小論文的読書家感想文
白浜 台与
第1話 民俗学的「ももたろう」
序論・あらすじ
この室町時代から伝わるという童話は、
桃から生まれる。という奇怪な出生を経て子の無い老夫婦に育てられた少年が、
犬、猿、雉という戦闘力的に心配な動物ばかりを味方ではなく、
吉備団子一個で家来にするという従属関係を結び、鬼が住まう鬼ヶ島へ赴き成敗するという勧善懲悪ものである。
問題提起・桃太郎の生育期
まず注目したいのは、植物の果実から生まれるという出生の為に人間の血縁上の両親をもたず、川で老婆に拾われ老夫婦に育てられた。
という桃太郎の幼少期に、同世代の友達は登場しない。
おじいさんとおばあさんの生活環境は、夫は山へ芝刈り。妻は川へ洗濯に、というごくごく普通の農家の夫婦である。
この物語に、室町時代にあったであろうムラ社会の密な(平成の世に比べると密すぎた)人間関係が出てこない。私はここで一つの推論を立てる。
桃太郎は、桃から生まれたという特殊な出生と尋常でない怪力を持つせいで、
世間から隔絶されて育ったのではないか?
だから、おばあさんは「川で拾った」といういいわけ一つで、
子供が生まれすぎた農家で間引きとして行われた「子捨て」の救済役を買って出て、出自不明の桃太郎を養育したのだ。
故に、桃太郎には人間の友達はなく、なんとなくアイコンタクトで意志疎通出来る
犬、猿、雉としか契約が出来なかった。
問題提起・桃太郎は善か?
特筆すべき点は、吉備団子一個で自分より力の弱い動物を家来にするという主従契約をするのは、室町時代ではそれで成立していたであろうが、労働基準法を無視したブラック企業の経営者的なやり方を、
既に少年期に会得していたという事である。
さらに、海を越えた先の鬼ヶ島まで鬼を成敗しに行く。
という急すぎる展開に首を捻る所がある。
海の向こうの住人の鬼たちが、桃太郎が住んでいたであろう農村地帯にわざわざ実害を与えに来ていたのか?
鬼たちは金銀財宝を隠し持っていた。つまり鬼は桃太郎たちよりすでに裕福で、わざわざ海を渡って農村から略奪行為を行っていたのか?
鬼側にはメリットが無さすぎる。
鬼たちを完全悪と断じるのは、性急と言えよう。
視点を極めて客観的に考えてみよう。
この時代、鬼ヶ島と呼ばれる隔絶された孤島で豪華な財宝を隠し持っていた異形の鬼の正体とは、
高い技術を持っていたが故に裕福になり、異形な故に人の目を避けて暮らしていた渡来人たちの末裔ではなかったか。
「こそこそしてっから、何か隠し持ってやがんだ」という噂をききつけた桃太郎が、
よし、襲って奪ってやろう。という邪な考えを持ち、鬼ヶ島に奇襲を掛けて暴行、略奪を行った示談では済まされない悪事が暴かれるのだ。
しかし、結果的に桃太郎ユニットは勝ち、鬼族は負けたのである。勝った者が自分の正義を押し付けるのが現在でも罷り通る力のルール。
あのヅラっぽい髪型をした大統領がテレビの向こうで執行している行為を見れば分かりやすいであろう。
結論
かくして勝者となった桃太郎は、金銀財宝を隠し持つという脱税行為をしていた鬼たちを「違法だから頂く!」と手前勝手な正義感で鬼たちから全てを奪い、かつ力で蹂躙して降伏させた、
室町時代にも居た、悪質マルサ役人なのである。
鉄太郎教授
「次回、ヘンゼルとグレーテルに倫理はあるか?をテーマにする。原稿用紙五万枚以内でまとめるように。では来週」
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