1-12:マモリ3

三人はリッカの病室へとやってきた。ベッドに横たわるリッカはライチの似顔絵の通りの顔立ちだった。

「これは、ちょっとマズイわね。完全に染まっている」

マモリの表情は珍しく険しい。


人の心には色がある。それは魔法が使えるかどうかにかかわらない。心が良い状態であれば、より高い彩度をもって輝くが、不安や恐怖で押しつぶされれば、その色は彩度を失う。そして、完全に彩度を失った時、その心は明度も失い、黒に染まる。


「染まっている?ってどいういうこと?」

「心が死んでいる状態よ。最後の力を使ってミライに助けを呼んだってわけね」

「それじゃあ、もう助けられないってこと……?」


「いや、今回はまだ間に合うかもしれない」

落ち込むミライにライチは可能性を指し示す。

「通常、心が完全に黒に染まってしまった場合、もうどうしようもない。でも、例外がある。他者の黒魔法によって塗りつぶされている場合だ。リッカちゃんはおそらくそれだ」


「つまり、"染戦"で黒魔法を倒せば」

「ああ。それに、俺たち魔法使いの本当の仕事はそれなんだ。黒に染まりそうな人を助けること。そうしないと、世界が黒に染まってしまうからね」

それを聞いてミライは安心した。


「アタシだってそんな世界イヤだしね。アタシももちろん協力するよ」

マモリはやる気満々だ。

「ただ、今回はミライ君の協力も必要なんだけど……うーん……」

「どうしたんですか?」


「本来、黒に染まりそうな人を助ける時には、その人にとっての希望だったり大切なものだったり、そういうものを探して持ち込むんだ。その色で彩度を取り戻すわけなんだけど、今回はそれがキミなんだ」

「僕……ですか?」


「ああ、リッカちゃんは、最後の力を振り絞ってまで、キミに力を託した。それほどに、キミが希望だったんだ。だからキミが不可欠なのさ」

「だったら、もちろん僕も行きますよ!」

「なら、よく聞いて欲しい」

ライチの目つきが今までになく真剣に変わった。


「これから俺たちが潜るのは、彼女の心の中だ。そこで魔力が尽きるということは、もう戻ってこれないということになる。いいかい?絶対に無理をしてはいけない。それから、準備も万全に」

「そうそう、アタシみたいにね」


マモリはいつのまにか白いリンゴをかじっていた。

「ねえ、それ、僕にも教えてよ。色を吸い取るやつ」

「ん。よろしい。それじゃ先輩魔法使いのアタシがやり方を教えてあげちゃおう」

マモリはまんざらでもなさそうだ。

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