アンナリーザは今日も元気 ~私の娘は規格外~
和久井 透夏
第1章 ある日森の中、魔物を放った♪
第1話 ひとりで召喚できるもん!
「それでね、私この本を読んで少ない魔力で魔物を召喚できるように魔法陣をさいこうせい? していっぱい召喚したの! ママにも見せたかったんだけど、どっか行っちゃった……」
小さな腕をいっぱいに広げて動かしながら説明した後、しゅんとした様子でアンナリーザは俯く。
肩までで切りそろえた淡い水色の髪がさらさらとアンナリーザの顔にかかる。
「どっか行ったって……なにこれ!」
家の周辺の地面に大量の魔法陣が描かれている。
そして、明らかに人の物ではない大きな足跡や地を這ったような跡が魔法陣の周辺にいくつもある。
我が家は絶壁の岩山を背にして周りを森に覆われているいわば陸の孤島。
この様子だと娘以外に目撃者がいなさそうな事が不幸中の幸いだ。
町の商店に薬を卸しに行って、そのまま軽く買い出しをして帰ってきたら、娘が庭で大量に魔物を召喚して森に放っていた……なんて展開を誰が予想できるだろう。
半年前、私は遂に
それは未だこの世界で誰も成し得なかった偉業であり、私の長年の夢だった。
高い知能や高い魔法適性などの優れた資質を持つ、生まれついての天才。
私の血を元に作られた私の子供。
人造人間にアンナリーザと名付けた私は、彼女に将来は私の研究を引き継いでくれる立派な魔術師になってもらうため、それはそれは熱心に彼女を教育した。
実際彼女は言葉をすぐに覚えたし、読み書きや数の計算なんかもあっという間に出来るようになって、私は毎日アンナリーザの成長が楽しみだった。
……そう、この時までは。
それまで私は深く考えていなかったのだ。
高度な魔法を使える程の高い知能と魔法適性を持った子供がいたとして、そのくせ精神は幼いままでなんでも深く考えずに突発的に行動してしまうとしたら……。
「アン、どんな魔物を召喚したのか憶えてる……?」
「えっとね、ここのページから、ここまでのを一匹ずつ全部!」
軽くめまいを感じつつ、私が状況を把握する為に尋ねれば、アンナリーザは元気良く答える。
この分なら庭の魔法陣の数からしても、召喚された魔物の数は軽く三十を超えるだろう。
『まあすごい! この前簡単な召喚魔法を教えたばかりなのに、独学で上級者向けの本を読んで魔法陣を再構成するなんて!』
正直、そう言って娘を抱きしめたいような気もしたけれど、私はそれをグッと堪える。
初心者向けの召喚術の本に載っている召喚用の魔法陣は、使役、送還、繁殖抑制など、魔物を呼び出す際は特別な理由が無い限りつけておくべきオプションを標準装備したものだ。
しかし、辺りの地面に描かれている魔法陣を見れば、魔物を呼び出すのに最低限必要なものしか書かれていない。
「アン、どうして本の通りに書かなかったの?」
「だって私、魔物をたくさん召喚したかったの……」
魔物の中には、単性生殖が可能なものも多いので、そういった魔物を呼び出す場合は繁殖抑制の術式を組み込んでいないと非常に厄介な事になる。
つまりアンナリーザは、制御が利かず、こちらの意思で送還する事も出来ず、しかも勝手に増える魔物を大量に召喚して森に放ってしまったのだ。
「召喚した魔物、いうこと聞かなかったでしょ」
「うん……」
「アンが魔物を呼び出すのに描いた魔法陣にいうことを聞くようにする文字が書いてなかったからなの」
「わかってたけど、特に何かさせる訳じゃないし無くてもいいかなって……」
「ここの森は、大人しくて臆病な魔物しか住んでいない、人間にとって安全な森だから、村の人がよくまき拾いやきのこ取りや狩猟で入るの」
「でも私、この森でママ以外の人間に会ったことないよ?」
「そりゃ、ここは地元の人もここまで来ない程森の奥にあるもの……ねえ、例えばアンが魔法を使えない状態で森に入って、突然魔物が現れたらどうする?」
「え、魔法が使えなかったら魔物と戦えないよ?」
「そうね。村の人はほとんど魔法が使えないのよ」
アンナリーザの顔はみるみる青ざめていく。
「あれ? じゃあもしかして、私、大変な事しちゃった……?」
急にオロオロしだして、どうやらようやく自分のしでかした事の重大さに気がついたらしい。
「どうしよう! 謝りに行かなきゃ!」
「それはダメ」
琥珀色の瞳を潤ませて慌てるアンナリーザの頭を力強く押さえて私はそれを止める。
「この事がバレたら、私もアンも、村の人に火あぶりにされてしまうわ」
私がそう話せば、アンナリーザはふるふると震えて怯えだした。
実際、森で生活の糧を得ている人達にとって、森に入れなくなるのは死活問題であるし、冒険者ギルドに魔物の駆除を依頼するにしてもあの数、しかも勝手に増殖するとなると、費用もかなりかかってしまうだろう。
そんな状態で名乗り出ても、良くて駆除に必要な費用を取られてこの土地から追放、最悪お尋ね者になってしまう可能性もある。
とにかく、村の人間に気づかれる前に魔物を全て駆除できれば一番良いのだが……
そう考えていると、突然森の奥から複数の銃声と悲鳴が聞こえた。
振り返れば、
「アギャアアアアアアアアアアアア!!!!」
という、耳障りな鳴き声が響き渡る。
マズイ。
早速犠牲者が出ている。
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