誰にでもできる!「誰にでもできる影から助ける魔王討伐」の僧侶アレスを影から助けよう!
ファミ通文庫
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異端殲滅官の褒賞①
「あれ? これなんですか?」
アメリアが机の上に置きっぱなしだった一冊の薄い本を持ち上げた。長いまつげの下、藍色の瞳がぱちぱちと瞬きをする。
教会の備品だが、異端殲滅官に配られる物なのでアメリアが知らないのも無理はない。話してなかったしな。
「あー……教会からのバックアップの一覧だよ」
「バックアップ……ですか」
クレイオ・エイメンの配下には
クレイオは運営ルールを考える際に、まず異端殲滅教会に適用してみるそうだ。メンバーの平均レベルが高く、割となんでも耐えきれてしまうためだろう、まことに嘆かわしい。
そんなこんなで異端殲滅教会には変わったルールがいくつかあったりする。アメリアの持っている本――カタログもクレイオの考えたルールの一つだった。
そう、バックアップという言い方をしたが、正確に言うとそれは“報酬の一覧”だ。
目でこちらに伺いを立ててきたアメリアに、小さく頷く。
アメリアは指先で表紙のタイトルを一度なぞると、ぱらぱらとページを捲り始めた。
「……上級
「ポイントを貯めれば貰えるんだ」
「……」
アメリアが顔を上げ俺を見る。
完全なポーカーフェイス。表情こそ変わってはいないものの、その視線から呆れているような感情が伝わってきた。
気持ちはわかるがそんな目で見るな。
「
「……誰が考えたんですか?」
「クレイオ以外に誰が考えるっていうんだ」
あの男はなかなかどうして頭のネジが吹っ飛んでる。
徹底的な成果主義。
成果を数値という形で可視化することにより、異端殲滅官同士の競争心を煽り、限られたリソースを公平に配分し、より多くの神敵の討伐を達成させる。
おそらく悪ふざけも入った制度だろうが、メンバーの評判は悪くない。みんながみんな、頭のネジがぶっ飛んでる証左だった。
職務に必要な備品の申請自体は、ポイントがなくても出来る。しかしポイント交換で受け取れる物資は、届くのが早いのだ。
そもそも標準で与えられる予算はかなり渋く、ポイント交換で迅速に物資を入手することで俺たちは闇の眷属をスムーズにぶっ殺すことができるのだ。
金に変えることもできるが、そんなことをする連中はいない。リスクとリターンが見合っていないのだ。異端殲滅官になれるほどの実力があれば、金稼ぎなどいくらでもできる。
アメリアの視線がカタログの上を滑る。
「色々あるんですね……食べ物に武器……毒薬……?」
「……使うこともあるからな。ちなみに品目は個人個人で違うらしい」
それぞれの実績に応じて品目の種類が変わってくるらしい。
供給ルートは知らされていないが、報酬の種類や内容から察するに、それぞれのメンバーが過去に助けた連中から寄付という名目でもらっているのだろう。バックアップの一覧というのも一概に間違えてないと言える。
「馬に船のチケット……地位? 地位ってなんですか?」
「権力は便利だ。金があれば手に入る類のものでもない」
「答えになってません」
地位は必要とされるポイントがかなり低いが、交換したことはない。
今のところなくて困ったことはないし、変な
噂なので本当かどうかは知らないが、教会の根はかなり深いのでありうる話だ。ポイントで爵位貰えるってどうよ?
アメリアが感嘆のため息を漏らし、一度顔をあげた。
俺は初めてカタログを貰った時、げんなりしたが、どうやら彼女は俺よりもよほど精神が強いらしい。
「面白いですね。個人の好きな物と交換してもいいんですか?」
「ああ。元々は報酬の一種だからな。中身もほとんど娯楽品だろ」
酒に食べ物。高級宿の宿泊券に宝石の類。早い者勝ちだが、著名な画家が描いた絵など、貴重な芸術品もある。交換した者がいるかは知らないが、長いことカタログに載っているので多分いないのだろう。
というか、俺の知る限り
だが、様々な絵が描き込まれているカタログは見ているだけでも少し楽しいものだ。
アメリアもどこか楽しそうな無表情でカタログを捲っている。いや、矛盾があるけど本当に、楽しそうな無表情。
「確かに……そうですね。アレスさんは何と交換してるんですか?」
「……いざという時のための回復薬が多いな。後は魔導具の類とか……」
「……娯楽品……?」
ワーカーホリックでも見るような視線を向けてくるアメリア。
働いているところしか見せていないせいだろうか、アメリアの中での俺は仕事しかしていない人間らしい。この前、本人が言ってた。
「勘違いするなよ。他の連中も似たようなもんだ」
「……一応聞きますが、何でですか?」
「死人にポイントは使えない」
「
今更気づいたのか。
異端殲滅官の大部分が任期中に死ぬのだ。皆死ぬまで任務を遂行しているとも言い換えられる。
クレイオは報酬の意味合いで制度を作ったのかもしれないが、異端殲滅官は皆、自分の意志で任務についているのだ。いわば――異端殲滅こそが娯楽のようなもの。故に、皆ポイントを持て余している。
イカれた連中の事を思い出し、ため息をつく。まともなのは俺だけだ。
と、そこでいい事を思いついた。
人数が足りないのでアメリアにはあまり休暇をあげられていない。いくら給料を貰っているのかは知らないが、今の任務に相応しい額ではないだろう。
最近はポイント交換を利用する事もなかった。金も時間もないが、ポイントだけは有り余っている。
アメリアは物欲が強いほうではなさそうだが、品目はかなりあるし、一個くらい欲しいものが見つかるはずだ。
「そうだ、アメリア。最近頑張ってるし、なんか一つ交換していいぞ」
「……へ?」
鳩が豆鉄砲を食ったような表情をするアメリア。
「休みも満足にやれてないし、俺からの礼だと思ってくれ」
物くらいしかくれてやれないが、少しでも溜飲を下げて欲しい。
アメリアはしばらく沈黙を保っていたが、やがて感極まったように言った。
「そんな…………たった一つですか?」
何個欲しいんだよ。
「じゃあ、私はそのアレスさんから貰った権利を行使して三つ選ぶ権利を望みます」
誰がそんなトンチみたいな事言えと言った。
「そんなのカタログに載ってねぇだろ。じゃあ三つ選べよ」
「ポイントは幾つまでですか?」
「覚えてないが大体はいけるはずだ」
「……ワーカーホリック」
アメリアがぼそっと冷たい声で呟いた。
なんか最近、上司に対する態度じゃないような気がするが、苦労をかけているので何も言えない。本気なのか冗談なのかわからないが、心配してくれているのも理解している。
カタログを見るアメリアの目はとても真剣だ。頬杖をついてじっと待っていると、
「藤堂さん達のサポートに使うアイテムを選んだ方がいいのでは?」
「変な気を使わなくていい。最初に見繕ったが、ろくなアイテムがなかった」
奴ら、金と物資だけは豊富だからな……カタログも万能じゃない。
俺の言葉にアメリアは小さく頷き、首を傾げる。
「うーん……じゃあ、娯楽品から選んだ方がいいですかね」
「ああ。遠慮なく好きなものを選ぶといい」
「むー………………」
品目の数が数だ。アメリアはしばらくむーむー唸っていたが、やがて決断したように顔をあげた。
「じゃあこの、アレスさんと行く三泊四日の旅にします」
「そんなのねえよ!?」
大体もう何泊何日かもわからん無期限魔王討伐の旅をやってるのに、まだ満足できないのか。
アメリアが俺のつっこみにどこか残念そうな表情をした。
いや……そんなに行きたいなら俺は別にいいけど……。
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