待ちしていた他の患者と間違えて貴方に……」

「うわああああああああああ!!いやあああああああ!!嫌だあああああああ、そんな情けない死に方ってあんまりだろおおおおおおお!!」


……もうフォロー仕切れないや。

その看護婦さんクビにならなかったのかな?一時期そんな事件がニュースであったけど、まさか兄ちゃんが似たような死に方するなんて……まぁ僕の死因も最悪だけどね。


「さて、私のストレス発散はこのくらいにしておいて。情けなく死んだ貴方と可哀想な弟君には、いくつかの選択肢があります」


え、ストレス発散だったの?


「それは、このまま日本で赤ん坊として生まれるか。天国的な所でお爺ちゃんみたいな暮らしをするか。さあどっち?」

「いやその……。天国的な所ってなんですか?そもそも、お爺ちゃんみたいな暮らしって?」

「えっと、天国ってのはね。

貴方達が想像している様な素敵な所ではないの。死んだんだからもう食べ物は必要ないし、死んでるんだから物は当然産まれないわ。作ろうにも材料もないし。

ガッカリさせて悪いけど天国にはね、何にも無いのよ。ネットも無ければTVも漫画もゲームも無い。そこに居るのは、既に死んだ先人達のみなの。

勿論死んだんだからエロい事だって出来ないし、そもそも体が無いんだから出来ないわね。彼らと永遠に意味もなく、日向ぼっこでもしながら世間話するぐらいしかやる事が無いわ」


ゆ、夢も希望も無いなぁ……。

僕達がガッカリしていると、女神様はニッコリと笑顔を浮かべた。


「うんうん、天国なんて退屈な所行きたくないですよね?かといって、今更記憶を失って赤ちゃんからやり直すって言われても、貴方達にとっては今までの記憶が消える以上、それって貴方達という存在が消えちゃう様なものですよね。

そこで!ちょっといい話があるのよお兄さんと坊や!」



((……なんだろう、物凄く胡散臭い。))



兄弟の思いが1つになった瞬間だった。

「ちょっと良い話があるんだが」とか言ってくる人は、大抵詐欺に嵌めてくるような人達だって兄ちゃんが言ってた。兄ちゃん物知りだね!

女神様は、警戒する僕達にニコニコしながら…


「実はね?今、ある世界でちょっとマズイ事になってるのよね。

って言うのも、俗に言う魔王軍っていうのがいて、その連中にまぁ、その世界の人類みたいなのが随分数を減らされちゃってピンチなのよ」

「……で、俺達に代わりにその魔王を倒せとか?」

「まさか、幾ら何でも童貞ニートに魔王退治命じるほど鬼じゃないわ!アハハハハ!!あ、弟君はまだ子供だからよ?馬鹿にした訳じゃないのよ?」


僕は、兄ちゃんが拳をギュッと握りしめているのを見なかったことにした。やっぱり童貞なの気にしていたみたい。


「話を続けるわ。その星で死んだ人達ってほら、魔王軍に殺された訳でしょう?なもんで、もう二度とあんな死に方するのは嫌だって怖がっちゃって、そこで死んだ人達は殆どがその星での生まれ変わりを拒否しちゃうの。

はっきり言って、このままじゃ赤ちゃんも生まれないしその星滅びちゃう!みたいな。で、それなら他の星で死んじゃった人達を、そこに送り込んでしまえって事になってね?」


僕が頭にハテナを浮かべていると、兄ちゃんが「分かりやすく言うと、住んでる所を交換するってことだ」と教えてくれた。

僕はまだ小学生だからあんまり難しいことは分かんないや。


「で。どうせ送るなら、若くして死んだ人なんかを、肉体と記憶はそのままで送ってあげようって事になったの。それも、送ってすぐ死んじゃうんじゃあ意味が無いから、何か一つだけ。向こうの世界に好きな物を持っていける権利をあげているの。

それは強力な固有スキルだったり、とんでもない才能だったり。神器級の装備を希望した人もいたわね。

……どう?これならお互いにメリットがある話でしょう?貴方達は、異世界とはいえ人生をやり直せる。異世界の人達は即戦力になる人がやってくる。悪くないでしょ?」

「えっと…聞きたいんですけど、向こうの言葉ってどうなるんです?俺、言葉喋れるんですか?」

「その辺は問題ないわ。私達神による、アレな超パワーでサクッと都合よく解決済み。勿論文字だって読めるし向こうの貨幣なんかも、日本円に脳内で換算されてくれる分かり易い便利システムを採用してるわ。

だから、後は能力か装備かを選ぶだけよ」


えーっと、つまり問題ナッシング!てことだよね!凄いや!!

んーと、能力にしようかな?それとも武器?

僕昔から動物に異様に好かれるんだけど、それって異世界では能力として扱われるのかな?

動物園に行った時なんて全ての動物が僕の方に寄って来て、ふれあいコーナーに行ったら兎さんが僕の方にばかり来ちゃって、係りのお兄さんにふれあいコーナーお断りされて兄ちゃんに慰められた。


「女神様、僕生まれつき動物に好かれるんですけど、それって能力に入りますか?」

「あら、そんな長所があったのね。多分スキルに反映されると思うわ。

そんな貴方には、魅了チャームなんてどう?本来はサキュバスやヴァンパイア達の能力なんだけど、人間にも使える様になるの!魅了された相手は自分の意のままに操れるわ!」

「凄ーい!じゃあ僕それにするー!!」


僕が目を輝かせていると、兄ちゃんが「おい待て、嫌な予感しかしねぇからやめとけ!!」と言われてちょっと悩む。


「ねえ、早くしてー?弟君の方はもう決まったのよ?貴方が何選んでもどうせ一緒よ。最初からニートでブラコンの貴方なんかに誰も期待はしてないから、なんか適当に選んじゃってー。

何でもいいから、早くしてー早くしてー」

「ってブラコンじゃねぇよ!!コイツ服装によっては女の子と勘違いされやすいから、そういった能力持つと襲われないか不安なんだよ!!」


女神様は自分の髪の先の枝毛を弄りながら、兄ちゃんには全く興味無さそうに言った。


「ねーえー、そんな事どうでもいいから早くしてー。この後、他の死者の案内がいっぱい待ってるんだからね?」


その面倒臭そうな投げやりな態度に、流石に兄ちゃんもカチンときたのか、「じゃあ決めてやるよ、異世界に持っていける物だろ?」と苛ついた態度でこう言った。


「じゃあ、あんた」

「あーはいはい。それじゃ、この魔方陣の中央から出ない様に……」


そこまで言って、女神様はピタリと動きを止める。


「……今、何て言ったの?」


呆然と呟く女神様と僕達の足元には、青く光る魔方陣が現れた。


「ちょっ…え、何これ。ねぇ嘘でしょ?

いやいやいやいや、ちょっと、あの、創造神様!?無効でしょ!?こんなの無効ですよね!?待って!待って!!」


涙目でオロオロしながら慌てふためく女神様を見て、兄ちゃんは悪どい笑みで高笑いする。


「ぶはははははッ!!馬鹿にしてた相手と異世界へと強制連行!おいどんな気持ちだ?なぁなぁ今どんな気持ち?」

「わぁ!女神様連れていくなんて流石兄ちゃん凄いや!!」

「凄くないからぁあああ!!ちょっとあんた何してくれてんの!?嫌ぁああああ!!こんな貧弱なクソニートと異世界行きなんて、嫌ぁあああああああ!!」


僕達は、女神様と共に白い光に包まれた。



To be continued…

─────────────

後書き

………はい、「このロリ」に続いて「この弟」も書いちゃいました。

反省はしているが後悔はしていない。

弟がいると聞いて書きたくなったんです。

この動物に好かれる体質は、いずれ仮面悪魔が出てきた辺りから原因が明かされていきます。


基本Web沿いなので、皆の年齢もWeb沿いです。でもデュラハンの頭をスティールするのはやっぱりカズマにさせたいので、そこは譲れません。

あのアニメの悪どい笑みがツボです(笑)


弟君

佐藤颯真さとうそうま

11歳♂

能力:動物好かれと魅了。

しかしこの能力が後にとんでもないことに…

容姿:髪や目の色は兄と同じ。

猫っ毛ショートでくりっとした愛らしい目。

兄のおさがりを着ており、所謂萌え袖。

年中半ズボンの絶対領域、子供は風の子。

後に装備を整えてからは、深緑のフード付きローブ。子供用のローブが無かったのでこれまたブカブカで萌え袖が…。

性格:素直で純粋、単純で泣き虫。

お兄ちゃん大好きな甘えん坊で、物知りな兄を尊敬している。虫が嫌いで、よく兄に退治してもらってた。特に蜘蛛が大嫌いで、デストロイヤーの真似をするアクアを見て大泣きする。

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