DJマオウのデッドオブナイトラジオ
綿貫むじな
魔王の日々の一部
魔王城と大魔王
魔王城。
そこは魔族や魔物たちを統べる王が住まう場所。
魔族たちが住む世界は、俗に裏世界だとか闇の世界だとか、人間達にはそんな風に呼ばれている。
そして我は今、魔王城の玉座に座り、部下のオークジェネラルを見下していた。
部下は平身低頭し、わずかに視線のみを上げてこちらの様子を伺っている。
「……それで、人間どもに攻め込まれてあっさりと逃げたと」
きわめて威圧的に言い放つと、びくりとオークジェネラルは体を震わせた。
彼には人間達が住まう地上世界での、とある森の一部を占領する事を命じていた。
その作戦自体は成功したのだが、すぐに討伐隊を組んだ人間達に逆襲され、彼の兵士の殆どを失って逃げたのだ。
「……面目もありません」
「占領できたことに気を良くして、人間達の逆襲について考えていなかったのかな?」
「いえ、そんな事は! 私は予測を立てていたのですが、部下たちが思いの外調子に乗ったのが原因で……」
「部下を言い訳にするのか。そこをどうにかするのが部隊の長のお前の仕事じゃないのか。そもそも、自分たちなら占領を維持し続けられると言い放ったのは誰だったかな?」
我の問い詰める言葉に、いちいちびくびくと体を震わせて怯える将軍。針のむしろに座っているような気分だろう。
実際、オーク自体にはそこまで期待していなかった。将軍は混血の為か魔族連中と同じくらい知能は高いが、純粋なオークである部下たちは統制が取れる程知能が高いとは言い難い。これは半ば予想できた範囲の出来事だった。
だが、できると言い切って物事を達成できなかったのは、これは処罰の対象になる。いくら彼に同情の余地があれど、見過ごすことはできなかった。
「将軍。お前は残念ながら降格だ。オークの軍隊は解体する。役に立たなすぎる」
「そ、そんな! じ、慈悲を! もう一度チャンスを与えてください!」
足にすがろうとする将軍を蹴り飛ばし、一喝する。
「本来なら貴様は処刑されてもおかしくはないんだぞ。降格で済んだだけ有難いと思うんだな。実績を積み直すまでは我の前に姿を見せるな」
うなだれたオークジェネラルの両腕を、近衛兵の魔族二人ががっしりと掴み、城の外へと追い出した。しばらく彼は一兵卒として過ごしてもらう事になる。
それにしても、ジェネラル本人は優秀なだけに出自がオークであるが為にオークの兵士しか任せられないのは仕方がないにせよ、もう少しどうにかならなかったのか考える余地はあったはずだ。
「うむ。これからは出自を問わず扱える兵は自由に編成できるようにすべきだろう」
今度の会議に掛ける議題は決まった。
とはいえ、プライドの高い魔族たちは他の部族に率いられるのは嫌がるだろう。
そこをどうするか考える必要がありそうだ。
そんな事を考えていると、秘書のユミルが我の執務室に入ってきた。
「魔王様。そろそろ例の時間でございます」
「もうそんな時間か。では執務を片付けてすぐ下の666階まで行く。先に行って準備していてくれ」
「わかりました」
ユミルは一礼し、部屋を後にする。
我は息を吐き、天井を仰いだ。
「……」
望むと望まぬに関わらず魔王として生まれたこの身。
しかし魔王である以上は責務を果たさねばならない。この重圧を、誰がわかってくれるだろうか。わかるのは我よりも前に魔王をやっていた者くらいだろうが……。
我は立ち上がり、部屋を出た。
そしておもむろに長い廊下を歩き、エントランスに差し掛かる前の所で立ち止まり、壁を探る。
すると、壁の一部分がへこんで隠し通路が姿を現した。
その先にあるのはエレベータである。
地下666階に行くための、空間移動の魔法を除けば唯一の手段。
「行くか」
我は乗り込み、地下の奥深くへと進んでいった。
長い長い距離を降りていくエレベータの中にいると、さながら暗闇の中を突き進むモグラのような気分になる。
だが我は穴倉の中から世界に向けて、やらねばならない事があるのだ。
エレベータが666階を示し、扉が開いた。
その先にある部屋が、部下が我を迎える。
「今週もやっていくぞ」
「はい!」
我はブースの扉を開け、椅子に座り、マイクのスイッチをONにした――。
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