第22話
次の日、早朝から竜人たちはベレノス迷宮の入り口へと向かっていた。
ベレノス迷宮は過去に踏破されている迷宮で全三十階層まであり、今ではめぼしいお宝は存在してはいないため、魔物等の素材を目的とした中級の冒険者が主だった攻略者である。
迷宮には転移装置があり、五階層ごとに設置されている。竜人はマジックアイテムである転移球を金板一枚で購入することにした。
少し高いが安全はお金には変えられないので購入すると、アイテム袋の中に入れて万一のためにエリスに持たせておく。
二十階層までの地図も売っていたので、金貨五枚で購入するとマッピングのために白紙の用紙も購入することにした。
迷宮入り口は朝早いためかそれほど込み合ってはなく、警備兵にギルドカードを見せると竜人たちは迷宮に入っていった。
階段を降りていくと先ずは一本道が伸びていた。通路の広さは三人が横並びになってもまだ余裕がある程だった。
先へと進んで行くと広間に出て、そこから三方向へと道が別れていた。地図を確認し、とりあえず下の階へと進む通路を選択して進むことに決めた。
竜人は広間を出る前に陣形について決めることにした。
「まず先頭は俺が罠の警戒をしながら進むことにする。その後ろにエリスとミーナは横並びで左右の警戒をしながら付いてきてくれ。後方はアルに任せる。バックアタックを警戒してくれ。ピピは俺の肩に止まって主に上の方を警戒してくれ。クーは何かあったときにすぐに結界を張れるように備えていてくれ。なにか質問はあるかい。」
特に質問もなく皆了承していたので、一行は先へ進むために通路へと進入する。
異常報告があったのが主に下層にいる攻略者たちだったので竜人たちは十五階層より下の階層を調査地点と決めて進んでいく。
一階層の敵はゴブリンやコボルトといった低級のものがほとんどでエリスや変身前のアル、ピピによって倒されていった。
竜人は敵の数が多い場合や増援でやって来た場合のみ対応していた。
罠は即死性のものはなく、竜人に感知出来ないほどの巧妙なものもなかったため、さほど時間もかからずに攻略は進んでいた。
むしろ迷宮内では盗賊行為を行う者もいると注意を促されていたため、他の攻略者であるパーティーの方に気を配っていた。
順調に階層を進めていって五階層まで到着すると、広間には転移装置が設置されていて持っていた転移球の登録を行うと試しに転移を行うことにした。
転移装置を作動させると竜人たちは光の魔法陣に包まれて、次の瞬間には目の前の景色が入れ替わっていた。
地図を見て周囲を確認するとどうやら一階層の転移装置のところに来たことが確認がとれた。
時間は夕方前になっていたので、区切りも良かったことから今日の調査は終了することにした。
宿に戻った竜人たちは入浴を済ませてから夕食を取ることにした。宿屋の夕食は夕暮れの宿り木亭で出された料理には遠く及ばず、可もなく不可もなくといったものだった。
「明日から夕食はどこか外で食べてくるか?」
「そうですね。何処か料理の美味しいお店が見つかればいいんですが。」
「マリーちゃんのお父さんの料理の方が美味しかったね。」
「クライブさんの料理の腕はかなりのものだったから、あれほどの料理は難しいかもしれないけど、まだ食べたことのない料理を見つけるのも楽しそうだな。」
その後竜人たちは部屋でゲームをしたりとまったりと過ごし就寝することになった。
次の日も早くに出掛け、迷宮の転移装置で五階層に戻った竜人たちは下の階層へと進んでいく。一日で五階層を進むと決めた竜人たちは快進撃を続けていった。
そして、三日目の攻略を開始した。
下へと進むほど敵の強さは上がっていき、スライム、オーク、マッドドッグ、ゾンビ、スケルトンといった敵も出始めた。
「エリス右からゾンビの群れが来ている。対処を頼む。」
「はい。セイクリッドライト!」
エリスの魔法によってゾンビたちはその姿を消滅させる。
「さすが神聖魔法だな。アンデッド系は物理攻撃が効きにくいから、エリスやピピの魔法は頼りになるよ。」
「お姉ちゃんもピピもすごいね!」
竜人やミーナの話を聞いて照れ臭そうにするエリス。ピピもミーナに誉められてご機嫌な様子だった。
竜人たちはすでに十三階層まで到達していた。地図があり一直線に下へと向かっているとはいえ、この攻略スピードは異常だった。
神聖魔法を使えるエリス、強力な火の魔法を扱うピピ、素早く力強い攻撃と氷魔法を使うアル、堅硬な結界を張るクー、それらを強化できるミーナ、そしてあらゆる武術に長けた竜人の攻守のバランスのとれたパーティーの力でなし得ていた。
今日の目的地の十五階層にあと少しという所でそれは起こった。
前方の広間より戦闘音と冒険者と思われる人たちの叫びが聞こえてきた。
それを察知した竜人はどうやらかなり冒険者たちに分が悪い状況だと判断し、広間へと駆けつけた。
「ちくしょー、何だってこんなに魔物の大群が押し寄せて来やがるんだ。お前たちしっかり攻撃しやがれ。」
「リーダー、もうダメだ。このままだと全滅しちまう。諦めて逃げようぜ。」
そこで必死に戦っていたのは、以前町で獣人の奴隷を乱暴に扱っていた冒険者たちだった。
「くそ、しょうがねー。おいお前たち、俺たちが逃げきるまでここで魔物の足止めをしていろ。」
リーダーは奴隷の獣人たちにそう命令すると、部下の冒険者たちを連れて逃げ出した。
「そんな!ひどい!」
エリスは思わず叫んでいた。竜人はみんなに獣人たちを助けることを告げて駆け出した。
逃げ出した冒険者たちが竜人たちに気が付くと話し掛けてきた。
「お前らどうする気だ。まさかあいつらを助ける気か? 奴隷なんて助けたところでお前たちに何の得がある? まあ、お前らが足止めしてくれるならこっちは助かるがな。」
そう言って笑いながら逃げていく冒険者たち。
「うるせー、てめえら屑にはわからねー理由だよ!」
囮を引き受けさせられた三人の獣人たちは、魔物の群れに必死に抵抗していたが多勢に無勢でもうダメだと諦めかけたとき、竜人とアルが間に割ってはいると魔物たちを蹴散らす。
獣人たちは瀕死の状態になっており力なく崩れ落ちた。
「エリス、獣人たちの回復を優先してくれ!ミーナはアルたちの能力解放を頼む。クーは結界を張って敵を近づけさせるな。ピピは炎の魔法で敵との間に壁を作って増援を食い止めてくれ。アルは俺と敵を殲滅するぞ!」
皆が竜人の指示に動き始める。
「へ、バカなやつらだ。お陰でこっちは助かったけどな。」
「本当助かりやしたね。今のうちにこんなところおさらばしやしょう。」
冒険者たちは上の階へと戻る通路に進もうとした。だが、そこへ横の通路から新たな魔物が向かって来ていた。
バキッ、ドン。
「ぐえー」
「な、なんだ。何が起きた。」
後ろから聞こえてきた音にリーダーたちが振り返ると、最後尾にいた仲間が壁の方に吹き飛ばされており、背後には巨大な魔物が姿を表していた。
「バカな。サイクロプスだと。なんでこの迷宮にサイクロプスが居やがるんだ。冗談じゃないぞ!」
リーダーが思わず叫んだ。それもそのはずサイクロプスはAランクに位置する魔物。中級の迷宮とされるベレノス迷宮になど居るはずがなかったのだ。
そんなことなど関係ないようにサイクロプスは次々と冒険者たちに攻撃を仕掛けていた。
「こいつ、普通のサイクロプスよりも動きが速いぞ!」
何とかこの場を乗り切ろうとするも、すでに士気など存在しない一団には止められるはずもなく、殺られるのを少し先延ばしにすることしか出来なかった。
そしてついに最後に残ったのはリーダーだけになり、なすすべがなくなった。
サイクロプスの一撃を避けることもできずに吹き飛ばされる。
「そんな、こんなことが・・・・・・。」
その言葉を最期に二度と意識が戻ることはなかった。
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