デッドオブナイトラジオ特別篇!
イントロダクション@勇者たちとの邂逅、前編
ついに我が待ち望んだ日がやってきた。
勇者たちが絶望の山岳と深淵の洞窟を抜け、魔王城の目の前にまで辿り着いたのである。勇者とイリーナが我に宣戦布告してからきっかり二週間後に。
その間の魔王城の慌ただしさと言えば、地獄の魔女の釜底をひっくり返したかのように忙しかった。亡霊や死体が現世に復活し踊り狂う時の如くな騒ぎとも言えるかもしれない。今この瞬間にそれが報われると思うと感慨深くなる。
我はいつものように椅子に座り、水晶玉を使って勇者たちの様子を見つめている。
外ではデュランが勇者たちを見守っている。水晶玉だけではわからない周辺の様子も逐一伝えてくれる。ある程度拡大縮小はできるが、やはり視点が限られているからな。ユミルも我の傍らに立ちながら、様々な部隊に指示を伝えている。
勇者たちの様子はどうだろうか?
「ふむ。絶望の山岳と深淵の洞窟を抜けたからか、相当へばっているな」
「傷はそこまででもないみたいですけどね。僧侶と魔術師のMPがほとんど尽きかけているみたいです」
ふむ、MP切れか。僧侶と魔術師の奇蹟と魔術はパーティの生命線だ。言うまでも無いが。それが無いと言う事は……?
水晶玉を覗き見ているユミルが言う。
「あ、勇者たちは休息を取ろうとして結界魔法陣を張る準備をしてますね」
案の定である。
確かにその判断は間違いではないが、今この時だけは誤りだ。
我は別の水晶玉を取り出してデュランに向けて叫ぶ。
「デュラン、今すぐに勇者たちを城の中まで誘導しろ」
「マオウ様、既に遅いです」
デュランの吐いたため息がこちらにも聞こえてきた。
勇者を映している水晶玉には、黒い子ヤギが仁王立ちしている姿が見えた。
「むははははは! お前たちが勇者パーティか! 疲れている所申し訳ないがワシの遊び相手になってくれよな!」
実に楽しそうな馬鹿父とは対照的に、勇者パーティは子ヤギという可愛い姿とは不釣り合いなほどの威圧感を醸し出しているこの得体の知れない相手に警戒している。
「な、んだこの子ヤギ?」
「見かけに騙されるなよイリーナ。こいつは今まで戦ってきたどんな魔物より強い」
モンクのヤンの冷や汗が止まっていない。ギデオンも眉間に皺を寄せていつになく厳しい顔をしている。
「あまり使いたくなかったがユグドラシルの雫を飲むしかないか。MP回復の薬は貴重なのだが」
「死ぬよりはマシだろうギデオン。命あっての物種だ。何より僧侶や魔術師がMP切れではただのでくのぼうだからな」
パウロが言う。普段はブラックジョークや皮肉を言うのが好きな彼も、余裕がない。エルケは無言で忍び刀を取り出した。
勇者も鞘から神話の武器と言われる「グラウシーザ」なる剣を抜いた。刃は鈍色に輝いており、剣に刻まれている文様の力によって魔力を帯びている。
緊張した空気が場に流れている。
我はこめかみを手で抑えながらデュランに命令を下した。
「勇者たちを今すぐ城に誘導しろ。その後我が城に結界を張って誰も入れないようにする。なんとしても父を止めてくれ」
「了解です。いくぞ」
デュランの掛け声とともに五将軍達が勇者と父の間に割り込む。
さらなる増援かと勇者たちは更に警戒を高めたが、彼らが向いている方向が自分たちではない事を見て、何かがおかしいという事に気づいた。
「おい、勇者達よ。早く城の中に入れ。そうしたらゆっくり休める」
さすがに訝しんだイリーナがデュランを咎める。
「アンタ達は一体何者でどうしたいんだよ? 城の中の方がよっぽど危ないだろうが」
「普段ならな。今は違う、これは確実に言える。ともかくこの御方の相手は我々がする。お前たちは先へ行け」
訝しみながらも、デュランの言葉通りに彼らは進んでいった。
途中で父が勇者にちょっかいを掛けようとしたが、デュランが間に入ってそれを阻止した。
「アゼル様。貴方の相手は我らですよ」
「一体何のつもりだ。デュランのみならずゴルドにラルド、ンシドゥムにケルフィアまでワシに楯突くつもりか」
父が怒りをあらわにすると、デュランと他の四将軍は苦笑して肩をすくめた。
「いやはや我らもまさかこのような仕事を任されるとは思いもよりませんで。マオウ様直々のご命令ゆえ、申し訳ないですがしばらくお付き合い願いましょうか」
デュランが背中に背負っていたツヴァイヘンダーを持ち、構えた。
「マオウの命令か……。奴もやるようになったものだ。成長したな」
なにやら感慨に耽っているのか空を仰いでいる。
「しかし、お前達如きでワシを止められると本気で思っているのか!」
父は子ヤギから姿を変貌させ、ヤギの頭と人間の体に戻る。背中には黒く大きな羽根を生やして。禍々しい黒い闘気を纏い、その威圧感と怖気は魔族ですら心臓を鷲掴みされているような感覚を覚える程に凄まじい。脆弱な人間や魔物であればそれだけで即死する。
歴戦の戦士であるゴルドやラルドですらも、その圧力に一瞬怯んだ。
「やはり一筋縄ではいきそうにありませんな。では我らもこうしましょうか」
デュランが目配せをすると、ンシドゥムとケルフィアが頷く。
ンシドゥムが詠唱を始めると、地中がなにやら蠢き始めた。そして地面から生え始めたのは、腐敗した人や魔物の手であったり、あるいは骨だったりした。その生まれ出でたものにケルフィアは攻撃力と防御力が上がる補助全体魔法を掛けたのである。
あっという間に、五将軍と父の間には死者の軍勢が立ち並んだ。その数は数千、いや数万に及ぶだろう。
「もちろん貴方にはこの程度の軍勢では脅しにもならないでしょう。だが時間稼ぎにはなるはず」
「時間稼ぎ。なるほどそういう事か」
早くも父は我が意図に気づいたが、既に遅い。
勇者たちは城に入った。そして我は既に結界の魔法陣を城全体を覆い隠すように展開している。もはや今日一日は誰にもこの城に侵入する事は叶わない。
父にはしばらく将軍達と戯れてもらう。
さて、城に入った勇者たちだが。
まず城の中の雰囲気が禍々しいものではない事に気づく。またそればかりか、目の前にHP/MP完全回復の金色の泉がある事に目を疑っていた。
「一体全体マジでどういうことなんだよこれは」
イリーナが不思議がっている。
我の精一杯の歓迎を疑うとは、猜疑心が強いな。
「普通の人間達であれば敵の本拠地にこんなものがある事自体が罠だと思います」
ユミルが突っ込む。
そうかなあ。たまにそういうのもあったような気がするけどな。
恐る恐るエルケが近づき、水を一口だけ口にする。だから毒じゃあねえっつうの。
「マジで回復の水じゃん。うまい」
「ホントかよ……うわマジだ。ここの大魔王とやらは頭おかしいんじゃねえのか」
やっと飲んでくれた。これで一安心だ。頭おかしい呼ばわりをした奴は許さん。
そしてイリーナが壁に貼られている何かを見つけた。
「おい、これ見ろよ」
「順路……?」
矢印で示された道案内である。
そう、この日の為にわざわざ我が作った代物だ。いちいち迷われても困るからな。
「迷うのを懸念されるくらいなら、城に入った瞬間にシュートで落とせば良かったのでは?」
「……それではこの後のお楽しみが無くなってしまうだろう」
内心そうすればよかったと思ったが、今更計画の変更はできない。
腑に落ちない様子を見せている勇者パーティたちは、警戒を怠らないようにしつつも城を順路通りに進む。
「絶対罠だろこれ。最初の泉で安心させておいてドン! だ」
「いや、わからないよ。単に遊び心のある大魔王なのかもしれない」
やがて二階へと進み、大広間の扉前へと辿り着いた。
「行くぞ」
勇者が扉に手を掛け開く。ゆっくりと金属の軋む音を立てながら開かれた扉の先には、果たして「魔王」が居た。
黒いローブに身を包んだ、白骨の魔術師のような姿。これで大鎌でも持っていれば死神にも見間違える事だろう。そのくらい不吉な予感をさせる姿だ。
背丈は勇者たちの三倍以上もある。ハーフジャイアントのイリーナよりも大きく、それだけで威圧感を覚える。
その魔王はゆっくりと椅子から立ち上がり、彼らを見下ろした。
「ようこそ勇者諸君。我こそが大魔王である。ここまで楽しんでいただけたかな?」
「楽しんだ? いや城に関しては全く苦労せずに辿り着いたんだけど」
「それどころか泉もあって順路指定もあって至れり尽くせりだったよな」
もっと演技指導すべきだっただろうか。全く融通が利かない魔王だな。
「……? まあよい。諸君らはこれより我が手に掛かって消えるわけだ。何、心配はいらぬ。深淵には君たちの仲間がいくらでも眠っているから寂しくはない」
「その言葉そっくりお前に帰してやるよ、魔王」
勇者が言うと、魔王は笑いながら勇者に手を差し伸べる。
「時に勇者よ。君だけは別だ。もし命乞いをして我ら魔族に協力してくれるなら、我が願いが叶った暁には君に世界の半分を与えると約束しよう。どうかな?」
さて、ここでひとつの提案をしてみたわけだが、彼はどう答えるだろうか。
勇者はにやりと笑い、答える。
「断る。そのパターンはレベル1で装備ナシ全裸で元の世界に放り出される罠だろ?」
やはり断って当然だ。勇者たるものこうでなければな。
どこぞの勇者は欲に負けて受け入れ、レベル1で放り出されたらしいがな。
「なるほど。確かに君は勇敢な勇者らしい。だが同時に、愚かでもある!」
魔王は身を包んでいるオーラを増大させ、威圧感を増す。
空気が張り詰めて、レベルが低いものであればその威圧感だけで死んでしまうに違いない。彼にしてはよくやっている。素晴らしい。
「皆、行くぞ!」
応、と勇者パーティが叫ぶと同時に、まずイリーナが前に出て魔王を斬りつける。しかし魔王の防御フィールドに阻まれてその斬撃は体には届かない。
すかさず魔王が左手をイリーナにかざし、衝撃波を放つ。
「ぐっ!」
イリーナは吹き飛ばされ、壁に背中を強かに叩きつける。肺の空気が絞り出され呻くが、それでも彼女は立ち上がり前に出る。
イリーナが盾になっている間、パウロとギデオンがそれぞれパーティに補助を掛ける。
補助を受け終えると、勇者はすかさず動いた。まず勇者は自らの武器、グラウシーザに光属性のエンチャントを施す。エンチャントが施された剣は輝きを増し、太陽のように光り輝く。
「ぬっ、その光は」
音もなく勇者が広間を駆け抜け、魔王に斬りかかる。
イリーナの時とは異なり、防御フィールドを突き破りその斬撃は体まで到達する。
骨の体に刻まれる荒々しい傷。呻く魔王。
「ぐうっ」
次いで先ほどから気配を消していた忍者のエルケが魔王の背後から忍び刀による刺突を試みる。勇者の攻撃により防御フィールドが消え失せた魔王に、いとも簡単にその攻撃は通った。しかし骨であるためか、イマイチ効果は薄かった。
「やっぱだめか」
エルケは忍び刀を鞘に納め、殴打武器である角手を拳に装着した。
更に勇者の背後から追って迫って来ていたモンクのヤンが右の掌底を魔王の右腕に叩きこむ。
「せいっ!」
「ぬおおっ!」
魔王の右手は派手な音を立てて砕け散った。モンクの攻撃は修行の為か神聖属性を備えており、悪魔や魔族、アンデッドに対してはかなりの効果がある。魔王も例外ではなく、その連打に晒されてはひとたまりもないだろう。
勇者とイリーナ、更にエルケとヤンのアタッカーたちに間断なく攻撃を受けては最早成す術もない。
「おいみんな、離れろ!」
先ほどから詠唱を続けていたギデオンが叫んだ。
燃え盛る炎が彼の両手の中にあった。詠唱完了の合図である。
「
ギデオンが叫びながら両手を魔王に向けると、その超高火力の熱源は魔王の元へと向かい着弾炸裂する。あまりの熱と爆発のすさまじさに、大広間の壁や床、天井までもが震動している。魔王を中心に炸裂した爆発は、壁際にまで退避していてもその熱の一部分が伝わってくる。
元々核爆滅撃は別世界で起こした強烈な爆発を圧縮して呼び出し、その対象の元で炸裂させる代物である。故に狭いダンジョンでは禁じ手だ。ここのように広い空間で使わないと前衛が巻き込まれるし、崩落の危険性さえある。
「あっちい! 髪の毛が焦げたわくそったれ!」
イリーナが悪態をつくと、ギデオンが苦笑して返した。
魔術師でも伝説に名を遺す者しか習得できていない魔術を彼はついに覚えたというのだ。その探求心にはまさに尊敬の念を禁じえない。
魔王は圧倒的な熱量と爆発を受けて、ついには跡形もなく消え去った。
「これで終わりか? 魔王とやらも随分とあっけないのね」
エルケが言うと、勇者が浮かない顔をしている。
「ボクたちが強すぎた……なんてことは、ないよね」
その言葉に魔術師も同じように苦い顔をしている。
「勇者殿の懸念は当たっているようだな」
魔王が居た地点から、黒い影がいつの間にか伸びている事に彼は気づいていた。
「私のマオウ様の真似はうまかっただろう?」
現れたのはフェイクシャドウだった。
あらゆるモノに化ける事が出来る影の魔物であり、化けた対象の能力に成りすます事すら可能だが、我がマオウの力まではコピーする事は出来なかったようだ。
化け切れたらそれは流石に我と同じ存在となれるから是が非でも絶滅させるがな。
「やはりな。魔王がこれほど弱いはずがない」
「ふふふ。その通りだよ。マオウ様は私なんかよりも桁違いに強い。せいぜいあがいてみせたまえよ」
そして影は音もなく消え去った。
大広間に静寂が訪れる。誰も、まだ見ぬ魔王への想像を膨らませているのだろうか。最初に口を開いたのはヤンだった。
「こんなに弱い魔王を倒して凱旋したとあっては、逆に皆に笑われる」
「そうだよ、今度こそ本物の魔王を探してぶちのめすのさ!」
イリーナが強気に笑う。
「でもさ、これ以上順路の矢印はないじゃん。この先になんか通路があるわけでもなし」
勇者が言うと、エルケがにっこりと笑いながら自分を指さした。
「てことはさ、ウチの出番だよね。こういう時は何かしらの隠し扉やスイッチがあるもんだよ」
早速彼女は部屋を調べ始める。天井を見つめ、床や壁は何か変わったものがないかと丁寧に舐めるように手でなぞり、あるいは叩いて何か他と違う音がしないか耳で探る。
「と、見つけた」
さっきのギデオンの魔術によって焦げ付いた石造りの重厚な椅子の背もたれの背後に、スイッチらしきものを発見した。そう、それこそが我へと続く道なのだ。早く押すがよい。
「じゃあ早速押しちゃうか。ぽちっとな」
「あ、ちょっと待て! まだ罠の調査が終わってないんだぞ!」
エルケの叫びもむなしく、勇者がうっかりスイッチを押してしまった。
すると大広間全ての床がばっくりと口を開き、全てが奈落へと落下していく。
「最後の最後に、やっぱり罠があったんじゃねえかーーーー!!」
勇者の叫びもむなしく、彼らは下へ下へと落ちていったのであった。
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