第20話

 孤児院のために商取引に向かっていた竜人一行は、立派な二階建てを持つランド商会へとたどり着いた。

 中に入ると食料品や様々な道具類等並んでおり二階には武器防具類のコーナーらしく、日本の小さなスーパーほどの広さを誇っていた。


 近くにいた店員にギルドマスターのレクシーからの紹介で、この商会の代表に会いたい旨を伝えると、しばらくして店員が戻ってくると会って貰えるとのことだったので二階の部屋へと案内をされた。


「ようこそランド商会へ、私は代表を務めておりますエーマンと申します。以後お見知りおきください。」

「ご丁寧にありがとうございます。私は冒険者をしております柳竜人と言います。こちらは妹のエリスとミーナです。この度は時間を割いていただきましてありがとうございます。」


 挨拶を済ますと早速エーマンが質問をしてくる。

「それで本日はどのようなご用件でしょうか。レクシー様からのご紹介とのことでしたが。」

 竜人は徐にマジックバッグからオセロを取り出すとテーブルの上に置く。

「実はこちらの商品を販売したいと考えておりまして。」


 そう言うと竜人はエーマンにルールの説明をする。そしてエーマンは一戦対局をしてから深く考える仕草をする。

「単純なルールですが、なかなか奥の深いゲームですね。これならば貴族から庶民まで幅広く遊べるので流行りそうですね。」


「このオセロをランド商会の方で販売して頂きたいのです。ただし製造には孤児院の子供たちにも任せて頂きたいのです。そして販売されて得た金額から、一定の割合の料金を孤児院に支払うようにしていただきたいのです。」

 竜人は所謂特許料をオセロの売り上げから得ようと申し出たのだった。


「私がアイデアだけを奪ってしまうとは考えないのですか?」

 エーマンは竜人に鋭い視線を向けるとそう聞いてくる。

「ええ、レクシー様に紹介されたかたですし、商会を見させていただきましたが誠実な商売をされているように見受けられました。」


 エーマンは鋭い視線を解くと笑顔になり話始めた。

「試すような真似をしてしまい申し訳ありませんでした。商売は信用が第一です。相手を騙して儲けようとするのは三流の商人がやること。もちろんこのランド商会がその様なことをすることはありません。この商会を立ち上げた我がご先祖に顔向けができませんからね。」


 そうして竜人とエーマンは取引の話を詰め始める。

 取引は以下のように決まった。


 ①ランド商会は孤児院に対してオセロの売り上げの20%を支払う。

 ②オセロの作成には孤児たちにも関わらせること。その代金は別途本人に支払うこと。

 ③材料についてはランド商会が用意すること。

 ④報酬の支払いは毎月、月の始めに支払うこと。


「こちらでお間違いがなければ契約書にサインをお願い致します。」

 竜人は確認後契約書にサインをした。

「しかし、本当に売り上げの20%でよろしいのですか?」

「はい、ただエーマンさんにはお願いしたいことがあります。私たちはいつまでも王都には居られません。もし孤児院に困ったことがあった場合は、エーマンさんには力になって頂きたいのです。」

「分かりました。私で力になれることならば必ず。」

「ありがとうございます。」


「それで、一度孤児院の代表を務めているステラさんも交えて話を行いたいので、これから向かいたいのですが竜人さんはお時間大丈夫でしょうか?」


「はい、こちらもお願いしようとしていたところでしたので。」

 そう言うと竜人たちはエーマンを連れて再び孤児院へと向かった。

 孤児院に着くと竜人は庭にいたケイミーにステラを呼んでもらえるように頼んだ。


 中からステラが出てきたので竜人はお互いの紹介をする。そして中に通された一行は食堂のテーブルにつき、これまでの経緯と契約について説明をした。

「竜人さん、よろしいのですか。大金が手に入るかもしれないアイデアなのに、私たちに全部渡してしまうなんて・・・・・・。」


 竜人はステラの方を向くと笑顔で構いませんと告げる。

「これで定期的に収入が入ればもう子供たちの衣食住について心配はなくなります。それに子供たちにも安定した仕事があればいずれ自立するときにも困らないでしょう。」

 ステラは竜人の言葉にただただ感謝の言葉を告げていた。


 そして、子供たちを集めたステラは仕事のことについて説明をすると、全員が頑張るとの意思を表明していた。

「エーマンさん、よろしくお願いいたします。」

「いえ私にとってもありがたいお話ですからね。こちらこそよろしくお願いいたします。」


「そうだ、エーマンさん。こちらの建物の修繕をしたいのですが業者に心当たりはありますか?」

「ええ、それでしたら何店かあります。」

 それを聞いた竜人は修繕費用の大まかの料金を聞き、少し多目の白金貨二枚を渡すと修繕の依頼をした。


「料金が余りましたら孤児院に必要なものをステラさんに聞いて売っていただきたいのですが。」

「分かりました。ではそのように手配いたします。」


 ステラはこれ以上なにかをしてもらうわけにはと断っていたが、竜人はごり押しぎみに受け取らせた。

「本当にありがとうございました。このご恩は決して忘れません。もし私に何かお役に立てることがありましたらなんでも言ってください。」

「いえ、俺たちに出来ることはここまでです。子供たちのことをお願いします。」


 そう言うと孤児院を後にしようとする竜人たちの所にケイミーが走ってやって来た。

「竜人お兄ちゃん本当にありがとう。これ私の宝物なの受け取って。」

 そう言うと鉢に植えられた白く美しい花を手渡された。


「良いのかい? 大切な花なんだろう。」

「うん、竜人お兄ちゃんには私たちの居場所とステラ先生を守ってもらったから。」

 竜人はありがとうとケイミーに言うと頭を撫でた。

「また来てねー」

 手を振りながら言うケイミーと孤児院の子供たちに、竜人たちも手を振り返しながら夕暮れの宿り木亭に帰っていった。


 夕暮れの宿り木亭に着いた竜人は中に入ると、受け付けにはマリーが座って接客をしていた。

「ただいま~。」

「お帰りなさい皆さん。」

 竜人たちが声をかけるとマリーは笑顔で出迎えてくれた。


「もうすぐ夕食が始まりますが食事にしますか。」

 そう言われたので夕食をお願いすることにした。マリーは後でまた部屋に行って良いか尋ねてきたのでいつでも来て良いよと伝えると、ミーナとオセロで遊ぶ約束をしていた。


 食事を終えて部屋に戻ると、それぞれお風呂場に向かって今日の疲れを癒すことにした。

 竜人がお風呂から戻るとマリーが部屋に来ており、ミーナやエリスとオセロをしながら動物たちと戯れていた。


 勝負の行方はミーナが経験の多さから優勢に進んでいた。竜人はそんな光景を眺めながらオセロをもうひとつ作ろうと作業をしていた。

 それに気づいたマリーが竜人に話しかけてきた。


「竜人お兄ちゃん、オセロもうひとつ作るんですか?」

「ん? ああ、クライブさんにひとつ頼まれてね。マリーが気に入っていたから是非にと頼まれたんだよ。」


 それを聞いたマリーはとても喜んでいた。この世界にはあまり娯楽というものがないのかもしれない。

 それにこれならばからだの弱い母親とも遊べると思っているのかなと竜人は感じていた。


 そして、竜人がオセロを作り終わる頃にはゲームをしていた三人も一段落が着いたようで、マリーは部屋へと帰っていった。

 今日一日は色々なことがあり疲れていた竜人たちは、明日に備えて就寝することにする。


「兄さん、孤児院の件ありがとうございます。」

 突然竜人にお礼を言って来たエリスに対して、エリスの方に向き直すと頭を撫でながら言う。

「別にお礼を言うことじゃない。ケイミーは俺にとっても友達だからな。友達のために何かをすることは当たり前のことだから。」


 そう言うとエリスは竜人に抱き付いてきた。ミーナもつられて抱き付いてきて、竜人はしばらく二人の頭を撫で続けていた。

「明日は何か依頼を受けるとするか。当分は情報集めで王都からは離れられないし、良さそうな依頼が有るといいんだけどな。」


 二人と動物たちは竜人の提案に了承する返事を返すと、就寝することにした。

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