第17話
翌朝、竜人たちは朝食をしているとクライブから昨夜にマリーと一緒に遊んだオセロについて聞かれた。
実物を見せて説明をすると是非譲ってほしいと言われたので、新しいものを作成したら渡す約束をした。
そのお礼に朝食の料金をおまけしてくれ、昼食のお弁当を渡された。
「それじゃ行ってきます。」
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
マリーに見送られて出発した一同は、アテルナの町の冒険者ギルドマスターから渡された手紙を手にして、王都の冒険者ギルド南支部を目指して移動していた。
王都は他の町のと違い多くの人々が行き交い、中には獣人やドワーフといった種族も多く見られていた。
「これは凄い人の数だな。前に行ったことのある東京の駅前と同じくらいの人はいそうだぞ。」
「凄く人が居ますね。これ程の人はお祭りの時でも見たことがありませんね。」
エリスはそう言うと迷子になら無いようにとミーナの手を繋ぐ。ミーナは物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回していた。
「今日の用事が済んだら色々と見て回ろうな。」
竜人はそう言うとミーナの頭を撫でていた。ミーナは嬉しそうに「うん!」と言って頷くと、もう一方の手を竜人に伸ばして手を繋ぐ。
周りの人に道を尋ねながらしばらく進むと、冒険者ギルドの看板を掲げた建物が目に入ってきた。
「ようやく着いたな。どんな人たちがいるか分からないからみんな注意するようにな。」
そう言って竜人は先頭に立って冒険者ギルドの中へと入っていく。
中に入ると一階には受付と掲示板が多く設置されており、二階にはちょっとした酒場のようなスペースが用意されていた。
中には多種多様な種族、武器を持った冒険者たちが掲示板を見て相談していたり、受付にもすでに長い列が作られていた。
一目見て強いと分かる人もちらほらと見受けられた。
とりあえず比較的空いている列に並んだ竜人は、30分くらいして漸く順番が回ってきた。
「お待たせしました。受付を担当させていたただきますカーラと申します。本日はどのような御用件でしょうか?」
担当の受付嬢は猫耳を付けた活発そうな獣人であった。竜人はアテルナのギルドマスターの手紙を見せると、ギルドマスターに取り次ぎをしてほしいと伝えた。
「ちょっとごめん、受付の担当代わってくれる?」
手紙の差出人を確認したカーラは直ぐに受付を他の職員に頼むと、竜人たちに少し待つように伝えて奥の扉へと向かっていった。
しばらく待つとカーラが竜人たちのところへ戻ってきた。
「お待たせしました。ギルドマスターがお会いになられるとのことですので、私の後に付いてきてください。」
カーラの後に付いて奥の扉を潜ると二階へと上る階段があった。二階に上がると廊下の突き当たりに重厚な扉が存在していた。
「失礼します。先ほどお伝えした冒険者の方をお連れいたしました。」
カーラは扉をノックすると室内に居る人に声をかけた。
「入りな。」
中から短い了承の返事があり、カーラは扉を開いて竜人たちを中へと案内をする。
「ギルドマスター、こちらの方々が先ほどの手紙にありました冒険者の人達です。」
カーラがギルドマスターに話しかけるのを聞き、竜人は自己紹介をする。
「はじめまして。冒険者ランクCの柳竜人と申します。こちらに居るのが妹のエリスとミーナです。この度は私たちの為に時間を割いていただきありがとうございます。」
そう言うと竜人たちはギルドマスターに一礼をする。
「ほう、あのじじいの紹介した冒険者にしては礼儀正しい連中のようだな。私はこのギルドのギルドマスターをしているレクシーという。堅苦しいのはあまり好きじゃないからな。他の目がなければ畏まったしゃべり方や敬称等は構わん。それでどの様な用件かな?」
王都冒険者ギルド南支部のギルドマスターはレクシーというエルフの女性であった。
見た目は20代半ばにも見えるが、エルフという種族は長命であることからその通りの年齢とは判断が効かない。
まして、ギルドマスターを勤めるほどであることから年齢はかなり上であるのだと竜人は判断した。
「ありがとうございます。少し伺いたいのですがレクシーさんとベールさんはどういった関係なのですか?」
「あのじじいとは昔、同じパーティーメンバーで活動して居たことがあってな。じじいが冒険者を引退することになってパーティーも解散になったのさ。その後は私はここでギルドマスターにと声が掛かったという訳さ。」
「そうでしたか。実はレクシーさんにお話ししたいことがありまして、出来れば内密にお願いしたいのですが。」
そう言うと竜人はカーラの方に視線を向けてからレクシーへと視線を戻す。
「カーラ、下がって良い。しばらくの間この部屋には誰も通さないように頼む。」
「畏まりました。では、失礼します。」
そう言うとカーラは部屋から出ていき、竜人たちとレクシーだけが残った。
「それでは話を聞かせてもらおうか。」
「はい、レクシーさんは神の使徒という人族史上主義の集団について心当たりはありますか?」
その話を聞いたレクシーは顔を歪めながら竜人に問い返す。
「あの不愉快な集団がどうした?」
「実は王都に来る道中でその一団に遭遇しまして、獣人の一家が襲撃され皆殺しにされました。こちらがその一家の持ち物と身分証明です。」
そう言うとアイテム袋から持ち物を取り出すと机の上に置く。レクシーが血に濡れたそれらを確認すると竜人に再び問う。
「その連中どもはどうした?」
「全員切り捨てました。」
竜人は無表情にレクシーへ問い返す。
「そうか。」
それだけを言うとレクシーは目を閉じると深く溜め息を付いた。
しばらくの間沈黙が支配する部屋で、やがてレクシーが口を開いた。
「この数年の間に似たような事件が多発している。なかなか尻尾を掴ませない連中でな。かなり組織だった集団ではあるようなのだが。」
「倒した連中も身分など分かるものは何も持っていませんでしたが、こちらのマジックバッグを所持していました。中身の危険なものなどはその場で破棄してしまいましたが。」
そう言って竜人はマジックバッグをレクシーに差し出す。中身を一通り確認したレクシーは竜人へと返却する。
「確かに身元が分かりそうなものは無いようだな。そいつはお主が受け取っておけ。」
「いいんですか?」
「構わない。犯罪者を討伐した場合原則としてその持ち物は討伐者のものだし、お主が持っていたほうが有効に活用も出来るだろう。」
レクシーはおもむろに質問してくる。
「それでこの事は兵士には報告はしてあるのか?」
「いえ、襲撃者の話から他の仲間が何処にいるかも分からないので、信頼のおける人にしか話せないと思い報告はしていません。私が倒したことが広まると周りも狙われる危険があるので。」
「賢明な判断だな。この事は私のほうから報告しておこう。勿論お主らのことは黙っておくから安心しろ。」
「ご配慮感謝します。」
「良い、むしろ感謝をするのはこちらのほうだからな。それに報奨を渡すことも出来ないしな。それよりも、これからは気を付けて行動するのだぞ。まだ小さい妹もおるのだし。」
レクシーはミーナのほうを見て竜人にそう忠告をする。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんが居るし、アルたちもいるもん」
ミーナはアルたちを抱き締めながらそう言うと、アルたちは鳴き声をあげてそれに答えていた。
レクシーは動物たちを見つめると目を細めて観察していた。
「ほう、どうやら普通の動物とは違うようだな。周りにいる精霊たちもざわめいている。」
「はい、とても頼りになる仲間たちです。」
そう竜人は頷き返しもう一つの用件について切り出し始めた。
「レクシーさん、もう一つ尋ねたいことがあるのですがいいですか?」
「構わないよ。答えられることかどうかは分からないがな。」
竜人はこれまでの事を異世界転移以外について話すことにした。そして、事故によって姉と離ればなれになり行方を探していることを告げた。
「姉と離ればなれになった時には冒険者登録はまだしていなかったので、確実に冒険者になっているとは言えませんが、もし情報が入りましたら私が探していることだけでも伝わるように協力をお願いしたいのですが。」
「まあ、それくらいなら手配しても構わないが、お主の姉は冒険者が務まるほどの腕はあるのか? もし町の中で働いていたら見つけるのは難しいぞ。」
「それについては心配はありません。実力は私など比べるべくもなく有りますので。それに姉がおとなしく町中で働いているとは思えないのですよ。」
「お主がそう言うのならばそうなのだろう。では、そちらのほうも手配はしておこう。」
「ありがとうございます。しばらくは夕暮れの宿り木亭に泊まっていると思いますので、至急の用件がありましたらそちらにお願いします。それでは失礼します。」
竜人はそう告げるとギルドマスターの部屋を後にした。
「なかなか面白そうなヤツが来たじゃないか。あのじじいも気に入るわけか。」
誰もいなくなった部屋でレクシーは誰にともなく呟いていた。
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