第十九回 水滸伝(北方謙三)
<あらすじ>
十二世紀の中国、北宋末期。重税と暴政のために国は乱れ、民は困窮していた。その腐敗した政府を倒そうと、立ち上がった者たちがいた―。世直しへの強い志を胸に、漢たちは圧倒的な官軍に挑んでいく。地位を捨て、愛する者を失い、そして自らの命を懸けて闘う。彼らの熱き生きざまを刻む壮大な物語が、いま幕を開ける。第九回司馬遼太郎賞を受賞した世紀の傑作。
(第一巻より)
※引用:Amazon.co.jp
https://www.amazon.co.jp/dp/408746086X/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_TXwqybVRBACRA
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何と書くべきか。
書いても書いても、書ききれない溢れる想いが、この作品にはある。
というのも、この作品は僕が「小説すばる」の連載第一回から続編で最終章でもある「岳飛伝」まで、17年と原稿用紙約2万5500枚を全て毎月読み上げたからだ。
17年。その月日は長い。
連載開始は、僕が高校生の時。単純計算すると、17歳の時だ。
高校を卒業して進学し、幼稚園教諭・保育士となり、人生の辛苦や絶望を味わい、妻と出会って愛娘を授かり……。その全てのシーンに北方水滸伝が側にあった。それだけで、この物語が僕にとって特別だという事はご理解できるだろう。
さて、物語である。
〔中国四大奇書〕の一つである水滸伝が原作。時代は北宋末期、汚職官吏や不正がはびこる世の中で、アウトローが不正を糺す為に戦うストーリーである。
かの有名な〔南総里見八犬伝〕や〔天保水滸伝〕はこの水滸伝から派生した作品であり、日本でも親しまれてきた。
ただ、この原作水滸伝には矛盾点もあり、かつ日本人には中々受け入れがたい描写や行動もあった。それが現代日本人の認知度に於いて、三国志や西遊記などと比べて一歩遅れた原因だと思っているのだが、この北方水滸伝はそうした矛盾点や日本人が理解しにくい箇所を解消し、ある意味で日本ナイズしたものだと言える。
その説明は実際読んで驚いて欲しいので言及は避けるが、一番おお! と思ったのが、妖術の解釈である。
水滸伝には、妖術が登場する。風が吹いたり、空を飛んだり、化け物を召喚したり。そうした妖術に対して主人公達(梁山泊)は殆ど何も出来ない。妖術に対抗するには、基本的に妖術を使うしかない。なので、梁山泊にも妖術を使えるキャラが登場するわけだが、僕はこの妖術の存在が読者を選別するものになっているのでは? と考えている。実体験としても、僕の義父に北方水滸伝を勧めた時、
「魔法は好かん」
と、言われた。
そして著者の北方謙三は、この妖術をどのように解釈したのか? 当然、北方はファンタジーを書くような作家ではなく、むしろ真逆にあるハードボイルドの大家である。
北方は、この妖術を忍術に変えたのである。梁山泊の妖術使い・公孫勝を特殊部隊の隊長に据え、暗殺や秘密工作、奇襲などに従事させる存在に仕立て上げた。
この設定を知った時、僕は膝を打ち
「これは凄いものになる!」
と、確信した。連載開始前から北方ファンであったが、この解釈が僕を更にのめり込ませる要素になった。
※義父は今では愛読者。
そして、この北方水滸伝。宋を倒そうとアウトローが集っていき、仲間を失いながらも志を実現しようと悪戦苦闘するわけだが、読んでいると不思議な現象が起こる。
これは北方水滸伝オフ会でも訊いて、皆がそうだと言ったから、多くの人がそうなる現象だろう。
その現象とは、読んでいると、まるで自分が「梁山泊の一員となって戦っている」という錯覚に陥るという事。108人の仲間がまるで戦友に、憎き宋が仇敵に思えてくる。故に、そして終盤に迎える戦いでは、自分も一緒に撤退したり、死にゆく仲間を見送ったりと、物語の中に自分が立っていて、一話読むのが本当に疲れるのだ。
また、この水滸伝。原作とは違い死ぬキャラクターが違うので、毎月ドキドキしていた。小説すばる発売日に購入し、祈るように
「死ぬな! 死ぬなよ!」
と、読んでいたのはいい思い出だ。
そして最終回。読み終えた僕は、放心状態だった。
北方謙三作品は人を選ぶ。
嫌いな人は嫌いであるし、原作の水滸伝ファンには笑われる対象で、17年前には2ちゃんねるなどに、「北方水滸伝(笑)」や「あれは別物」とよく書かれたものだ。
※僕は光栄の影響で原作のファンでもあるが、不思議と抵抗は無かった。
だが、読んで欲しい。
ハードボイルドの大家が、17年の年月と原稿用紙約2万5500枚という容量で書き上げたこの物語は、本物なのだから。
――余談――
北方水滸伝には多くのキャラが登場しますが、第一作となる「水滸伝」に登場した中で、僕が好きなキャラと好きポイントを紹介します。
★黄信:梁山泊内の序列に不満を持ち、いつも愚痴を言って仲間に煙たがられる所。
★施恩:しぶしぶ入った官軍で出世したくないので、肝心な所でいつもミスする所。
★李袞:臆病で敵が来たら、仲間を見捨てて自分の為だけに作った穴に逃げ込んだ所。
★王英:女にだらしなく、浮気現場に乱入された所。
★馬麟:恋人を奪われたと勘違いし、親友を斬り、死に際の親友から自分を斬ったことを悔やむなと言われ人間不信になった所。
★欧鵬:嫉妬に駆られて上官を殺害し、そうした自分の醜さを認めない所。
どうです? 人間らしく魅力的でしょう?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
区分:中国史(北宋~)
ジャンル:歴史小説
続編:あり
こんな物書きにオススメ:プロを目指す人!
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