魔女っ子フレンズ イモリちゃん
佐藤 涼希
彼女は魔女っ子
「あなた、怪我してるの?」
彼女の名前はイモリちゃん。
有尾目イモリ科イモリ属、アカハライモリのフレンズだ。
黒いとんがり帽子と、同色の袖付きマント。
ボタンの開いた正面からは、内側に赤のワンピースを着ていることが伺える。
また、とんがり帽子の裏地はワンピースと同じ赤色であり、マントの袖や背中部分には赤色の糸で模様が刺繍されている。
髪の毛の色は黒、セミロングを肩まで流している。
眼の色も黒、つぶらで愛嬌がある。
彼女の名前はイモリちゃん。
色んなちほーを旅する自称魔女っ子のフレンズ。
彼女は旅の中で、自分という存在を最大限利用してフレンズを助け回っている。
怪我しているフレンズを見つけては、自分の得意な治療を施し、その存在を宣伝しているのだ。
「怪我のことなら魔女っ子イモリちゃんにお任せ!」
そう声高に叫んでやまない。
「ちょっとだけピリッとするけど、我慢してね!」
彼女の治療はとても簡単。
怪我したところをペロッと舐めて、ハイおしまい。
もちろん、ただ舐める訳ではない。
野生解放によって自身のポテンシャルを最大限発揮し、再生力の高まった細胞を唾液に乗せてフレンズに分け与えているのだ。
彼女の細胞の再生力は素晴らしい。
野生解放すれば、ちょっとした怪我はすぐ消える。
眼の様な大切で、複雑な部分もしっかり再生。勿論、視力だって戻せてしまう。
賢い彼女はペロッとする前に殺菌することも忘れない。
体表から微弱な毒を出し、怪我した場所の周辺に塗れば大丈夫。
勿論、毒は毒である。
強さを間違えたら一大事だ。
しかし、彼女は厳しい訓練によって自身の毒の強弱を操れる様になった。
とはいえ、元々毒はそこまで強くないから、心配はいらないのだが。
彼女の得意な治療行為は、彼女自身のたゆまぬ努力によって支えられているのだ。
彼女には、旅をする目的がある。
怪我したフレンズの治療も勿論大切だ。
しかし、彼女には他にも、旅をする大事な理由があるのだ。
『素晴らしい! 君の力は僕達の希望だよ! 君はみんなを助けることが出来るんだ!』
彼女は最初から、治療が得意だった訳ではない。
むしろ、苦手であった。
自分の得意な事が分からなかった彼女は、毒で誰かの迷惑になる自分の特徴を、コンプレックスに思っていた。
自分に自信が持てず、他のフレンズ達が楽しそうに遊んでいる時も、独りぼっちでそれを眺めていた。
けものはいても、ノケモノはいない。
それでも彼女は、自分から進んで一人になっていた。
誰かを傷つけないために。
そんな彼女の手を取り、孤独というちほーから引き上げてくれた存在がいたのだ。
『君は誰かを傷つけるだけじゃない。その力を、誰かを助ける為に使ってみないか?』
その女性は『人間』だった。
誰かに触れる事を怖がっていた彼女を、その人間は救ってくれたのだ。
『ほら見て、君のおかげでこの子は助かったんだ。君は自分の毒をコンプレックスに思っていたね? でも、それだって使い方次第では、こんなにも素晴らしい「魔法」を起こせるんだよ』
人間は彼女に、毒を殺菌に使う事を教えてくれた。
人間は彼女に、野生解放を使って怪我したフレンズを助ける事を教えてくれた。
『ありがとう! イモリちゃんって凄いんだね!』
人間は彼女に、フレンズと触れ合う喜びを教えてくれた。
彼女は人間の事をとても大切に思っていたし、人間も彼女のことを大事にしていた。
『魔女…………はちょっとイメージと違うかな。そうだな…………うーん、「魔女っ子」……っていうのはどうだい? 君の可愛らしい容姿にも、よく似合っている』
人間がそう言ってくれた時、彼女は救われるような思いだった。
魔女。人間の持つ御伽噺の本に出てきては、人を困らせる怪しいやつ。
彼女は自分の事をそんな存在だと思っていた。
それは見た目が似ていたこともあったし、きっと自分は迷惑な存在なんだと、そう思い込んでいたからだ。
それなのに、人間はそんな彼女を「魔女っ子」にしてくれた。
自信がなかった容姿を褒めてくれた。
彼女は、きっと人間は凄い魔法使いなんだ、と思った。
だって、こんな自分をたった一言の『呪文』で変えてくれたのだから。
白い施設にこもって、人間と共に誰かを助ける日々。
彼女はそれが、ずっと続いていくのだと思っていた。
しかし、ある日を境に人間はいなくなってしまった。
『ごめんね…………僕達は此処を離れないといけないんだ。でも、いつか必ず戻ってくる。だから君はそれまで、僕達の代わりにフレンズの助けになってほしいんだ』
人間は彼女を、他者を傷つけるだけだった『魔女』を、他者を救える『魔女っ子』に変えてくれた。
「私は魔女っ子イモリちゃん! 待っているなんて、性に合わないわ! だから今度は私の方から、貴女を探し出してあげる!」
魔女っ子イモリちゃんは今日も旅する。
見知らぬフレンズを助ける為。
そして、大切なあの人に再会する為に。
その日も彼女は、困っているフレンズを探して旅をしていた。
そんな彼女の瞳には、少し先の道に座っている二人のフレンズが映っていた。
片方は、見た目からネコ科のフレンズだという事が分かる。
遠いので判断しにくいが、恐らくサーバルキャットのフレンズだろう。
人間と共に勉強した彼女は、フレンズの種類についても詳しいのだ。
そしてもう片方は、よく分からないフレンズだった。
自分のように頭に帽子を被り、鞄を背負っている。
足を怪我して困っているようだ。
何のフレンズだが分からないのは、彼女のプライドに少し傷をつけた。
しかし、分からない事があれば聞けばいい。人間はそう言っていた。
怪我を治してあげた時に直接聞いてみよう。
彼女は二人に向かって走り出す。
そしてこう言うのだ。
「私は魔女っ子イモリちゃん! 怪我の事なら任せといて!」
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